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SSC ホーリークレイドル 〜消滅エンドに抗う者達〜   作者: Prasis
フロラシオンデイズ 第一章~デーモンフォール~
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1-36 輝ける五振りの聖剣

 唯が呼び出した五本の輝く聖剣。その内の一本が独りでに動き出し、彼女の伸ばす右手に収まる。

 すると聖剣の輝きは消え、残り四本は(かす)んで消えていった。相変わらずよく分からない能力だ。


「行きます!」


 聖剣を構えながら先程までの柔らかい雰囲気を吹き飛ばす程の勢いで駆けて来る。

 まさしく身体強化の指輪(スキルリング)を使えるようになった証拠だ。


「やあぁぁぁ!」


「ふっ!」


 切り掛かって来た唯の聖剣を異空間から取り出した属性刀で弾き返す。


 この属性刀はウルガスさんの作った刀で、刃に電気を(まと)わせて切れ味や耐久性を上げる事が出来る。


 また、今までやっていたように刃の全てを電気で作る必要が無いから、使用する生命力(アニマ)の量が少なくて済む。

 つまり、今までと比較して体力を温存出来るので、継戦(けいせん)能力を向上出来るのだ。


「まだです!」


「速いな。でも、負けないぞ」


 雷人は続けざまに振られた聖剣を弾かずに受け止めると腕を曲げて、左上の方向へと押し上げつつ肘で顔を殴りつけた。


「わたっ!?」


 攻撃を受けて仰け反った唯に向かって、すかさず電撃を打ち込むが、唯の持っていた聖剣が割り込んで来て電撃を弾いた。


「んむっ!」


 力強い眼差しでこちらを見据えた唯の聖剣が、曲がりくねって伸び、襲い掛かってくる。

 それをバックステップで躱しながら後退していく。


形状変化(フォームレス)


 剣戟が止まり静寂が占めた空間に唯の小さな声が響いた。

 これが唯の能力「輝ける五振りの聖剣(ライトセイバー)」だ。


 名前の通り輝く五本の聖剣を出現させる能力だが、この聖剣はただ光るだけではない。

 聖剣と言うだけあって、特殊な能力を秘めた剣らしい。


 先程の形状変化(フォームレス)はまさしくその秘めた能力の内の一つだ。


 俺はちゃんと見た事が無いのでただの予想なのだが、聖剣は五本あるのだから能力も五つあるのだろうと考えている。


 とにかく、あの能力がある以上は通常の刀での戦闘では不意を突かれるかもしれない。

 だから、とりあえず距離を取ることにする。


雷弾生成(バレットチャージ)


 後ろへと下がりながら小さく呟くと、俺の背後に一つ、また一つと青白く光る球が出現した。


 それを円状に配置すると、複数の光る球は円形を保ったままくるくると回り始めた。

 それを見た唯は警戒して接近することなく距離を保った。


「……意外です。雷人君なら一気に突っ込んで来て、その俊敏性で攪乱(かくらん)を図ると思いました」


「それだけ唯を警戒してるってことだよ。唯が強いのは知ってるからな」


 俺が答えると、唯は張り詰めていた顔を和らげ微笑んだ。

 一瞬戦闘中である事を忘れそうになるが何とか気を引き締める。


「ありがとうございます。それでは、このままでは(らち)があきませんので……本気で行きますね」


 その言葉と共に唯は短距離の選手よりも速い速度で突進して来た。


「くっ! 雷弾射撃(サンダーバレット)!」


 雷人が左手で銃の形を作ると、すぐに使えるように用意しておいた球が一つ、その指先に吸い寄せられるように飛んで来る。そして手首を上に向けた瞬間、それは弾かれるように撃ち出された。


 しかし、弾が撃ち出される直前、既に体をわずかに射線外に向けていた唯は速度を落とす事も無くそれを(かわ)して突進してくる。


閃光(フラッシュ)!」


 すぐさま次の弾を放とうとしていた雷人に向けて突き出された聖剣が強く輝き、あまりの(まぶ)しさに視界が奪われる。


「まぶしっ、ぐぁっ!」


 咄嗟(とっさ)に目を覆いつつ左へと跳んだ俺の脇腹を唯の振るう聖剣が浅く切り裂き、その痛みに(うめ)き声が漏れる。


 俺は切り返すようにして振るわれた聖剣を後ろに向かってバク宙するようにして回避した。


 そのまま、空中で三発の弾を唯目掛けて発射し、空中に足場を作り出して着地した。

 三発の内一発は外れ一発は聖剣に弾かれたが、最後の一発は唯の腹部を叩いた。唯の耐性が崩れる。


「もらった!」


 それを見て好機と考え、足場を蹴って接近する。

 すかさず唯が閃光(フラッシュ)を使ったが、攻撃目的でない目暗ましに雷人には対策を講じる余裕があった。


 雷人は少量の電気を前方にばら()き、その当たり方を感じ取る事によって相手のいる位置をなんとなく把握出来るのだ。エコーロケーションのようなものだな。


 便利だが、これを感じ取ることはまだ難しいので、かなりの集中力を必要とする。

 だから、余裕がなければとてもではないが出来ないのだ。


「そこだっ!」


 雷人は属性刀を振りかぶると物体の存在を感じ取った位置へと思いっ切り振り下ろした。

 だが、勝利を確信した雷人の耳に届いたのはカイィィンという甲高い音だった。

硬い感触に属性刀が弾かれる。


「何!?」


 一瞬聖剣で弾かれたのかと思ったが、そうではなかった。

 感じ取った物体からほんの一メートル程離れた位置、そこからも物体の反応を感じて驚愕する。


 それが何かまでは分からなかったが、それは自分の側面にいた。

 まずいと直感で感じ、すぐに回避行動をとろうとしたが、既に遅い。

 瞬く間に雷人の左腕は手首から先が切り飛ばされていた。


「っづぁ!」


 雷人はすぐさま後ろへと跳び下がった。

 どうやら戦闘服のおかげで腕自体は切られなかったみたいだが、表面を滑るようにして振られた聖剣に、服に守られていない手首を切られたらしい。


 血が噴き出る腕を電気を固めて圧迫し、すぐさま止血を行う。

 冷静に冷静に、と考えはするもののあまりの痛みに思考が定まらない。


 視界が回復すると、何やら人型の物体と聖剣を振り切ったままこちらを見ている唯がいた。

 唯は鋭い目つきでこちらを見ていたが、その視線が雷人が押さえる左手の辺りに向いた瞬間、その顔がサッと青ざめて露骨に目が泳いだ。


「えっ? あっ、あ! ち、血が! わ、わた、私は何て事を! す、すみません!」


 なんと、唯は聖剣を(そば)に捨てて走り寄って来た。

 そして、おろおろという言葉が似合う慌てた様子で、手を空中で彷徨(さまよ)わせ始めた。


「え?」


 雷人は目の前で起こった事態をすぐに理解する事が出来なかった。

 いきなり戦闘を放棄した意味が分からないまま、無言の時間が流れる。

 そして思い当たった。


 唯にとって相手を怪我させる事などこれが初めてなのではないか?

 想定はしていたかもしれないが、それと実際に目にするのでは随分と違うだろう。

 最初にフィアを切れなかった俺も人のことは言えないしな。優しい彼女が慌てるのも無理はないというものだ。


 仮想空間であるためか痛みも大分収まって来たので、呼吸を整えておろおろとする唯に声を掛ける。


「あー落ち着け、唯。ここは仮想空間だから死んでも死なない。これが仮に現実だったとしても宇宙の技術は凄いらしいぞ。なんでも時間を掛ければ腕が切断されても治せるらしい。だから……なんだ。そんなに深刻に考えるなよ」


 俺がそう言うと唯はバッと俺を見上げるが、その目は真剣そのものだった。涙が目に溜まっていて今にも(こぼ)れ落ちそうだ。


「そ、そういう問題じゃないです! いくら仮想空間といっても、痛みまで無くなるわけでは無いじゃないですか! どこに友人の腕を切り飛ばす人がいるでしょうか!? あぁ、()くなる上は……」


 そう言うと唯は転がっていた聖剣を引き寄せて(つか)み、左腕を上げて切ろうとした。それを見た俺は慌ててその聖剣を属性刀で弾き飛ばした。


「ちょっ、待て待て待て! 物騒だな!? お前はどこの武士だよ!? もう痛みも引いてきたし、仮想空間だから実際よりは痛くもないはずだし! そんなに気にしなくていいから! 大体そんなんじゃお前、相手に人が出てきたりしたら戦えないぞ!」


 正直、自分も人を相手にする事があれば、躊躇(ちゅうちょ)しないでいられるかは分からないが、これでは訓練にならない。


 それに現実で相手の事を気にしていては死ぬのは自分だ。

 だから、自分の事はとりあえず棚上げして説得に掛かる。


 戦う相手のことまで心配していては命が幾つあっても足りない。

 実際問題、相手を殺すことなく戦闘不能にするなど、相当な実力差が無いと出来る事ではないはずだ。


 頭では分かっているのだが、気持ちが追い付かない。

 これは仮入社試験のあの日に痛感した事でもある。

 だが、ここでやっていく以上は出来る限り早く吹っ切れなければいけないのだ。


「で、でも、悪人(あくにん)相手ならともかく、友人相手ではやはり……」


「気持ちは分かるが……大丈夫だ! 俺は全く気にしないし、ひいては痛みに対する耐性をつける訓練にもなる。そこを気にして避けてたら、いざって時に上手く動けないかもしれないだろ?」


 唯は少し呆然(ぼうぜん)と俺を見ると、下を向いてブツブツと呟いた。


「な、なるほど、確かに普段からほとんど経験が無いとすると、実際に起きた時に対処が出来ません。訓練……そうこれは訓練なんですから」


 唯はすくっと立ち上がるとその(ほほ)をパンッと勢いよく叩いた。


「すみません、ご迷惑をお掛けしました。それでは、また少し離れて再開しましょう」


 頭を下げてそう言った彼女の眼はまだ少し揺れていたが、一応は持ち直したみたいだ。


 うーん、説得しといてなんだが、切り替え早いな。

 俺も早く覚悟を決めないとな、と雷人はそう思うのだった。

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