7-1 もう一つの狐面
どうも、Prasisです。
大変お待たせしました。七章が書き終わりましたので、これより投稿を再開します!
第七章~マキリスエスケープ~どうぞお楽しみください!
宇宙には知的生命体の住む星は至る所に存在している。
しかし、宇宙は非常に広大なために星同士の距離は離れており、星から星への移動は簡単なものではなかった。
だが、時間の経過と共に宇宙空間を高速で移動する様々な技術が確立され、近隣の星から星への移動はさして難しくない時代がやって来た。
とはいえ星間移動にはやはり長い時間を必要とし、ある程度離れた星へ行くとなると数ヵ月もの時間が掛かる事も珍しくないのが普通だった。
そんな時代は非常に長く続いたのだが、近年遂に星間移動を一瞬にして行うことが出来る技術が生まれた。
それはワープポータルと呼ばれる装置であり、離れた空間と空間を繋げることで一瞬にして長距離を移動出来るという技術だった。
この技術により場合によっては何年、何十年もの航行が必要だった星へも一瞬で行くことが可能となったのだ。
この技術を発明したトラスフェル社は設立されてまだ十年ほどの新興企業だが、この技術を独占する事で一気に大企業の仲間入りを果たしたのだった。
そして現在、そんなトラスフェル社の応接室にある男がいた。
男は百五十センチほどの低めの身長でほどよく筋肉質な体をしていた。
そう珍しくもない小柄な男性ではあったが、その服装、黒を基調とした上品な質感の軍服と、その頭に着けた狐の面が彼の存在感を強めていた。
彼は応接室の椅子に深く腰掛けると油断のない眼差しで入り口を見つめており、その後ろには鼠面を着け軍服に身を包んだ二人が控えていた。
そんな中、応接室に近付いて来る足音が響く。そしてノックも無しにドアが開くとスーツに身を包んだ中年の男が入って来た。
目の下にクマをつくり、痩せぎすな中年の男は自身に視線を向ける軍服の男の目を真っすぐに見返すと向かいの椅子まで歩いて行きドカッと深く腰を掛けた。そして手を組みながら鋭い視線を飛ばす。
「それで、一体私に何の用だ? 宇宙警察の長官殿」
「随分と久しぶりだね。ギーラ。調子はどうだい?」
「前置きはいらん。さっさと要件を言え」
中年男のギーラが目を背けることなくそう言い放つと宇宙警察の長官であるフィヨルド・ハートレイは目を細めた。
「僕が来た要件は分かっているよね?」
「さっぱり分からんな。長官殿がわざわざやって来る用事などに心当たりはない」
「まだ恍けるつもりかい? ここ数ヶ月にわたってフロラシオンで起きた事件。その事件では複数のゲートが確認されている。ワープポータルはトラスフェル社が独占している技術だったよね?」
「それで、私達が犯罪に加担したとでも言うつもりか? それについては再三回答をしているはずだ。調査も行ったが、社内のワープポータルがその事件に使用された履歴は確認されていない」
「その調査結果をはいそうですかと受け取ると思うのかな?」
「ふぅ、無意味なやり取りだ。調べたければ勝手に好きなだけ調べるといい。何度調査しようが私達は関与していない。とんだ無駄足だな」
「あくまで自分は関係ないと主張するんだね。それじゃあ、確認されたゲートは一体何だと言うのかな?」
「はぁ、過去には輸送中に盗まれたワープポータルも存在する。それを使用しているのかもしれないし、誰かが模造品を作った可能性もある。私は忙しいんだ。これ以上私の時間を無駄にはしないでもらいたいものだな」
フィヨルドの考えではギーラは高確率で黒なのだが、どうやら認めるつもりはないらしい。特に動揺している様子も見られないし、恐らく隠蔽は既に済んでいるのだろう。
だからこれ以上調査をしても何も見つからないだろうが、引き下がりはしない。
何も見つからなくとも牽制にはなるはずだ。
「そう、それじゃあ存分に調べさせてもらうとしよう」
「好きにしろ。おい」
「はっ、お呼びでしょうか」
ギーラが声を掛けるとドアを開けて一人の男が入って来た。つまり、会話の内容は外に筒抜けなわけだ。こちらが下手な事を言えばそれを盾にでもするつもりなのだろう。全くもっていやらしい限りで。
「長官殿達を案内してやれ。私はもう仕事に戻らせてもらう」
そう言って立ち上がるとギーラは応接室の出口に向かって歩いていく。
そしてフィヨルドの横を通る時、二人は目を合わすことなく言葉を交わす。
「時間を取らせて悪かったね。ギーラ。また来るよ」
「もう来るな。仕事の邪魔だ」
短いやり取り、ギーラは足を止めることなく部屋から出ていった。
フィヨルドは椅子に腰をかけたまま鋭く目を光らせながら何かを呟いた。
「はい? 何か仰いましたか?」
「いや、何でもないよ。待たせて悪かったね。それじゃあ案内してくれるかな?」
フィヨルドはゆっくりと立ち上がると案内を命じられた社員について歩いていく。
その背から立ち上る暗い感情に気付く者は誰もいなかった。
*****
「やぁ、フィヨルド。首尾はどうだい?」
宇宙警察の長官用に設えられた部屋。
そこに頭の側面に狐の面を着けたもう一人の男、ロナルドがやって来た。
親し気に手を振るロナルドに対してフィヨルドは目を伏せた。
「残念ながら良くないね。なかなかギーラは尻尾を掴ませてくれないよ」
「そうか。私としては喜ぶべきか残念がるべきか分からないね」
「……まだあんな男を信じているのかい? あれは敵だ。紛れもない僕達の敵だ。例え証拠が見つからなかったとしても、いつか絶対に追い詰めてみせるよ」
フィヨルドは目を鈍く光らせる。
その感情の強さを感じ取ったのかロナルドはフィヨルドの目を真っすぐに見返した。
「ごめん。分かってるよ」
「それならいいんだけどね。そういえば、フィアが黒き力を抑えきれなくなったって?」
「あぁ、そうだね。またアルチザン様に協力を仰ぐよ。あれを抑えるにはモノリスの欠片を加工する必要があるからね」
「もしかしたら、終わりの時は案外近いのかもしれないね。分かった。こっちもより急ぐとしよう」
「うん、そっちは頼むよ。協力ありがとう、フィヨルド」
「感謝は必要ないよ。これは僕のするべき償いだ」
「君はいつもそう言うね。それなら私も何度でも言うよ。君が背負うというのなら、その罪は私も背負うべきものだ。だから私は感謝するよ」
ロナルドはそう言って微笑んだ。
僕がこう言うとロナルドはいつもこう返すのだ。
「……君は変わらないな」
「私がそうしたいんだ」
「それじゃあ、また連絡するよ」
「うん、それじゃあまた」
そして、ロナルドは部屋から出て行った。
フィヨルドは閉まった扉をしばらくの間見つめていた。その目は決意の光を宿していた。
「必ず、僕と君の手で」
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