―フレゼア・ニアベル―
どうも、Prasisです!
後書きに書いていた幕間を投稿していきたいと思います。
内容としては二章で出てきたレオンとニアベル。二人を中心としたチームの結成物語です。宜しくお願いします!
ホーリークレイドルにある一室。その自動ドアが開き一人の少女が入って来た。
その少女はあまり華美ではないドレスを身に纏っており、胸ぐらいまでの長さのセミロングの艶やかな赤髪が特徴的だ。
その少女、フレゼア・ニアベルは立ち止まって部屋を見渡した。
たくさんのモニターとタッチパネルの前にはオペレーターの姿はなく、ソファに見慣れた金髪が見えるだけで他に誰かがいるような様子はない。
「あら、皆出払ってしまってますのね」
ニアベルはそのまま歩みを進めるとどこか気品を漂わせる淑やかな歩きでソファまで行き腰掛けた。
「ふふ、レオも寝ていますのね」
見ると向かいに座っていた金髪の男、ヘイゼル・ディン・レオンが腕を組んだまま若干俯く感じで目を瞑って眠っていた。
ニアベルはそれをしばらく眺めた後、徐に立ち上がり近付くとその金髪を撫でた。
「疲れていたのでしょうか? ふふ、眠っていると無邪気で可愛らしい。なんだか子供の頃を思い出してしまいますわ」
ニアベルはまたソファに腰掛けると昔のことを思い出して、目を閉じた。
*****
ニアベルはとある国の貴族の娘として生まれた。
フレゼア家は貴族としては高くもなく低くもない地位の家柄で、特別厳しい家でもなかったため何不自由なく生活する事が出来た。
幼少期のニアベルは両親の愛情を受けてすくすくと成長したのだが、そんな順風満帆の日々は長くは続かなかった。彼女の髪色が問題となったのだ。
彼女の国では貴族の髪色はほとんどの場合が金色であり、それが高貴さの象徴となっていた。
そのため、貴族の中では彼女の美しく艶やかな赤髪も軽んじられる材料になってしまうのだ。加えて、赤色の髪はこの国において悪魔の象徴とされていた。
その原因は過去に起きた国への反逆、その時の暴動は多数の死者を出し忌むべき過去として語り継がれてきた。その事件の主導者の髪色こそが赤だったのである。
この国では赤色の髪は珍しく、あまり見られる色ではなかった。
その所為もあってか、関係あるはずもない髪の色が悪魔の象徴として取り上げられ、一部の人々は虐げられていたのだ。
そんな彼女とは全く関係のない理由で、年の近い貴族の子供達は彼女を虐めていた。
平民の子等もそれを見て赤髪だの、悪魔だのと言って彼女を虐げた。
そんな事が続くと彼女は次第に引き籠るようになり、ほとんど家から出ない日々が続いた。
そんなある日、ニアベルの父親が彼女を近くで行われていたパーティーに連れ出した。
そのパーティーを主催していた商人はとてもやり手で、貴族はこぞってパーティーに参加していた。
ニアベルはもちろんそんなパーティーに参加したくはなかったが、そのパーティーは子連れが条件のものだったらしく、父親が大好きだったニアベルは断ることが出来なかった。
結果として、ニアベルは金髪のウィッグを着けて赤髪を隠して参加した。
しかし、パーティーにはニアベルのことを知っている貴族の子供がいたのだ。
少年は隅で大人しくしていたニアベルの元へと数人を連れてやってきた。
その口元が卑しく歪む。
「おやおや? そこにいるのはニアベルじゃないか。最近見ないと思ったらお前、あの忌々しい赤髪はどうしたんだよ?」
ニアベルはちらりと少年達を見たが、すぐに目線を逸らした。
ニアベルにとって、自分を知る少年達は恐怖の対象だったのだ。
だから黙ったまま目を背け、ニアベルは彼等が興味を無くして立ち去るのを待った。
しかし、無視されたことに腹を立てた少年は立ち去るどころかズンズンと近付いて来るとニアベルの髪を思いっきり掴んで引っ張った。
「おい、無視してんじゃねーよ! こんなもので髪を隠しやがって! 俺は知ってるんだからな! 隠しても無駄なんだよ!」
「嫌! 放して! 痛い!」
ニアベルはウィッグを取られないように頭を押さえながら引っ張るが、少年は手を離さない。それどころか周りにいた少年達も一緒になって引っ張り始めた。
こうなってしまえば最早ニアベルに勝ち目はなかった。
「往生際が悪いぞ。手を放せっての」
「痛っ! あっ!」
遂に金髪のウィッグが剥ぎ取られ、衆目に赤髪が晒された。少年の口の端が上がる。
ニアベルにはその少年こそが悪魔に見えた。
咄嗟に周りに視線を向けるが、隅っこにいたために父親はこちらに気付いておらず、周りの大人達も見て見ぬふりをしていた。
大人達は直接手を下すことはなくとも、赤髪の子に積極的に関わろうとはしないのだ。
「おい皆、見てみろよ! 赤髪だぜ、悪魔の象徴だ! ここはこんなのが居ていいところじゃないよな? 追い出しちまおうぜ!」
「そうだ、そうだ!」
「悪魔め! ここから出ていけ!」
「嫌、痛い、止めて、うぅ……」
少年達はニアベルの髪を引っ張り、体を突き押し、パーティー会場の外へと追い出そうとする。
ニアベルの目には涙が溢れ、擦りむいた膝からは血が滲み、せっかくの綺麗なドレスも汚れてしまった。
ニアベルは自身の髪が憎かった。ただ髪が赤いというだけで、どうしてこのような仕打ちを受けなければならないのか。
ニアベルの心は既に折れ、もはや家に帰ることしか考えられなかった。
家には自分を虐めるような者はいないし、外に出なくとも暮らすことは出来るのだから。
「泣いてんじゃねぇよ、この悪魔が!」
少年が腕を振り上げたその時、何者かがその腕を掴みその少年を殴り飛ばした。
ニアベルは突然の出来事に一瞬呆けてしまったが、自身の涙を拭いその光景を見た。それは、見た事のない少年だった。
整った、そして少年らしい幼さの残る顔立ちで、貴族の子らしい金色の髪が輝いて見えた。
殴られた少年はというと、涙を浮かべながらも殴った少年を睨みつけた。
「な……何すんだよお前! そいつは悪魔なんだぞ! 何でそんな奴を庇うんだよ!」
その言葉に金髪の少年がニアベルに視線を向ける。その綺麗な瞳に見つめられ、どう思われているのかが怖くなりニアベルはさっと視線を下に落としてしまった。
「悪魔? もしかして、それはこの子の髪色のことを言っているのか?」
「当たり前だろ!」
予想に反して少年の声からはニアベルに対しての嫌悪は感じられなかった。
それを聞いてニアベルが恐る恐る顔を上げると、少年と目が合った。
ニアベルは一瞬身を竦ませるが、その目はとても暖かな目をしていた。それを見て少しだけニアベルの心に余裕が生まれた。
少年は殴られた少年に向き直ると腕を組んで相手を睨みつける。
「なぁ、お前の言ってるそれは昔の事件の話だろ? この子と何の関係もないじゃないか。そんなくだらない色眼鏡で人を判断して、恥ずかしくないのか?」
「な、何だと!? 大体お前、この俺を殴っておいてただで済むと思うなよ! 俺の父様は凄く偉いんだからな!」
「はぁ、どうしようもない奴だな。親の力を使わないと何も出来ないのか? 俺は親の力に頼らなくてもいいようにしろと教わったぞ。おい、自分の力でやり返してみせろよ」
そう言って少年は拳を構えるが、殴られた少年は応じない。
「うるさい! 親の力だって俺の力だ! 綺麗事を言うな! 大体、お前はどこの誰なんだよ! 俺はリストリア家の跡継ぎなんだぞ!」
殴られた少年が叫んだ。
リストリア家と言えばこの辺りでは一番偉い貴族だ。
その跡継ぎともなれば、周囲に自分よりも偉い者などほとんどいない。
きっとこれまではその名を出せば敵などいなかったのだろう。
しかし、この少年は怯まなかった。
「どこの誰かなんてのは正直どうでもいいが……俺の名前はヘイゼル・ディン・レオンだ。どうだ? 満足したかよ」
「な……! ヘイゼル!? それじゃあお前は……」
その名前にニアベルも驚いていた。
正しくこのパーティーを取り仕切っている商人こそ、そのヘイゼル家だったのだ。
ヘイゼル家は貴族としての地位こそあまり高くないが商人としての腕は一流であり、この国の王族とも懇意にしているほどだった。
そんなヘイゼル家を敵に回してしまうことの意味はとても大きい。
まして、このパーティーに来ているのだから尚更だろう。
殴られた少年の顔がみるみる内に青ざめた。
「お、俺は悪くない、俺は、俺は、うわぁ!」
終始偉そうにしていた少年は今にも泣きだしそうな顔で走って逃げて行ってしまった。その取り巻きも含めて。
そのため、そこにはニアベルとレオンのみが残された。
あまりの出来事にニアベルの涙は既に止まっていた。
レオンが振り向き、座ったままのニアベルを見て手を差し出してきた。
「家の名前を使うつもりは無かったんだけど、まぁ仕方ないよな。お前、大丈夫か?」
「あ、ありがとうございます」
差し出された手をそっと掴んで立ち上がる。
服も髪もすっかり乱れてしまっていた。
ニアベルはそれが恥ずかしくて俯きながら顔を赤くした。
「……あの、どうして助けてくれたの? 私の髪が気にならないの?」
それを聞くとレオンはキョトンとした顔をした後、満面の笑みを浮かべた。
「そんなの気にしてたら良い商人にはなれないよ。むしろ俺はその髪、綺麗だと思うけどな」
その言葉はニアベルの心に様々な感情を溢れさせ、目から涙が零れ落ちた。
「え!? だ、大丈夫か? どうしたんだよ?」
突然泣き出したニアベルにレオンは狼狽え、その袖でニアベルの涙を拭った。
「あう、ごめんなさい。そんなこと言われたの初めてで、嬉しくて。今までこの髪を嫌う人はいても、褒めてくれる人なんていなかったから」
「……そうか」
レオンはそれだけ言って、ニアベルの頭を撫でると抱き寄せた。
人肌の温もりに、暖かく柔らかい気持ちに包まれる。
ニアベルはレオンの胸に頭を押し付けた。
心臓の音が心地いい。
「……なぁ、これからもさ。会って俺と遊ばないか? 家の影響が結構強くてさ、自由に遊べる相手がいないんだ」
その提案はいつも一人でいるしか出来なかったニアベルにとって奇跡のような出来事だった。
溢れ出しそうになる涙を何とか留め、精一杯の笑顔を作る。
そしてこれから始まる未来に期待を込め、過去を振り払うように元気を絞り出した。
「うん! よろしくね!」
きっとこの時、私は恋に落ちたのだ。
*****
ニアベルは目を開けると目の前にいる青年を見て柔らかな微笑みを浮かべた。
私はこの人に出会わなかったら、きっと今もまだあの屋敷の中に閉じ籠ったままだったのだろう。
そんな自分を明るい世界へと連れ出してくれた青年。
堪らなく愛おしいその存在、私は一生を掛けて尽くし、支えたいと本気で思う。
例え彼が自分以外の人を選んだとしても、彼が幸せになるのであれば私は笑顔で祝福する。……とはいえ、その隣にいるのはやっぱり自分がいい。
「この気持ちは……傲慢なんでしょうか? どうなるにしても、レオの幸せを私は……」
「ん……うん?」
その時、目の前の青年……レオンがうっすらと目を開けた。
そのまま腕を上げて伸びをする。
「んん……。寝てしまったか」
「おはようございます、レオ。今紅茶を入れますね」
「ん、あぁおはよう、ニア。頼む」
ニアベルは願った。
少しでも長くこの時間が、この日々が続くようにと。
そしてその時は……そんな願いを消し去るようにやってくるのだ。
「面白い」「続きが気になる」と感じたら、
下の ☆☆☆☆☆ から評価を頂きたいです!
作者のモチベーションが上がるので、応援、ブクマ、感想などもお待ちしています!
登場時にはあんな感じだったレオンも元はしっかりとした子供だったんですね。
ニアベルを救い出す様はニアベルにとってのヒーローそのもの。
心の拠り所になるのもさもありなんです。
さて、次回「シュタント」、本幕間は一部新キャラのお披露目も兼ねています!




