6-72 小さな希望を胸に踏み出す一歩-2
突然現れて突然消える。
何とも理不尽な神様だ。
俺達に世界の命運を託すなんて。何とも重たい。
ははは、ヒーローになるのは止めたはずなのに、世界が俺の両肩にも乗っているなんてな。
「……ロナルドさんは、ずっとこれを抱えていたんですか?」
「あぁ、そうだよ。だけど私はフィアを死なせたくない。ディビナの予知は狙ったものを予知出来ないけど、同じものを予知する事はままあるからね。恐らく、次に予知が出来た時には未来を変えうる者も判明するはずだ。そして、予知を変えうるという事はフィアが死なない未来は存在するという事でもある。この意味は分かるね?」
そうか、そうだよな。
例え僅かでも、限りなく低い可能性でもフィアが死なない未来があるというのであれば、少なくともそれは恩寵の巫女の力なしでもアートルムを打倒しうる可能性が存在しているという事だ。
「そうだ。だったら俺は……」
「はたして必要なのは力なのか、どこかに恩寵の巫女のように対抗しうる特別な存在がいるのか、それは分からない。だから私は仲間を集め、力を磨こう。その時に向けて足掻くだけさ」
あぁ、この人は凄い。
こんな絶望的な状況の中でも諦めずに僅かな希望を探している。
……俺は守り人だ。フィアの彼氏なんだ。
だったら俺が諦めるわけにはいかないよな。
「……そうですね。俺も力の限り戦います」
「あぁ、宜しく頼むよ。それと、フィアを死なせないためにはフィアに恩寵の巫女の力を使わせないことが必要だ。このことはくれぐれもフィアには知らせないように頼むよ。この事実を知っているのは私達以外だとS級の皆だけだからね」
「分かりました。俺もフィアには死んで欲しくありませんから、必ず救ってみせます」
「……ふふふ、頼もしい限りですね。私も予知が見え次第、皆さんにお知らせします。これまでの経験上、一度予知で見た以上はその出来事が起きる前にもう一度予知が発動します。それだけは安心して下さい」
「ありがとうございます。ディビナさん」
「いえいえ、それではごきげんよう」
こうして、俺は社長室を後にした。
訓練で力を付けたり、仕事をして仲間を探したり、やる事は山ほどあるけれどまずはフィアの顔が見たい。
その思いで頭の中が一杯だったので俺はある事を忘れていた。
突如、扉の開く音がして……。
「わっ! 危ない!」
「ごはっ!」
突然の横からの衝撃に勢いよく壁に叩きつけられる。
そして、何かが俺の上に乗っかって……。
「あー、ナイスクッション! 久しぶりだね、お兄さん!」
「誰がナイスクッションだ。誰が……」
『あなたには衝突の災難が降り掛かるでしょう。気を付ける事ですね』
あぁ、忘れていた。
ディビナさんの予知は気を付けなければ確定の未来であったという事を。
頭を壁に打って鈍い痛みを感じながら、ディビナさんの予知能力を実感する。
それにしても、そろそろちゃんと叱っておかないと駄目だな。
「おい、部屋から出る時は気を付けろよ」
「いやぁ、ごめんごめん。今ちょっと急いでてさぁ」
「ん? 何かあったのか?」
「何かあったていうか、遂に私にもお得意さんが出来たんだよね」
「……お得意さん?」
「うん、私の作った装備を使いたいって人達だよ。今絶賛調整中なんだぁ」
「な、何だって?」
レジーナのとんでも装備を使いたい人達だと?
なんてチャレンジャーな奴等なんだ。命が惜しくないのか?
「そういうわけだから、じゃあねお兄さん。気を付けなきゃ駄目だよ?」
「それはこっちのセリフだぞ?」
「あはは、バイバーイ!」
そう言ってレジーナは嵐のように去って行ったのだった。
*****
たくさんのディスプレイに囲まれた部屋で真っ黒な瞳を濁らせている少年は、つまらなそうにとある星を映した画面を突いていた。
「うーん、神機。噂は凄かったのに全くの期待外れだったね。もっと凄いものだと思ったのになぁ」
その後ろでスッと姿勢よく立っている聖女風の半耳長族の少女と、だらしなく寝転んでいる蝙蝠吸血族の少女も批判的な意見を述べた。
「やはり搭乗者がいけなかったのでしょう。あの機体はどうやら生命力を相当量必要とするようです。十全な性能が発揮出来なかったのは大して適正もない老人を乗せていたためではないですか?」
「あー、それありそう。あんな爺に任せるからいけないのよ。それこそジェルドーとかを乗せておけば良かったんじゃないの?」
その意見を聞いて少年はうんうんと頷いて見せる。
その顔が僅かに笑みに変わった。
「……うん、皆の言う事は一理あるね。あんなのが乗っててもあれだけの力があったと考えればまだ使い道はありそうかな。それと、ジェルドーはあれで良かったんだよ。彼のおかげでフィアが覚醒したからね。でもまだまだ、僕の舞台に立つには全然足りないね。まぁ、まだこっちの準備も整っていないし、引き続きやっていくとしようか?」
「分かりました。スフォル様の思うままに」
「私も良いわよ。やられた分は返さないと気が済まないし、私を倒したと思っていい気になっているなら、手も足も出ないってなった時にもっと深く絶望してくれると思うのよねぇ。あはははは♡」
「よし、それじゃあ僕は次の仕込みをするとしようかな。二人にはしばらく休憩って事で簡単な仕事でもしてもらうよ。さぁ、どんどん忙しくなるからね」
スフォルはそう言ってリモコンを手に取るとディスプレイに向けてボタンを押した。
どうも、Prasisです。
SSC ホーリークレイドル 第六章~アンビションビーティング~
これにて終了です!
「面白い」「続きが気になる」と感じたら、
下の ☆☆☆☆☆ から評価を頂きたいです!
作者のモチベーションが上がるので、応援、ブクマ、感想などもお待ちしています!
第六章はいかがだったでしょうか?
今回で長過ぎた序盤が終わりましたので、
是非、感想や評価を頂きたいです!
本章はスフォル配下のリリアにナクスィア、ジェルドーとの再戦など、バトル展開も多かったですね。
加えて、本作の軸の部分であるフィアの事情に関する話が出て来るという、非常に濃密な章になりました。
その分、文量も多かったので読者の方々への負担も大きかったと思いますが、面白いと感じて頂けていたら嬉しいです。
そして何より、フィアと雷人がようやく付き合う事になりました!
設定上、二人が付き合わない事にはクレアが出て来ないので、ここまで結構な長さになってしまいました。
ですが、あまり簡単にくっつけるのは避けたかったんですよね。やっぱり、それなりの好きを育む時間って欲しいじゃないですか。
さて、それではこれで筆を置かせて頂きます。
今回も長々と失礼しました。
……ストックが無くなってしまいましたので、次章までは結構空くと思います。
申し訳ない。
ただ、ここで一つ幕間を挟もうと思いますので、七章の前に投稿したいと思います。
そちらもお楽しみに!
それでは、これからも
【 SSC ホーリークレイドル 〜消滅エンドに抗う者達〜 】
をどうぞよろしくお願いします!




