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SSC ホーリークレイドル 〜消滅エンドに抗う者達〜   作者: Prasis
幕間―灯火に集いし者たち~トーチクラウド~―
376/445

―クロフィ・ウプイーリ1―

 一人の少女がホーリークレイドルの休憩(きゅうけい)スペースの一角にある椅子(いす)に腰かけていた。


 その少女は非常に目立っていた。それこそ、社長の趣味(しゅみ)によって一種のコスプレ会場のようになってしまったこの会社の中でさえ。


 少女の名前はクロフィ・ウプイーリ。


 腕や肩の完全に出た服を着ているうえに、あちこちに小さなスリットが入っているためちらちらと素肌(すはだ)が見え隠れしている。

 加えて下はミニスカートを()いているので、何とも(はだ)露出(ろしゅつ)が多い。


 背中からは飛ぶには小さく見える翼が生えており、お(しり)の上の辺りから生えた尻尾(しっぽ)がゆらゆらと()れている。そんな白色のロングヘアが特徴的な可愛らしい顔をした少女であった。


 普通であればナンパの一つでもされそうなものなのだが、彼女に声を掛けるものは一人としていない。

 それはここがホーリークレイドルだからということもあるのだろうが、それだけが理由ではなかった。


 そう、彼女が手に持っている物がそれ等の特徴を消し去るほどの印象を与えていたからだ。


 クロフィは手に持っていたそれを口元に近付け、ゆっくりと()みついた。

 それはどこからどう見ても人間の腕であった。


 少ししてクロフィは口を離すと甘美(かんび)(ふる)えるような声を上げた。


「はあぁぁ、おいしいぃぃ。うん、やっぱり血はおいしいですよね! 何で皆が()けてるのか全然分かりませんよ!」


 クロフィの口から八重歯(やえば)(のぞ)く。

 何を隠そう、クロフィは吸血鬼族(ヴァンピィ)。一般的に言うと吸血鬼の種族なのだ。


 手に持っていた人間の腕はもちろん本物ではなく腕型(うでがた)のボトルだ。

 ニアベルが吸血(きゅうけつ)がしたいというクロフィのために用意してくれたのだ。


 吸血を終えたクロフィは満足そうに微笑(ほほえ)むと足をブラブラとさせる。


「こんなにおいしいんだからお姉ちゃんも吸えばいいのに、分からず屋だからなぁ。……うーん、思えば遠くまで来たものですね。お姉ちゃん、どうしてるんだろ」


 クロフィは(つぶや)きながら明るく光を()き散らす天井を見つめた。

 そして、故郷(こきょう)を思い出す。そこは息苦しく、しかし、(あたた)かな場所だった。



*****

 そこは大きな城だった。石造(いしづく)りの西洋風(せいようふう)な城。

 その城の一室に大きな声で叫ぶ少女がいた。その少女は厚い生地(きじ)、軍服のような服を(そで)を通さずに羽織(はお)っており、反対にその下は様々(さまざま)なところにスリットの入った露出(ろしゅつ)の高い服を着ていた。


 髪は金色のセミロングであり、背中からは小さな翼が生えている。

 どうやら少女は怒っているらしく、本来ならば可愛らしいであろうその目はつり上がって般若(はんにゃ)のようになっていた。


「クロフィ! お前は何度言えば分かるのだ! あれほど口を()っぱくして言ったというのに、また城下(じょうか)(たみ)(おそ)ったそうじゃないか!」


「ひゃん! ……(おそ)っただなんて人聞きが悪いですね! 相手の人だってちょっと気持ちよさそうでしたよ? あたしも気持ち良いですし、これってWinWinってやつじゃないですかね?」


「ななな、何が気持ちいいだ、馬鹿! (はじ)を知れ(はじ)を!!」


 金髪の少女は顔を真っ赤にして怒るが、対するクロフィはどこ吹く風といった様子だ。


 金髪の少女の名前はラミア・ウプイーリ。

 名前から分かる通りクロフィとは姉妹(しまい)であり、姉である。


 その顔立(かおだ)ちは非常に似ており、髪型、髪色が一緒(いっしょ)であれば恐らく彼女達を区別(くべつ)出来る者はいないだろう。あくまで見た目では、だが。


 見た目に反して二人の性格は全く異なっていた。

 姉であるラミアが非常に真面目(まじめ)であるのに対して、クロフィは何とも自由人なのだった。


「まぁまぁ、お姉ちゃんもやってみればこの気持ち良さが分かりますって。ほらほら、強情(ごうじょう)にならずに」


「うるさい、黙れ! 私に腕を近付けて来るなぁ! そんなことしてもやらないからな!」


 姉の強情(ごうじょう)っぷりにクロフィは()め息をつく。


「はぁ、どうして皆そんなに拒否(きょひ)するんですかね? あたし達吸血鬼族(ヴァンピィ)が他の星の人達になんて言われてるか、お姉ちゃんも知ってますよね? 吸血鬼(きゅうけつき)ですよ、吸血鬼(きゅうけつき)! 血を吸わなくてどうするんですか!」


 妹の言い草に姉であるラミアはやはり顔を赤くして(さけ)ぶ。


「ばばば、馬鹿!! そんなの言わなくともお前だって分かってるだろう! 破廉恥(はれんち)だからだ!! お前がやってる行為(こうい)はなぁ、相手が大目(おおめ)に見てくれているから何とかなっているが、本来なら厳罰(げんばつ)なんだからな!」


「むぅ」


 クロフィはラミアの言葉に(ほほ)(ふく)らませてむくれる。


 お姉ちゃんの言うことは理解出来なくもないけど、理解することと納得することは別の話ですよね!

 そもそもあたしは自身の住む国(ヴァンピィリア)でむやみな吸血が禁止されていることに納得してないんです!


 以前、他の星の人が話しているのを聞いたことがあります。

 (いは)く、吸血鬼(きゅうけつき)に血を吸われると自身も吸血鬼(きゅうけつき)になってしまうそうですね。


 なるほど、確かにそんな理由なら禁止(きんし)するのも分かります。

 そんなに簡単に種族が変わっちゃうなら、色んな種族があっさり絶滅(ぜつめつ)しかねないですからね。


 でも、実際の理由はそんな絵空事じゃなくて、お姉ちゃんの言うように破廉恥(はれんち)だから、なんです。あたしはそんな理由じゃ納得できません!


 そもそも、どうして吸血行為が破廉恥(はれんち)だと言われるのかといえば、これは吸血鬼族(ヴァンピィ)の慣習の問題じゃないですか!


 吸血鬼族(ヴァンピィ)吸血行為(きゅうけつこうい)はそもそも栄養摂取(えいようせっしゅ)が目的です。別にやましいものじゃないんです!


 なのに、慣習の所為で吸血行為はあまり行われないんですよね!

 それこそ、一度も吸血することなく死んでいく人もいるし、一般的にも生涯(しょうがい)で十回も無いくらいなんですから!


 吸血鬼族(ヴァンピィ)にとって吸血がどんな時にする行為(こうい)なのかと言えば、端的(たんてき)に言って子作(こづく)りする時にしたくなる行為(こうい)だった。


 別にしなくても子供は出来るが、本能的(ほんのうてき)にしたくなるらしい。

 そんな行為(こうい)だから一般的に破廉恥(はれんち)な行為だと言われていた。


 まぁ? あたしも破廉恥だって言われる理由は理解してますけど、あたしからすれば吸血はキスと大差(たいさ)ないんですよ! 

 他人(たにん)の血はおいしくて、吸血行為(きゅうけつこうい)はほんのり気持ちいい。恐らく本能的(ほんのうてき)に行うものだからなんでしょうけど。


 だからと言って別にそういう時だけしかしちゃいけないなんて、そんなことはないと思います!


 そういうものだって風潮(ふうちょう)でむやみにするのを禁止なんてするから、皆がなかなか出来なくなってまるでそういう時にしかしちゃいけない行為みたいになってるだけじゃないですか!


 禁止なんてするからますます破廉恥(はれんち)なことだと思われて、あたしみたいな吸血したい人が窮屈(きゅうくつ)な思いをさせられるんです! 横暴ですよね!


 ……はっ、ふと思ったんですけど、もしかして他の星の人が吸血されると吸血鬼になるって言っていたのはこれが理由じゃないですか!?


 一般的には子作(こづく)りする時にする行為(こうい)ですからね!

 吸血をするような相手とは(おおよ)そ家族になるといっても過言ではないんじゃないでしょうか!?


 そこから吸血をされることと吸血鬼になるということが(むす)び付けられて(うわさ)になったのでは!? ……うん、ありそうですね!


「おいクロフィ、むくれたかと思ったら今度はニヤニヤして……一体何を考えているんだ」


「はっ、しまった! えへへ、つい思考が()れちゃいました」


「……なぁ、クロフィ。そろそろ真面目に考えてくれないか? あまり問題を起こすと……」


「ふん、何度言われてもあたしは止めないですからね! 話はそれだけですか? それならもう行きますから!」


「待てっ!」


 姉には何を言っても無駄(むだ)なことはよく分かっていた。

 だからクロフィは無理やり話を切ると部屋から出ていこうとした。


 しかし、手を(つか)まれて引っ張られ部屋の中へと引き戻される。

 ラミアがクロフィの腕を強く握っていた。


「痛い痛い! 痛いです! お姉ちゃん! 痛いですってば! 離してよもー!!」


「勝手に話を終わらせようとするんじゃない! 今日は……大事な話があるんだ」


 クロフィを見るラミアの目は真剣そのものだった。

 こうなれば流石(さすが)のクロフィもふざけて流したりは出来なかった。

 嫌な予感はしたが、聞かないわけにもいかなかった。


「ん……何ですか?」


 そして、ラミアは言いにくそうに下を向きながらそれを告げた。

 その目はどこか悲しい目をしていた。


「クロフィ、お前の星間留学(せいかんりゅうがく)が決定した」

 吸血大好き少女爆誕(ばくたん)


 作品によって設定はまちまちですが、吸血行為がそういう事と結び付けられてる作品ってたまにありますよね。私もそれに(なら)ってみました。


 だから吸血行為はえ……おっと、誰かが来たようですね。うわなにするやめr


 ……次回「クロフィ・ウプイーリ2」、お楽しみに……がくっ。

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