―ヘイゼル・ディン・レオン2―
「ん……うん?」
レオンはうっすらと目を開けた。朧げな意識を覚醒させるため、そのまま腕を上げて伸びをする。
「んん……。寝てしまったか」
「おはようございます、レオ。今紅茶を入れますね」
目の前にはニアがいた。
どうやら自分が寝ている間に帰ってきていたようだ。
「ん、あぁおはよう、ニア。頼む」
レオンが答えるとニアはお茶を入れるために立ち上がる。
レオンは目を閉じ、先ほどまで見ていた夢を反芻する。
久しぶりにニアとの最初の出会いを思い出し決意を新たにする。
周りを見渡すが、ニアの他には誰かがいる様子はない。
ニアが紅茶を入れて戻ってきた。
置かれたティーカップを口に運び一口啜る。すると紅茶の香りが口一杯に広がった。
相変わらず、ニアの入れる紅茶は格別だな。
ティーカップをテーブルに置きレオンは告げた。
「ニア。ちょっといいか?」
「はい、何ですか?」
レオンの言葉にニアはティーカップを机の上に置いた。
それを確認し、レオンは続けた。
「先程な、夢を見ていたのだ。懐かしい夢だ。ニアと出会った時のこと……あの頃のことは覚えているか?」
「はい、覚えていますわ。鮮明に。あの時レオと出会わなければ今の私はなかったですわ」
思い出しているのか、ニアは遠くを見ているかのような表情をする。
レオンは鼓動を早くする心臓をどうにか抑えようと心を落ち着かせながら言葉を紡ぐ。
「あの時出会い、それから長い時を一緒に過ごしたな」
「そうですね。色んな遊びをしましたし、色んな所を旅しましたわ。とても……大切な思い出です」
ニアは紅茶に広がる波紋を眺めながらそう答える。
髪を撫でる仕草一つとっても非常に絵になる美しさである。
「これまでニアには迷惑をかけたな。俺は危険な所を何度も助けられた。幾度となく助言も受けた。今の俺があるのは……ニアがいたからだ」
「急にどうしたんですの? レオ、何かあるんですか?」
ニアが心配そうにこちらを見つめる。
心配させたいわけではないのだ。
まどろっこしい遠回りは止めて、そろそろ本題に入らなければならないだろう。
レオンは意を決して立ち上がった。
「ニア。俺は、実を言うとニアに出会った時に一目惚れをしていたのだ! そしてその後、一緒にいる中で俺は、俺にはニアしかいないと確信した! これまでも幾度となく迷惑を掛けてきた。これからも……掛けるかもしれない。しかし、何があろうとも俺はニアを守り抜くと、そう誓おう! だからニアよ! フレゼア・ニアベルよ! 俺と、結婚してはくれないだろうか!」
そう言ってレオンはニアを見つめながら地面に膝を突き、ケースに入った指輪を差し出した。ニアは呆然とレオンの顔を見つめて尋ねた。
「私で、私で良いのですか? これは夢ではないのですよね?」
レオンは咄嗟にニアの手を掴み叫んだ。
もうカッコをつけている余裕などなかった。
「ニアでなければ駄目なんだ! 俺は他の誰でもなく! ニアがいいんだ!」
レオンの言葉にニアは目に涙を浮かべ、そして満面の笑みで答えた。
「……はい、不束者ですが、よろしくお願いしますわ」
その言葉にレオンは腰の力が抜け、地面に尻餅をついた。
「本当か? 本当だな? ははははは、やった、やったぞ!」
レオンは一頻り笑った後に赤面し、自分の口元を手で覆った。
「す……すまん。見苦しいところを見せたな」
「いえ……私もとても嬉しいですわ。あの、レオ。一つよろしいでしょうか」
ニアが上目遣いでこちらを見上げてくる。
いつも見ているわけだが、その可愛さは留まる所を知らない。
そんな彼女が自分の妻になるのだと思うと、どうしようもない気持ちになる。
しかし、ここで手を出し信頼を欠くような行動はしない。
ここまで待ったのだ。もはや焦る必要もない。
慎重に事を運ぶべきだろう。
「何だ? 気遣いは無用だ! 何でも言ってくれ!」
レオンがそう言うとニアは顔を赤らめ恥じらいながら言った。
「では、その……ぎゅって、して頂けませんか?」
レオンは一瞬呆けたが、すぐに頭を切り替えた。
ここは男を見せる時である。
「分かった。行くぞ」
レオンがぎこちない動作でニアの背に手を回すと、ニアが自分の胸に顔をくっつけてくる。緊張するが、暖かく心地いい。香水だろうか? 良い匂いがする。
二人は抱き合ったまま一分ほど動かなかった。
そこでレオンはやり忘れていたことを思い出し一歩離れた。
ニアの目がレオンを見つめている。
「ニア、手を出してくれ」
「……はい」
差し出された指に指輪を入れる。
実感として自分の中に思いが溢れて一杯になる。
「ニア、俺は必ずニアを幸せにすると誓おう」
「はい、私も精一杯支えさせて頂きますわ」
二人の間に甘い空気が漂った次の瞬間、部屋の扉が開きドサドサドサッと何かが倒れる音がした。そちらを見ると三人の人物が地面に倒れ込んでいた。
「む、しまったな」
「重いー、重いですよ二人とも! 早く降りて、降りて下さいー! 痛たたたた!?」
「あ、あははー。いやー、ははは……ごめんね?」
それはシュタントとクロフィ、そしてレオン達の担当になったオペレーターのミネアだった。
「お、お前達!」
「……どこから聞いていらしたんですの?」
その問いにシュタントとミネアが顔を見合わせる。そして、クロフィが満面の笑みで答えた。
「夢の話からですよ! ひゅーひゅー、仲睦まじいですなー!」
「それでは全部ではないか……」
「皆に聞かれるのって、とっても恥ずかしいですね……」
二人は赤面し、レオンは顔を手で覆った。
「ええい、構うものか! ニアと俺はこれから婚姻届けを出しに行く! 結婚式には貴様等も招待してやるから参加するがよいわ!」
「い……今からですの!? 話が急過ぎではないですか!?」
「早いに越したことはあるまい。では行ってくるのでな。留守を頼むぞ」
「了解ですよ! ごゆっくりー!」
これまでの変わらない日常は終わりを告げた。
これから素晴らしい日常が始まり、この仲間達と共により高みを目指すのだ。
未来は、希望に満ち溢れているのだから!
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思い立ったが吉日、思い立ったが吉日ですよ!
仲睦まじく、末永くお幸せに!
それでは次回、「―トゥーナ1―」
こちらは思ったより長くなってしまいましたが、どうかお付き合いくださいませ!




