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SSC ホーリークレイドル 〜消滅エンドに抗う者達〜   作者: Prasis
幕間―灯火に集いし者たち~トーチクラウド~―
374/445

―フレゼア・ニアベル―

 どうも、Prasisです!


 後書きに書いていた幕間を投稿していきたいと思います。

 内容としては二章で出てきたレオンとニアベル。二人を中心としたチームの結成(けっせい)物語です。宜しくお願いします!

 ホーリークレイドルにある一室。その自動ドアが開き一人の少女が入って来た。

 その少女はあまり華美(かび)ではないドレスを身に(まと)っており、胸ぐらいまでの長さのセミロングの(つや)やかな赤髪が特徴的だ。


 その少女、フレゼア・ニアベルは立ち止まって部屋を見渡した。

 たくさんのモニターとタッチパネルの前にはオペレーターの姿はなく、ソファに見慣れた金髪が見えるだけで他に誰かがいるような様子はない。


「あら、皆出払(ではら)ってしまってますのね」


 ニアベルはそのまま(あゆ)みを進めるとどこか気品(きひん)(ただよ)わせる(しと)やかな歩きでソファまで行き腰掛(こしか)けた。


「ふふ、レオも寝ていますのね」


 見ると向かいに座っていた金髪の男、ヘイゼル・ディン・レオンが腕を組んだまま若干俯(じゃっかんうつむ)く感じで目を(つむ)って眠っていた。


 ニアベルはそれをしばらく(なが)めた後、(おもむろ)に立ち上がり近付くとその金髪を()でた。


「疲れていたのでしょうか? ふふ、眠っていると無邪気(むじゃき)可愛(かわい)らしい。なんだか子供の(ころ)を思い出してしまいますわ」


 ニアベルはまたソファに腰掛(こしか)けると昔のことを思い出して、目を閉じた。



*****

 ニアベルはとある国の貴族(きぞく)の娘として生まれた。

 フレゼア家は貴族としては高くもなく低くもない地位(ちい)家柄(いえがら)で、特別厳しい家でもなかったため何不自由(なにふじゆう)なく生活する事が出来た。


 幼少期(ようしょうき)のニアベルは両親の愛情(あいじょう)を受けてすくすくと成長したのだが、そんな順風満帆(じゅんぷうまんぱん)の日々は長くは続かなかった。彼女の髪色が問題となったのだ。


 彼女の国では貴族の髪色はほとんどの場合が金色であり、それが高貴(こうき)さの象徴(しょうちょう)となっていた。

 そのため、貴族の中では彼女の美しく(つや)やかな赤髪も軽んじられる材料になってしまうのだ。加えて、赤色の髪はこの国において悪魔(あくま)の象徴とされていた。


 その原因は過去に起きた国への反逆(はんぎゃく)、その時の暴動は多数の死者を出し()むべき過去として語り()がれてきた。その事件の主導者(しゅどうしゃ)の髪色こそが赤だったのである。


 この国では赤色の髪は(めずら)しく、あまり見られる色ではなかった。

 その所為(せい)もあってか、関係あるはずもない髪の色が悪魔の象徴として取り上げられ、一部の人々は(しいた)げられていたのだ。


 そんな彼女とは全く関係のない理由で、年の近い貴族の子供達は彼女を(いじ)めていた。

 平民の子等(こら)もそれを見て赤髪だの、悪魔だのと言って彼女を(しいた)げた。


 そんな事が続くと彼女は次第(しだい)に引き(こも)るようになり、ほとんど家から出ない日々が続いた。


 そんなある日、ニアベルの父親が彼女を近くで行われていたパーティーに連れ出した。

 そのパーティーを主催(しゅさい)していた商人はとてもやり手で、貴族はこぞってパーティーに参加していた。


 ニアベルはもちろんそんなパーティーに参加したくはなかったが、そのパーティーは子連れが条件のものだったらしく、父親が大好きだったニアベルは断ることが出来なかった。


 結果として、ニアベルは金髪のウィッグを着けて赤髪を隠して参加した。

 しかし、パーティーにはニアベルのことを知っている貴族の子供がいたのだ。


 少年は(すみ)で大人しくしていたニアベルの元へと数人を連れてやってきた。

 その口元が(いや)しく(ゆが)む。


「おやおや? そこにいるのはニアベルじゃないか。最近見ないと思ったらお前、あの忌々(いまいま)しい赤髪はどうしたんだよ?」


 ニアベルはちらりと少年達を見たが、すぐに目線を()らした。

 ニアベルにとって、自分を知る少年達は恐怖(きょうふ)の対象だったのだ。


 だから黙ったまま目を(そむ)け、ニアベルは彼等(かれら)が興味を無くして立ち去るのを待った。

 しかし、無視されたことに腹を立てた少年は立ち去るどころかズンズンと近付いて来るとニアベルの髪を思いっきり(つか)んで引っ張った。


「おい、無視してんじゃねーよ! こんなもので髪を(かく)しやがって! 俺は知ってるんだからな! 隠しても無駄(むだ)なんだよ!」


「嫌! 放して! 痛い!」


 ニアベルはウィッグを取られないように頭を押さえながら引っ張るが、少年は手を離さない。それどころか周りにいた少年達も一緒になって引っ張り始めた。


 こうなってしまえば最早(もはや)ニアベルに勝ち目はなかった。


往生際(おうじょうぎわ)が悪いぞ。手を放せっての」


「痛っ! あっ!」


 (つい)に金髪のウィッグが()ぎ取られ、衆目(しゅうもく)に赤髪が(さら)された。少年の口の(はし)が上がる。


 ニアベルにはその少年こそが悪魔に見えた。

 咄嗟(とっさ)に周りに視線を向けるが、(すみ)っこにいたために父親はこちらに気付いておらず、周りの大人達も見て見ぬふりをしていた。


 大人達は直接手を(くだ)すことはなくとも、赤髪の子に積極的に関わろうとはしないのだ。


「おい皆、見てみろよ! 赤髪だぜ、悪魔の象徴だ! ここはこんなのが()ていいところじゃないよな? 追い出しちまおうぜ!」


「そうだ、そうだ!」


「悪魔め! ここから出ていけ!」


「嫌、痛い、止めて、うぅ……」


 少年達はニアベルの髪を引っ張り、体を突き押し、パーティー会場の外へと追い出そうとする。

 ニアベルの目には涙が(あふ)れ、()りむいた(ひざ)からは血が(にじ)み、せっかくの綺麗(きれい)なドレスも(よご)れてしまった。


 ニアベルは自身の髪が(にく)かった。ただ髪が赤いというだけで、どうしてこのような仕打(しう)ちを受けなければならないのか。


 ニアベルの心は(すで)()れ、もはや家に帰ることしか考えられなかった。

 家には自分を(いじ)めるような者はいないし、外に出なくとも()らすことは出来るのだから。


「泣いてんじゃねぇよ、この悪魔が!」


 少年が腕を振り上げたその時、何者かがその腕を(つか)みその少年を(なぐ)り飛ばした。


 ニアベルは突然の出来事に一瞬(ほう)けてしまったが、自身の涙を(ぬぐ)いその光景を見た。それは、見た事のない少年だった。


 整った、そして少年らしい(おさな)さの残る顔立(かおだ)ちで、貴族の子らしい金色の髪が輝いて見えた。

 (なぐ)られた少年はというと、涙を浮かべながらも殴った少年を(にら)みつけた。


「な……何すんだよお前! そいつは悪魔なんだぞ! 何でそんな奴を(かば)うんだよ!」


 その言葉に金髪の少年がニアベルに視線を向ける。その綺麗(きれい)(ひとみ)に見つめられ、どう思われているのかが(こわ)くなりニアベルはさっと視線を下に落としてしまった。


「悪魔? もしかして、それはこの子の髪色のことを言っているのか?」


「当たり前だろ!」


 予想に反して少年の声からはニアベルに対しての嫌悪(けんお)は感じられなかった。

 それを聞いてニアベルが恐る恐る顔を上げると、少年と目が合った。


 ニアベルは一瞬身を(すく)ませるが、その目はとても(あたた)かな目をしていた。それを見て少しだけニアベルの心に余裕(よゆう)が生まれた。


 少年は殴られた少年に向き直ると腕を組んで相手を(にら)みつける。


「なぁ、お前の言ってるそれは昔の事件の話だろ? この子と何の関係もないじゃないか。そんなくだらない色眼鏡(いろめがね)で人を判断して、()ずかしくないのか?」


「な、何だと!? 大体(だいたい)お前、この俺を(なぐ)っておいてただで済むと思うなよ! 俺の父様(とうさま)(すご)(えら)いんだからな!」


「はぁ、どうしようもない奴だな。親の力を使わないと何も出来ないのか? 俺は親の力に(たよ)らなくてもいいようにしろと教わったぞ。おい、自分の力でやり返してみせろよ」


 そう言って少年は(こぶし)(かま)えるが、(なぐ)られた少年は(おう)じない。


「うるさい! 親の力だって俺の力だ! 綺麗事(きれいごと)を言うな! 大体、お前はどこの誰なんだよ! 俺はリストリア家の跡継(あとつ)ぎなんだぞ!」


 (なぐ)られた少年が叫んだ。

 リストリア家と言えばこの辺りでは一番(えら)い貴族だ。

 その跡継(あとつ)ぎともなれば、周囲に自分よりも(えら)い者などほとんどいない。


 きっとこれまではその名を出せば敵などいなかったのだろう。

 しかし、この少年は(ひる)まなかった。


「どこの誰かなんてのは正直(しょうじき)どうでもいいが……俺の名前はヘイゼル・ディン・レオンだ。どうだ? 満足(まんぞく)したかよ」


「な……! ヘイゼル!? それじゃあお前は……」


 その名前にニアベルも驚いていた。

 (まさ)しくこのパーティーを取り仕切(しき)っている商人こそ、そのヘイゼル家だったのだ。


 ヘイゼル家は貴族としての地位(ちい)こそあまり高くないが商人としての腕は一流であり、この国の王族とも懇意(こんい)にしているほどだった。


 そんなヘイゼル家を敵に回してしまうことの意味はとても大きい。

 まして、このパーティーに来ているのだから尚更(なおさら)だろう。

 (なぐ)られた少年の顔がみるみる内に青ざめた。


「お、俺は悪くない、俺は、俺は、うわぁ!」


 終始偉(しゅうしえら)そうにしていた少年は今にも泣きだしそうな顔で走って逃げて行ってしまった。その取り巻きも含めて。


 そのため、そこにはニアベルとレオンのみが残された。

 あまりの出来事にニアベルの涙は(すで)に止まっていた。

 レオンが振り向き、座ったままのニアベルを見て手を差し出してきた。


「家の名前を使うつもりは無かったんだけど、まぁ仕方ないよな。お前、大丈夫か?」


「あ、ありがとうございます」


 差し出された手をそっと(つか)んで立ち上がる。


 服も髪もすっかり(みだ)れてしまっていた。

 ニアベルはそれが()ずかしくて(うつむ)きながら顔を赤くした。


「……あの、どうして助けてくれたの? 私の髪が気にならないの?」


 それを聞くとレオンはキョトンとした顔をした後、満面(まんめん)()みを浮かべた。


「そんなの気にしてたら良い商人にはなれないよ。むしろ俺はその髪、綺麗(きれい)だと思うけどな」


 その言葉はニアベルの心に様々な感情を(あふ)れさせ、目から涙が(こぼ)れ落ちた。


「え!? だ、大丈夫か? どうしたんだよ?」


 突然泣き出したニアベルにレオンは狼狽(うろた)え、その(そで)でニアベルの涙を(ぬぐ)った。


「あう、ごめんなさい。そんなこと言われたの初めてで、(うれ)しくて。今までこの髪を嫌う人はいても、()めてくれる人なんていなかったから」


「……そうか」


 レオンはそれだけ言って、ニアベルの頭を()でると()き寄せた。

 人肌(ひとはだ)(ぬく)もりに、(あたた)かく(やわ)らかい気持ちに包まれる。


 ニアベルはレオンの胸に頭を押し付けた。

 心臓の音が心地いい。


「……なぁ、これからもさ。会って俺と遊ばないか? 家の影響が結構強くてさ、自由に遊べる相手がいないんだ」


 その提案(ていあん)はいつも一人でいるしか出来なかったニアベルにとって奇跡(きせき)のような出来事だった。


 (あふ)れ出しそうになる涙を何とか(とど)め、精一杯の笑顔を作る。

 そしてこれから始まる未来に期待を込め、過去を振り払うように元気を(しぼ)り出した。


「うん! よろしくね!」


 きっとこの時、私は(こい)に落ちたのだ。


*****

 ニアベルは目を開けると目の前にいる青年(せいねん)を見て柔らかな微笑(ほほえ)みを浮かべた。


 私はこの人に出会わなかったら、きっと今もまだあの屋敷(やしき)の中に閉じ(こも)ったままだったのだろう。


 そんな自分を明るい世界へと連れ出してくれた青年。

 (たま)らなく(いと)おしいその存在、私は一生を掛けて()くし、支えたいと本気で思う。


 例え彼が自分以外の人を選んだとしても、彼が幸せになるのであれば私は笑顔で祝福(しゅくふく)する。……とはいえ、その(となり)にいるのはやっぱり自分がいい。


「この気持ちは……傲慢(ごうまん)なんでしょうか? どうなるにしても、レオの幸せを私は……」


「ん……うん?」


 その時、目の前の青年……レオンがうっすらと目を開けた。

 そのまま腕を上げて()びをする。


「んん……。()てしまったか」


「おはようございます、レオ。今紅茶(こうちゃ)を入れますね」


「ん、あぁおはよう、ニア。頼む」


 ニアベルは(ねが)った。


 少しでも長くこの時間が、この日々が続くようにと。

 そしてその時は……そんな願いを消し()るようにやってくるのだ。

「面白い」「続きが気になる」と感じたら、

 下の ☆☆☆☆☆ から評価を頂きたいです!


 作者のモチベーションが上がるので、応援、ブクマ、感想などもお待ちしています!


登場時にはあんな感じだったレオンも元はしっかりとした子供だったんですね。


ニアベルを救い出す様はニアベルにとってのヒーローそのもの。

心の拠り所になるのもさもありなんです。


さて、次回「シュタント」、本幕間は一部新キャラのお披露目も兼ねています!

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