おまけ -お菓子作り-
とある金属で囲まれた近未来的な部屋、その厨房に真っ黒な瞳をした少年がやって来た。少年は中に入ると何かを作っているらしき少女に声を掛けた。
「あれ? 誰がいるのかと思ったらナクスィアじゃないか。もしかしてお菓子を作ってるのかな? どうしてお菓子なんて作ってるんだい?」
「これはスフォル様。厨房に来るなんて珍しいですね。今日はトゥーナが帰って来ると連絡がありましたので、甘いお菓子を用意しているんです」
いつもの聖女風の服を脱いでエプロン姿のナクスィア。
いつも同じ恰好をしているのでなかなか新鮮に感じられる格好だ。ベールが無いので少し長い耳もよく見える。
「そういえばそうだったっけ。それで、リリアは何でいるの?」
「何でって、一緒にいるんだから私もお菓子を作ってるに決まってるでしょ?」
そう言いながらもリリアはボウルを片手にホイッパーでガシガシと何かをかき混ぜている。混ぜる勢いが強すぎてボウルの中身が周りに飛び散っている辺りに慣れていなさが感じられる。
因みに横にいるナクスィアは能力で飛んでくる飛沫を弾いており、特に怒る様子もなく涼しげな表情だ。
「あはは、イメージないなぁ」
「ちょっと、馬鹿にしてるわけ? 私は普通の女の子なんだから、お菓子作りくらいするのよ」
「そう言う割には手際が悪いですが、ふふ、あなたが普通の女の子ですか?」
「あ、何笑ってるのよあんた! 私だってお菓子の一つや二つ作れるんだから、見てなさいよ!」
そう言って一層激しくボウルをかき混ぜ始めるリリア。
残念ながら上手くは作れていなさそうだ。
「あはは、美味しいのが作れるといいね。それじゃあ、僕はやる事があるからもう行くよ。トゥーナによろしくね」
「はい。分かりました」
「私お手製のを後で持って行ってあげるわ! 感謝しなさい!」
「うんうん、そうだね。楽しみにしてるよ」
にこやかに笑いながらスフォルは厨房を後にする。
そして、廊下をゆっくりと歩いて行くのだった。
*****
「……あいつ絶対馬鹿にしてるわ」
「えぇ、しかし馬鹿にされたくないなら実力で分からせるべきです」
「言われるまでもないわ!」
ナクスィアがそう言うと、さらに激しくかき混ぜ始めるリリア。
この子、ただかき混ぜればいいと思っているのでしょうか?
せっかくの生地がもうほとんど残っていませんが……まぁいいでしょう。
トゥーナの分は私が作っているので足りますから。
涼しげな顔で隣の台風もどこ吹く風と流しながらお菓子作りを進めていると、また扉が開いた。今度はトゥーナが入って来たようだ。
「ただいま。わぁ! お菓子を作ってるのかしら? 今日のお菓子は何?」
トゥーナは相変わらずお菓子の事となると屈託のない笑みを浮かべる。私がこの笑顔のためにお菓子を作っているのは間違いない。
「おかえりなさい、トゥーナ。今日はカップケーキですよ。後は焼くだけですので、楽しみにしていて下さい」
「おかえり、私も作ってるから大船に乗ったつもりで期待してなさい!」
リリアの言葉にトゥーナが目を丸くする。
ふふふ、この後のセリフが予想出来ますね。間違いなく泥船です。
「え、リリアも作っているの? 珍しいわね、どういう風の吹き回しかしら? ……えっと、見る限り泥船みたいだけど」
「ちょっと、どういう意味よ! まさか美味しくなさそうだって言いたいの!? まだ焼いてもないのに!」
「え、だってほとんど生地が無いじゃない。あなた何を作ってるの?」
ふふふ、当然ですが当たりました。
以前はただのむかつく奴でしたが、最近のリリアは少し面白い気がしています。慣れて来たからでしょうか?
きっとリリアは怒って生地を放り出して帰る事でしょう。
ふふふ、私には未来が見えます。
「……確かにそうね。ちょっとナクスィア。作り直すから私に作り方を教えなさいよ」
……これはしたり。意外ですね。私にリリアが教えを乞う?
あまりに意外過ぎて不覚にも驚いてしまいました。
トゥーナも同様のようですが、これを悟られては馬鹿にされそうなので平然とした態度で通しましょう。
「そうですか? 別に材料は余っているので構いませんが」
「……なんだかあなた変わったわね」
「は? 何が変わったのよ」
「いや、いいわ。そうだ。せっかくだし、あなた達二人に頼みがあるのよ。今日暇でしょ?」
「えぇ、暇よ! なぁに? 誰か殺して欲しい奴でもいるのかしら?」
存外乗り気ですね。以前のリリアなら即答ではなくまずは食って掛かっていた気がしますが、確かに変わってきているのでしょうか? まぁ、それはさておき。
「あなたは馬鹿ですか? トゥーナがそんな事を頼むわけがないでしょう?」
「誰が馬鹿よ! 私は希代の殺人鬼なのよ。そんな私に頼み事だなんて、それしかないでしょ?」
「いや、違うけど」
「え、あ……そう。……何か調子狂うわね。その顔止めなさいよ」
当然でしょ? と言わんばかりに喋っていたのに、トゥーナの明らかに引いていますと言う顔を見て一気に勢いを失うリリア。本当に、この子は。
「くふ」
「な!?」
私が笑うと恥ずかしかったのか一気に顔を真っ赤にするリリア。
普通の女の子ですか。ふふ、案外なれるのかもしれませんね。
わなわなとしているリリアを見ながらナクスィアが僅かにほほ笑んでいると、トゥーナがむすっとした様子で手招きをした。
「ちょっと、話が進まないわ。こっちに来なさい」
おっと、これ以上はトゥーナの不興を買ってしまいますね。
ふざけるのはここまでにしておきましょう。
そして、トゥーナの見せてきた端末を覗き込むとそこには例の少女達が映っていた。何やら派手な衣装を着て踊りを踊っているのだが……。
「何よこれ?」
「トゥーナ? どういう事でしょうか?」
「ふふ、ちょっと踊る機会があってね。たまにはダンスをしてみるのも良いと思ったのよ。それでこの子達が踊ってる曲を調べてみたのだけれど、レセフィラ・フォシュラとかいうアイドルグループの曲らしいわ」
「アイドルグループって何よ?」
「歌って踊るグループの事よ。それで、そのレセフィラってグループの曲が人気らしいのね? だからそれを真似してみたいなと思って」
「それはまた急な話ですね。……踊る機会があったと言いましたが、今トゥーナはホーリークレイドルに潜入中でしたよね。そこで何かあったんですか?」
「……大したことじゃないわ。さっきも言ったけれど、たまには踊ってみるのも良いかなぁと思ったのよ。いいでしょ?」
「ふぅん? よく分からないけど、いいわ! 私は寛大だからやってあげようじゃない!」
「まぁ、いいでしょう。でもまずはカップケーキを作るのが先ですね。その間にパルマにでも衣装を作らせましょう。あの男ならすぐに作れるでしょう」
「えぇ、そうね。リリアはナクスィアに教えてもらうのよね? それじゃあ、私も一緒にケーキを作ろうかしら」
「へぇ、いいわね。私の方が上達が早いって教えてあげるわ」
「リリアはどうしてこんなに自信があるのでしょうか?」
「出来るからに決まってるでしょ!」
「勝負よりもおいしいケーキよ! とびっきり美味しく作るわよ!」
こうして無茶ぶりをされたパルマは文句を言いながらもしっかりと衣装を作ったのだが、やる気に満ち溢れたトゥーナ達のダンスは映像として残され、腹いせとばかりにパルマによって陰で売りに出されたのだった。
一部では意外と人気が出てファンクラブが出来てしまい、パルマから度々衣装を渡されて首を捻りながらも踊らされる羽目になるのはまた別のお話。
どうも、Prasisです。
幕間 ―灯火に集いし者たち~トーチクラウド~―
これにて終了です!
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さて、初めての幕間でしたが、いかがだったでしょうか?
雷人達をメインとしない話でいつもと勝手の違う部分もありましたが、楽しんで頂けたら幸いです。
当初は予定していなかったのですが、興が乗ったのでおまけも書きました。
トゥーナ達には少しずつ仲を深めてもらえたらなぁと思っています。
リリアはちょっとあれな子ですが、弄られキャラが良い感じですね。
ナクスィアとセットで捗ります。
さて、次は第七章になりますが……すみません。まだ書けてないです。
しばらく空きますがご容赦下さいませ。
とりあえず、サブタイトルは「マキリスエスケープ」の予定です。お楽しみに!
それでは、これからも
【 SSC ホーリークレイドル 〜消滅エンドに抗う者達〜 】
をどうぞよろしくお願いします!




