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SSC ホーリークレイドル 〜消滅エンドに抗う者達〜   作者: Prasis
幕間―灯火に集いし者たち~トーチクラウド~―
386/445

―トゥーナ5―

「ほぉー、良く来たの。スピル村にようこそじゃ」


 スピル村と(おぼ)しき住居群(じゅうきょぐん)は山の中腹(ちゅうふく)突如(とつじょ)として現れた。そして、それと同時に目の前に現れたうっすらと体が透けて見える女性。


「ふおおぉ! ()けてる! 透けてますよ! これが霊人族(スピリチア)ですか!?」


「足は……あるんですね。とはいえ、一般的に言う幽霊(ゆうれい)に確かに似ていますわ」


「おい、お前達。すまないな、うちの者達が失礼をした。こちらで降霊祭(こうれいさい)があると聞いて来たのだが、あなたはこの村の代表か?」


「うむうむ、(わし)はこの村の(おさ)をしておるユリンという者じゃ。外から来た旅人(たびびと)は大体()たような反応をするのでの。別に失礼とも思っとらんよ。他所(よそ)では我等(われら)のような存在は(めずら)しいのじゃろ?」


「あぁ、そうだな。俺達の間ではあなた方は霊人族(スピリチア)と呼ばれているのだが、霊人族(スピリチア)は基本的に百人以下の少数で集団を作り、様々な場所に点々(てんてん)と存在する部族(ぶぞく)という認識だ。住んでいる場所が生物が住みづらい場所な事が少なくないからな。()う機会はあまりない」


「ほう、なるほどの。(わし)らも旅人から外の話を聞いたりするのでの。一応そなた達の生態(せいたい)は知っておるつもりじゃ。(わし)らは生きるのに水を必要とせんし、何かを食べる事も無い。木々や生き物、大地(だいち)や空気。様々な物からほんの少しの生命力(アニマ)を得られれば事足りる。そういう事もあるであろ」


 ふむ、霊人族(スピリチア)。やはりなかなか興味(きょうみ)深い種族だな。

 なぜ人の姿をしているのか、彼らはどこから生まれるのか。実体が無く触れることが出来ないという話なのになぜ住居(じゅうきょ)を構えているのか。


 色々と気になる事はあるが、それは今回の依頼(いらい)主題(しゅだい)ではない。レオンが後ろに(ひか)えていたサイオル殿に視線を向けると、サイオル殿が前に出て来た。


「初めまして、ユリン殿。私は星間商人をしております。サイオルと申します。この度は降霊祭(こうれいさい)()り行われるという話を聞き、是非祈(ぜひいの)らせて頂きたいと思い(まい)りました。祭りに参加しても(よろ)しいでしょうか?」


「これはご丁寧(ていねい)に。わざわざここを(たず)ねて来る者が少ないだけで、降霊祭は誰でも参加出来るからの。是非(ぜひ)(いの)っとくれ」


「そうですか。それでは、ありがたく参加させて頂きます」


「うむ、降霊祭は今夜じゃ。それまではそなた達も(ひま)であろ? 良かったら外の話を聞かせてはくれんかの? 普段は外から来る者もほとんどおらんで、(わし)らには貴重(きちょう)娯楽(ごらく)でのぉ」


「えぇ、私の話などで良ければ(かま)いませんよ」


「おぉ! そうかそうか、それでは是非(ぜひ)(わし)の家に来てくれ! おーい、皆のもの! 出て来て良いぞ! 荷物などを運んでやりなさい!」


「ふぇ!?」


「ん!?」


「きゃっ!」


「あら、可愛(かわい)いわね。よしよし」


 ユリンがそう声を掛けると一体どこにいたのか、周りから数十体もの霊人族(スピリチア)が姿を現した。そして、突然浮かび上がる荷物の数々(かずかず)。これが(ぞく)に言うポルターガイストというやつだろうか?


 突然の事でクロフィは()び上がり、俺とニアは驚いてしまったのだが、シュタントとサイオル殿は平然(へいぜん)としているし、トゥーナに(いた)っては子供の見た目の霊人族(スピリチア)の頭を()でていた。


 いや、手が頭をすり抜けているから()でれてはいないのだが。シュタントとトゥーナは胆力(たんりょく)(すご)いな。そしてサイオル殿、あなたはもしや知っていたのでは?


「よし、それではこっちじゃ。付いて来てくれ!」



******

 そうして、俺達は好奇心旺盛(こうきしんおうせい)霊人族(スピリチア)達に囲まれて質問攻めにあった。


 それにしても彼らが近くにいるとなんだかひんやりするな。

 やはり、一般的な幽霊(ゆうれい)のイメージはこの者達から来ているのではないだろうか?


 そんな事を考えつつもしばらく一緒(いっしょ)にいれば慣れるもので、夜になる(ころ)には全員が打ち解けていた。


「おっと、名残(なご)()しいが歓談(かんだん)タイムはここまでじゃな。そろそろ祭の時間じゃ。広場に向かうとしようかの」


 ユリンが声を掛けると周りにいた霊人族(スピリチア)達が一斉(いっせい)にどこかへと消えていき、ユリンに(うなが)されるままに村の中央、広場にある井桁(いげた)組みの所までやって来た。


 どうやら他の住居(じゅうきょ)にも客が来ていたようで、ちらほらと見知らぬ顔もあった。ユリンも(ふく)め、霊人族(スピリチア)達が時々入れ替わっていたのは皆の所を回っていたといったところか。


「ふむ、なかなか雰囲気(ふんいき)があるな。言葉には言い表しがたいが、少々神秘的(しんぷてき)雰囲気(ふんいき)を感じる」


「うんうん! スピリチュアルってやつですね!」


「あはは、そのまんまですわね」


「あら、そのまんまでいいじゃない。この雰囲気(ふんいき)端的(たんてき)に言い表しているとも言えるわ」


「……(むずか)しい事はよく分からんな」


「えぇ、私もです。ですが、(うわさ)にも期待が出来そうですね」


「そうだな……」


 降霊祭、それについては半信半疑(はんしんはんぎ)……いや、ほとんど信じてはいなかったのだが、この空気を(はだ)で感じると信じる気持ちが強くなってきた。


 そうしていると、ユリンがいつの間にか姿を消していることに気が付いた。

 本当にあいつは神出鬼没(しんしゅつきぼつ)だな。まぁ村長というのだから、何か準備があるのだろうが。


 そう考えていると、不意(ふい)に辺りが真っ暗になった。

 いや、違う。ここは元々真っ暗だったのだ。山の中、今は夜だ。ここは星の光も強くない。これまで気にならなかったのは、周りがほんのりと発光していたためだ。


 恐らく、それは霊人族(スピリチア)が何かをしていたのだろうな。

 そして、辺りに(すず)()()り響いた。


「ひゃい!? こ、これってよくある心霊現象的しんれいげんしょうてきなやつじゃないですか!?」


「静かにしろ、クロフィ。ここは霊人族(スピリチア)の村だ。そんなのは当たり前の事だろう」


「そ、そうですね。すみません……」


 どうやらクロフィはこう言った事への耐性(たいせい)があまりないみたいだな。

 そういえば、フォレオの奴も以前そんな事を言っていたか? ふはは、あいつもここにいれば(さわ)ぎ出したであろうな。しかし、他の者達は落ち着いている。うん、良い感じだ。


 しゃん、しゃんという(すず)()が響き、そして、井桁いげた組みの上に光が現れた。ユリンだ。


 ユリンは元々質素(しっそ)簡易的(かんいてき)な服を身に(まと)っていたのだが、今は重厚(じゅうこう)衣服(いふく)を何枚も重ね着していて、それらしさが出ている。


 祭事用(さいじよう)の特別な服という事か。

 それを着たユリンが何やら(かざ)りのついた棒を持って悠然(ゆうぜん)(まい)(おど)り、その動きに追従(ついじゅう)するように(あわ)い光が()う。


「おぉ」


素晴(すば)らしいですわ」


「とても綺麗ね」


 レオンが感嘆(かんたん)する声を上げていると周りからも賛辞(さんじ)の声が聞こえてくる。暗くて姿は見えないが、皆でこの時間を共有している。ふむ、悪くないな。


 そして、ユリンの舞が止まり、ユリンが手に持った祭具(さいぐ)を大きく(かか)げた。


「さぁ、皆の者! 降霊祭(こうれいさい)の始まりじゃ! それぞれの(おも)いを(いの)りと共に(ささ)げ、今は()き大切な者へ届けるがよい!」


 その言葉と共に自然と皆が手を合わせ、(いの)りを(ささ)げる。

すると、どこからか淡い光が周囲を照らした。レオンも(なら)ってみると淡い光が近付いてきた。


 姿が見えるわけではない。どうしてなのか分からないのだが、会ったもないのに祖父(そふ)を感じることが出来た。非常に不思議な感覚だが、確かにそう感じたのだ。


「お初にお目に掛かります。お爺様(じいさま)。レイノスの子、レオンです」


 レオンの父、レイノスは商人として大成(たいせい)することが出来たが、最初の(ころ)は自身で危険な場所に(おもむ)き、貴重(きちょう)な物資を調達(ちょうたつ)することで商会を大きくしていた。


 祖父はそれに反対しており、残念なことに仲直りする前にこの世を去ってしまったという話だ。祖父(そふ)()くなった頃、父はまだ商会を軌道(きどう)に乗せるために奔走(ほんそう)していたと聞いている。


 だから、祖父に父は無事だと、目標を()()げたのだと俺はそう伝えたいのだ。


「父は、レイノスは商会を宇宙中に名が(とどろ)くほどに大きくしました。俺の尊敬(そんけい)する、立派な商人です。今日はただそれを伝えたかったのです。父は元気にやっておりますので、どうかご安心下さい」


 レオンがそう言うと、その(あわ)い光が肩に触れたような気がした。

 そして、その光はどこかへと消えて行ってしまった。


「まさか、本当に伝えることが出来るとはな」


 (あたた)かな感情、それが伝わる不思議な感覚。

 本当に、霊人族(スピリチア)は不思議な種族だ。


 そして、地面に座って舞い(おど)るユリンを(なが)めているとすっと誰かが横に現れて俺の(ほほ)に触れた。ふわふわのような、ひんやりしているような。その何とも分からない感触(かんしょく)にレオンはビクッと体を(ふる)わせた。


「おわっ! な、なんだ。トゥーナか。驚かせるでないわ」


「あら、ごめんなさい。ぬいぐるみは(きら)いだったかしら?」


 そう言って、トゥーナは(となり)(こし)を下ろした。

 この暗闇(くらやみ)でも見えるようになのだろうが、近い。

 大人びては見えるが外見は小さい、もしや不安(ふあん)にでもなったのだろうか?


「いや、嫌いではないが……ぬいぐるみ? (みょう)質感(しつかん)なのだな」


「ぬいぐるみよ。私の能力によるものだけれどね」


「そうか。では気にするだけ無駄(むだ)だな」


「えぇ、そうね。それで、あなたはもうお(いの)りは終わったのかしら?」


「あぁ、偶然(ぐうぜん)とはいえ、この祭りに参加出来たのは幸運(こううん)だったな。……トゥーナは誰かに何かを伝えたのか?」


「えぇ、信じていなかったけれど。この力は本物ね」


 そう言ったトゥーナの顔はどことなく悲しみを()びていた。

 (いく)ら強いとは言っても、見た目が小さな少女の一人旅など非常に危険だ。普通ではない。つまり、何かしら事情があるのだろう。


 俺は彼女の事は何も知らないが、せっかく仲間になったのだ。

 いつの日か、その胸の内を話してくれるほどに気を(ゆる)してくれるといいのだが。


「……綺麗(きれい)だな」


 そして、(ゆる)やかな時の中。神秘的(しんぴてき)(まい)を二人で(なが)めるのだった。

 霊人族(スピリチア)、いわゆる幽霊のような種族ですね。


 宇宙は広いですから、こんな種族がいてもいい。

 もっとも、思考して話が出来るものの生きていると言っていいのかはよく分かりませんけど、まぁ、そこはスピリチュアルな存在ってことで! そのまますぎるネーミングぅ!


 さて次回、「トゥーナ6」、本幕間(まくあい)も残すところ一話+おまけのみとなりました。

 どうぞ最後までお付き合い下さいませ!

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