表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SSC ホーリークレイドル 〜消滅エンドに抗う者達〜   作者: Prasis
フロラシオンデイズ 第六章~アンビションビーティング~
370/445

6-69 恩寵の巫女-3

「……そんな、こと……」


 ロナルドさんは……今何と言った?

 悪神(あくしん)を封印すると、恩寵の巫女(シビルグレイス)は死ぬ?

 恩寵の巫女(シビルグレイス)っていうのは、つまりフィアの事で……。


 その言葉を受け止められず混乱(こんらん)する俺を見て、ロナルドさんはそれでも目を()らさずに続けた。


悪神(あくしん)を封印すればフィアは死ぬ。少なくとも、黒の民(シュバルツ)に伝わる伝承(でんしょう)によればそうなる」


「……それは、絶対に起きることなんですか?」


「残念ながら、この伝承は作り話じゃないんだ。これは物語ではなくて、歴史だ。それもおよそ百年に一度は起きている歴史だ。そして、ただの一度も例外はなく、恩寵の巫女(シビルグレイス)は悪神の封印と同時に()くなっている」


「……そんな、そんなのって」


 (うそ)だ。そんなのは間違いだ。

 そう言ってしまいたい衝動(しょうどう)()られる。


 しかし、その言葉をロナルドさんの目が否定(ひてい)する。

 これは(まぎ)れもない事実なのだと、そう突き付けてくる。


 俺は(うつむ)きながら(こぶし)(にぎ)()めた。

 世の理不尽(りふじん)さに救いを求めるように思考が(めぐ)る。


 その時、肩に何かが触れた。

 ロナルドさんが俺の肩に手を置いたのだと気付き、俺は顔を上げた。


 そして見えたロナルドさんの顔は、今の俺のような理不尽(りふじん)に打ちひしがれている顔には見えなかった。上手く説明は出来ないが、その瞳はまだ光を失っていないように見えたのだ。


 そして、ロナルドさんは言った。


「雷人君。それでも私はまだ(あきら)めていないよ。今も(なお)、フィアを死なせない方法を私は探しているんだ」


「……あるんですか? フィアを救える、そんな方法が……。百年に一度は起きてるって、それだけ繰り返されても例外の一つもないんですよね?」


「これまで起きていないからといって、これからも起きないという事にはならないよ。それに、私達には一つの希望がある」


「希望?」


「あぁ、それが彼女だ」


 そう言ってロナルドさんが()(しめ)したのは、先程から黙っている小人族(ブラウニー)の少女、ディビナさんだった。ロナルドさんに指されたディビナさんはただゆっくりと(うなず)いて見せた。


 この人が希望? 一体、彼女に何があるというんだ?

 その無言の言葉を(さっ)したかのようにロナルドさんは続けた。


「彼女はかつて占星(せんせい)巫女(みこ)と呼ばれていたんだ。というのも彼女には特別な力があってね。彼女は未来が見えるんだ」


「未来が……それは予知能力って事ですか?」


「そうだね。残念ながら自由自在に未来が見れるというわけではないけど、それでも彼女が見た未来は基本的に実現する。こんなことを言っても信じられないとは思うが、まずはこれを信じてもらわないことには話が進まない」


「予知、ですか……」


 俺がちらっとディビナさんに視線を向けると、ディビナさんが(おもむろ)に手に持っていた水晶玉(すいしょうだま)をこちらに向けた。すると水晶玉(すいしょうだま)がふわっと浮き上がり辺りに幻想的(げんそうてき)な光が立ち込めた。


「は? な、え?」


「……今、あなたの未来を(うらな)いました。ふふふ……ちょうどいい。これはきっと今日起きる未来です。あなたには衝突(しょうとつ)災難(さいなん)()り掛かるでしょう。気を付ける事ですね」


「しょ、衝突(しょうとつ)ですか?」


「……とりあえず、ロナルドの言葉が正しいという事で話を聞いて下さい。信じるかどうかは……この未来が実現した時に考えてもらえればいいでしょう」


 ディビナさんの言葉にちらっとロナルドさんの方を見る。

 すると彼は優しげに笑っていた。


「ごめんね。色々と唐突(とうとつ)で混乱させるけれど、体験してもらうのが一番早いからね」


 予知、(にわ)かには信じがたい話だが……確かにとやかく言っている場合ではないか。


「分かりました。とりあえず彼女の力については信じます。それで、どんな希望なんですか?」


「ありがとう。さて、その希望というのは彼女の能力を頼りにしたものだ。だから彼女の口から詳細(しょうさい)を語ってもらおう」


「はい。まずは私の能力、予知について説明しましょう。基本的に私は水晶玉を用いる事で特定の人に関する未来を見ることが出来ます。ですが、それがいつの未来なのかというのは正確には分かりません。未来は現在から時間が離れているほどに不確(ふたし)かになってしまいます。そして基本的に私が見た未来は実現しますが、これを(くつがえ)す方法も存在します」


(くつがえ)す方法があるんですか? もしかして、未来は確定しているわけではないって事ですか?」


「はい、そう言えるでしょう。もっとも変えることの出来ないものもありますが、それは例外ですので置いておくとします。それで肝心(かんじん)の方法なのですが、私には未来とセットで見えるものがあるのです。それは、未来を変えうる者の姿です」


「未来を変えうる者の姿……ですか?」


「はい、私の見た未来は基本的に変えることは出来ず、私が見た者達が本来と違う行動をとる事によってのみ変えることが出来ます」


 ……なるほど、何となく話が見えて来た。

 ロナルドさんの言う希望、それがこの能力だとするのならば……。


「……それって、どう行動すればいいかとか、どう行動したら駄目(だめ)だとかは分かるんですか?」


「良い質問です。私に見える未来は決定的な出来事、その場面の切り取りです。例えば誰かが怪我(けが)をする。死んでしまうという未来が見えたとしても、そこに(いた)過程(かてい)は分かりません。つまり、私の答えは分からない、です。ただ未来を変えうる者達。彼等(かれら)当事者(とうじしゃ)となるのは間違いないでしょう」


「……分かりました。それで、見たんですよね? フィアの未来を」


「えぇ、見ました。フィアが光の(つぶ)となって消えてしまう未来を……。ただ、私が最後に(くだん)の未来を見たのは七年ほど前の事です。先ほども言ったように、見える未来は時間が離れるほどに正確さが()けていきます。それがいつ起こるのかもそうですが、誰が関係するのか、それも見えないことが多いのです」


 は? いや、待て待て待て。

 希望って言ったよな? それは誰が関係しているかが見えていたからではないのか?


 さっき、例外で変えられないものもあるって言っていたよな?

 本当に大丈夫なのか?


 いや待て、まずは確認だ。

 事を()いては仕損(しそん)じるというじゃないか。

 まずは必要な情報を聞き出さなければ判断出来ない。


「……それはつまり、誰も見えなかったってことですか?」


「えぇ、そういう事になりますが、その表現は正確ではありません。誰も見えないのではなく、誰なのかが見えないのです」


「……えっと、それは何か違うんですか?」


「全然違います。何も見えないのではなくノイズが入ったような、確かに誰かではあるけれど分からない。そんな見え方でした。(ゆえ)にフィアの未来を変えうる者達、恐らくそれは存在します。ですがその情報は確定していないのです」


「……そういう予知はこれまでにもあったんですか? 前例とか……」


「えぇ、ありました。恐らく、未来への道筋(みちすじ)が確定していないのが問題だったのでしょう。私が見た未来は確定していますが、そこに至るまでの道筋はきっと(いく)つもあるのでしょう。ですから、どの道を辿(たど)るかで関係者が変わるのではないでしょうか? あくまでこれは私の想像に過ぎませんが」


 ……なるほど、ロナルドさんは希望と言った。

 それは助かる可能性があるという事であって、頑張れば助けられるという意味ではないという事か。


 現時点で正確に分かっていることは何もなく、全てはディビナさんの能力を()てにした憶測(おくそく)でしかない。


 ははっ、なるほどな。

 何もしなければフィアが死ぬ事は確定していて、それを変えることが出来るかは不明(ふめい)のまま。


 はっきり言って(わず)かな希望だ。

 俺がその未来を変えうる者なのかすら分からない。もしかしたら俺が何をしても無駄な可能性すらある。


 だけど、ディビナさんは言った。

 未来に(いた)道筋(みちすじ)は複数あって、それによって未来を変えうる者は変わる可能性がある。


 それはつまり、俺の今後の行動次第で俺が未来を変えうる者になる可能性もあるという事だな?

 それすらもディビナさんの想像に過ぎないという話だが、それでももう無理だと(あきら)めるよりはずっといい。


 想像以上にフィアの抱えている問題は大きかったが、それでも俺の(おも)いは変わっていない。


 俺はフィアを守りたい。


 だったら、(たと)(わず)かな可能性だって()けるに決まってる!

 それが、俺の答えだ。


「良い顔だね。それじゃあ、フィアの事情を知ったうえで改めて聞こう。正直な話、フィアを取り巻くこの問題は果てしなく大きい。それこそ全宇宙規模の問題だと言ってもいい。君にはフィアでなくても良い娘は他にいるかもしれない。もしフィアが死んでしまっても、封印(ふういん)が成功すれば次の復活(ふっかつ)までには百年近くの猶予(ゆうよ)が出来るはずだからね。君が生きている間には宇宙に危険は(おとず)れないだろう。こんな危険を(おか)さない方が君は幸せになれるかもしれない。それでも君はフィアと付き合いたいのかい?」


「はい! 俺が、フィアの運命を変えてみせます!」


「……いい答えだね。さて、それじゃあ君が今代(こんだい)()り人だ」


今代(こんだい)の……()り人?」


 何だ? どこかで聞いたような……。


「であれば、さぁ、来るよ」


「……え?」


 その時、突如(とつじょ)として部屋の真ん中に光が発生した。

 あまりの(まばゆ)い光に腕で目を隠す。


 そして俺は、その光の中に神々(こうごう)しさを身に(まと)う女性の姿を見たのだ。

「面白い」「続きが気になる」と感じたら、

 下の ☆☆☆☆☆ から評価を頂きたいです!


 作者のモチベーションが上がるので、応援、ブクマ、感想などもお待ちしています!



ディビナの能力、予知はプロローグで書かれていたあれです。

最初の時点だと何言ってんだ? って感じだったかと思いますが、今回の説明でなんとなくは分かりましたかね。


余談なのですが……ディビナの能力。

今回能力を使ったシーンで【水晶玉がふわっと浮き上がり辺りに幻想的(げんそうてき)な光が立ち込めた。】とあるのですが、これはただの演出です。


その方が気分が上がるので、ウルガスに作らせた浮いて光る水晶を使っているだけです。

水晶使っていますが予知はそこに映るわけではなく、ディビナが夢を見ているような感じの能力なので(はた)から見たら信じにくい。


だったら、演出があった方が信じられそうな気がしていいですよね。


それでは次回、「全てを知る者」お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ