表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SSC ホーリークレイドル 〜消滅エンドに抗う者達〜   作者: Prasis
幕間―灯火に集いし者たち~トーチクラウド~―
382/445

―トゥーナ1―

 惑星ソフラン。その惑星(わくせい)ステーションに一人の少女が降り立った。

 少女は(さわ)がしい喧騒(けんそう)に目を細め、歩き出す。


 彼女の恰好(かっこう)所謂(いわゆる)ゴスロリであり、見た目からして(おさな)い。(まさ)しく、人形のような少女だった。クマのぬいぐるみを抱えている辺りが幼さをさらに強調している。


 惑星(わくせい)ステーションを一人で歩くゴスロリ少女は非常に目立つ。加えてこの場所はあまり治安(ちあん)が良くなかった。案の定というか、一人の男が近寄ってきて声をかけた。


「おっと、お(じょう)ちゃん、もしかして一人? 迷子かなー? お兄さんがお母さんのところまで連れて行ってあげるから、一緒(いっしょ)に行こうか」


 少女は下卑(げび)()みを浮かべながらそう話す男を一瞥(いちべつ)すると、スッと顔を()らして何もなかったかのように歩き出した。


「……」


 すると無視されたその男は青筋(あおすじ)を立てて顔を真っ赤にしていた。

 周りを囲む男達はその無視された男を指をさして笑っていた。


 言っている内容は恐らく、フラれてやんの。とか、ははは、あんなのに付いて行きたいわけないよな。とかそんなところだろうか?


 男は我慢(がまん)ならなくなったのか、ズンズンと音が聞こえるほどに床を()みしめながら歩み寄ってくる。


「おいお嬢ちゃん。ちょーっとばかし常識(じょうしき)が足りねぇみたいだな? 俺はこの辺りじゃ有名なカイゼル一家の一員(いちいん)なんだぜ?」


 そう言って少女の肩を(つか)んだ男はその肩を引っ張ろうとして……びくともしなかった。いや、それは少女の肩ではなかった。何かが少女の肩に乗っていて、(つか)もうとした男の手を(つか)んでいた。


「知らないわ」


「は?」


 そして、次の瞬間には男の体は(ちゅう)に投げ出されていた。

 男の顔が驚愕(きょうがく)()まる。


「あいったーっ!?」


 地面に背中から落ちた男はしばらく痛みに悶絶(もんぜつ)していた。

 それをちらりと見ながら少女は可愛らしい声で言った。


邪魔(じゃま)よ」


「て、てめぇ。カイゼル一家と知ってその態度だなんて良い度胸(どきょう)じゃねぇか!おい、お前ら!」


「へい!」


 男が声を掛けるとさっきまで笑っていた男達、四人ほどが少女を取り囲んだ。その手には剣やナイフが(にぎ)られている。


「へへ、お嬢ちゃん、何か特別な力を持ってるみたいだがおいたが過ぎたな。お前はもう終わりだ。お前ら! 手加減なしでやっちまえ!」


「おらぁ!」


「死ねや!」


「ふひ! ふひひひひ!」


(さば)いてやるぜ!」


 四人が男の号令(ごうれい)四方(しほう)から切り掛かった。

 それに対しての少女の反応は非常に簡潔(かんけつ)だった。


「はぁ、だから邪魔(じゃま)よ」


 次の瞬間、どこからともなく四体のクマの人形が現れた。それ等は自身の何倍もの身長がある男達に飛び掛かると、武器を弾き飛ばして腕を(つか)み、男達を空中に投げ飛ばしてしまった。


「あいたぁ!」


「へ? あいったぁ!?」


「うわっ! あいったー!?」


「あ、あいったー……」


 あっと言う間に四人は地面に転がった。

 さっきの男よりも高く投げ飛ばされた男達は立ち上がる気配(けはい)がない。


「……おいおい瞬殺(しゅんさつ)だよ」


「もう大人しく帰りなさい。あなた達弱すぎなのよ」


「くそっ! 天下のカイゼル一家が()められたまま帰れるかってんだよぉ!」


 少女の言葉を聞いた最初に(から)んで来た男は何やら服の中に手を突っ込んだ。しかし、それを少女は見逃(みのが)さなかった。


「むぅ、仕方(しかた)ないわね」


「あ、あああああああ! 俺のユニバーサルフォンがぁあああ!?」


 男は服の中から通信端末を取り出したが、次の瞬間にはクマの人形が強引に(うば)い取ると地面に投げつけて破壊(はかい)していた。(くだ)け散った端末に男が駆け寄ると、クマはその腕を(つか)みダメ押しとばかりに背負い投げを繰り出した。


「え、ちょっ、まだやるの! あいったあああああぁ!? あ、いったぁ……」


 投げられた男が(もだ)えながら転がっているのを確認すると少女は何もなかったかのように歩き出し、そのまま外に出て行った。


 そして、少女は何かに気付いたかのように顔を上げると人が行き()う中で立ち止まった。


「うん、特に問題はないわ。仕事はちゃんとしないとね。それじゃあまたね、お兄ちゃん」


 そして、少女は再び歩き出し雑踏(ざっとう)の中に消えていった。


*****

「さて、依頼主の場所はここだな? お前達、相手はお客様だ。くれぐれも言っておくが、変なことはするなよ? 特にクロフィ、お前は絶対に口を閉じていろ」


「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ! あたし、こう見えてもしっかりしてるんですから!」


 そう言ってクロフィは笑うが、正直クロフィを完全に制御(せいぎょ)することは不可能だ。少々不安だが、そんなことを言っていては仕事が出来なくなってしまう。


 俺は扉をノックし、どうぞという声を聞いてから取っ手を(つか)みそれを押し開いた。中は高級とまではいかないが、それなりに綺麗(きれい)に整えられた部屋だった。


 あまり調度品(ちょうどひん)(たぐい)はなく、絵画(かいが)が一枚(かざ)られているだけの部屋。とはいえ、それは目の前の椅子(いす)に腰かけている男の趣味嗜好(しゅみしこう)を表しているわけではない。


 ここは商人が取引に使うとされる中級の宿だ。そのため、不必要な装飾(そうしょく)は無く、防音仕様(ぼうおんしよう)、情報の秘匿性(ひとくせい)は万全だ。


 目の前の男は商人であり、今回の依頼人だ。依頼人である商人は中に入ってくるこちらを見ると立ち上がり、手を差し出してきた。レオンは間を開けることなくその手を握り返す。


「初めまして。星間商人(せいかんしょうにん)のサイオルと申します」


「俺はヘイゼル・ディン・レオン。SSC、ホーリークレイドル所属の隊員だ。今回は俺のチームが依頼(いらい)を受けることになった。よろしく頼む」


 レオンがそう言うとサイオル殿がレオンをまじまじと見つめた。

 そして、おずおずと言った様子で(たず)ねて来る。


「失礼ですが、ヘイゼル……と言いますと、もしやヘイゼル商会の?」


「ほう。知られているとは光栄(こうえい)だ。もっとも今の俺はホーリークレイドルの一社員に過ぎない。商会とは関係ないと思ってくれ」


「いえ、それでも知り合えて光栄(こうえい)ですとも! 星間の(あきな)いをしていてヘイゼル商会を知らないなど、そんな商人はいませんよ」


「ふむ、そうか。また俺が商人として会うことがあれば、その時はよろしく頼む」


「えぇ、是非(ぜひ)に、ささ、こちらの席にお座り下さい」


 サイオル殿がレオンの出自(しゅつじ)を知るや下手(したて)に出て来たので、レオンは手を上げてそれを(せい)した。


「サイオル殿(どの)、そう気を(つか)わないでくれ。今はそちらが俺達の顧客(こきゃく)なのでな。そう下に出られてはこちらの立場もない。さて、それでは仕事の話をするとしようではないか」


 レオンの言葉にサイオル殿は少しばかり残念そうな表情を浮かべるが、すぐに顔を引き締めた。切り替えが早いようで助かる。


「それでは早速(さっそく)依頼の内容なのですが、私の護衛(ごえい)をして頂きます。期間としては五日(いつか)ほどでしょうか」


「ふむ、護衛を頼むという事は危険な場所にでも向かうのか? 商人は(もう)け話があれば多少危険な場所にも向かうものだからな」


「いえ、今回の目的は(あきな)いというわけではありません」


「商いではない? 失礼だが、目的を聞いても?」


「えぇ、構いません。目的地はここから少し離れた場所にあるスピル山という山です。そこには霊人族(スピリチア)の集団が村を作って暮らしているそうなんですが、今年は十年に一度の霊人族(スピリチア)降霊祭(こうれいさい)開催(かいさい)されるそうなのです。今回はそれに参加したいと思いまして」


霊人族(スピリチア)降霊祭(こうれいさい)か。初めて聞いたな」


「えぇ、それほど人が集まるような祭ではありませんから。一部でひっそりと行われている無名のお祭りです」


「ほう、なぜその無名の祭りに参加を? その降霊祭(こうれいさい)とは一体どのような祭なのだ? ……あぁ、失礼した。答えたくなければ答えなくてもいい。個人の事情に踏み込むつもりはないのでな」


「いえ、構いませんよ。私も商人の仲間から(うわさ)程度に聞いた話なのですが、何でもこの降霊祭(こうれいさい)(いの)ると()くなった者に想いを伝えられると聞きまして。真偽(しんぎ)のほどは分かりませんが、霊人族(スピリチア)はかなり特殊(とくしゅ)な種族ですから。出来る事なら試してみたいのです」


霊人族(スピリチア)、確か肉体を持たないエネルギー体のような存在だったか。言葉を()わすことも出来る(ゆえ)に一種族と認められているが、どのようにして存在を(たも)っているのかについては不思議な点の多い種族だったな」


「えぇ、実は最近自分の店を持つことが出来たのですが、亡くなった父にその事を報告したいのです。もし(うわさ)が真実でなかったとしても、後で()やみたくはありませんので、やっておきたいのですよ」


「ふむ、その心意気(こころいき)は素晴らしいな。大いに賛成だ。せっかくだ。俺も亡くなった祖父(そふ)親父(おやじ)が立派にやっていると伝えるとしようか」


「それはいいですね。……ですが一つ問題がございまして、スピル山には危険な怪物(かいぶつ)が出るという話なんです。それに、スピル山付近を通る街道には度々(たびたび)盗賊が出るという話もありまして。それらへの対処(たいしょ)是非(ぜひ)お願いしたいのです」


「なるほどな。分かった、護衛は任されよう。なに、心配はいらん。俺達は強いからな。盗賊や怪物(かいぶつ)程度には負けはせん」


 レオンが自信満々に言い切ると、サイオル殿は安心したように笑った。


「頼りにさせて頂きます。ただ、お気をつけ下さい。なんでも、街道に出る盗賊達はこの辺りでは有名なカイゼル一家と呼ばれている盗賊団だそうで。人数は三百人にも上るそうです。しかも、頭目(とうもく)のカイゼルと言う男は手で触れることもなく人を吹き飛ばし、巨大な岩も軽々(かるがる)と持ち上げるのだと聞きます」


「三百人とはまた多いな。それに頭目(とうもく)は能力持ちというわけか」


「この国の王は以前盗賊団を討伐(とうばつ)しようと兵を派遣(はけん)したのですが、失敗しています。それ以来完全に弱腰(よわごし)になってしまい、動こうとする気配がありません。それほどの相手ですので非常に危険ではあるのですが、どうか……よろしくお願いします」


 そう言って商人が頭を下げる。それを一瞥(いちべつ)したレオンは(うなず)くと立ち上がった。


「問題ない。依頼は受けた。それでは出立(しゅったつ)明朝(みょうちょう)でよいか?」


「はい、宜しくお願いします」


「では明日、門の外で落ち合おう。ではな」


 そしてレオンは振り返ることなく部屋を退出し、黙って見ていた三人もそれに続いて部屋を出たのだった。

 分かる人はくすりと笑ってもらえたでしょうか?

 今回の話はあるコメディアニメのパロディを入れています。


 本当に面白いので、興味がありましたら是非見てみて下さい!

 タイトルは「ヒナまつり」です!


 というわけで次回、「トゥーナ2」、お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ