6-68 恩寵の巫女-2
「特殊な事情?」
「あぁ、そうだ。今からする話をフィアに伝えないと、そう約束してくれるかい?」
特殊な事情。
さっき話していた黒の民とか黒き力とやら関連の話か?
いや、それならフィアはいてもいいはずだよな。
一体どんな事情がある? フィアは何かを抱えているんだ?
「……一ついいですか? その伝えないというのはフィアのためになる事なんですか?」
「もちろんだ。多少私の願望も入っているけどね」
何にしても、こうやってロナルドさんが言うという事は何かフィアは問題を抱えているはずだ。
それは病気なのか、種族特有の事情なのか、それは分からない。
だけど俺は自分の本心を見つけた、その上それが叶ったんだ。
俺の気持ちはそんな事で変わりはしない。その自信がある。
ならば、もう止まる理由なんてない。
「分かりました。聞かせて下さい」
「……良い目だね。分かった。それじゃあ、私も礼儀を示そう」
そう言って徐にロナルドさんは仮面に手をやるとそれを外した。
初めて見たその顔は優し気な顔立ちだったが、此方を見つめる真剣な瞳がその印象を上書きしていた。
いきなりの行動に驚いたが、その瞳を見て俺は口から出ようとしたあらゆる言葉を飲み込んだ。
「さて、話をしようか。フィアの抱える問題、悪神アートルムと恩寵の巫女の話を」
「悪神アートルムと、恩寵の巫女?」
突然の初耳な言葉に驚いたが、中身はさっぱり分からない。
ただ、悪神という言葉からして俺の予想とは全くベクトルが違う話だということだけは分かった。
「あぁ、これは黒の民に伝わる伝承に出てくる言葉でね。その伝承はこう伝えられている。【 黒き霧が世界に満ちる時、悪神アートルムは現れる。悪神アートルムは世に災いを振り撒き、世界をその手中に収めるだろう。その時、善神クレアに選ばれし恩寵の巫女は姿を現す。恩寵の巫女は浄化の光を纏いて命を燃やし、悪神アートルムを封印せん。さすれば、世に平和が訪れるだろう。 】……まぁ、よくある神話と同じだ。悪い神が世の中を荒らし回る。それを善い神に選ばれし者が打ち倒すってね」
「……その伝承とフィアに関係があるんですか?」
「あぁ、この伝承はよくある御伽噺のように聞こえるけれどね。悪神アートルムは実在するんだよ。そして、フィアが恩寵の巫女なんだ」
フィアが悪神を封印する巫女?
話がかなりぶっ飛んでいるが、とりあえず一つ疑問がある。
「色々聞きたい事はありますが……とりあえず一ついいですか?」
「うん、いいよ」
「どうしてそれをフィアに言っては駄目なんですか? もし悪神っていうのとフィアが戦わないといけないんだとしたら、それは知っていないといけない。そうですよね?」
俺の言葉にロナルドさんは一度目を閉じ、ゆっくりと一呼吸すると再び俺の瞳を見つめた。
その瞳には先程とは異なる印象を受けた。
これは僅かな、迷いか?
「……そうだね。本来ならそうだ。フィアはこの事実を知っていなければいけない。だからこれは私の我儘でしかないんだけれど……それでも私はフィアには伝えたくない」
「それは、どうしてですか?」
おずおずと尋ねるとロナルドさんは少し困ったように笑った。
「簡単な話だよ。さっきの伝承、覚えてるかな。恩寵の巫女は浄化の光を纏いて命を燃やし、ってなっているんだよ」
「……それって、いや、そんな……そんなことは」
「……もう分かっているだろう? その通りだよ。恩寵の巫女は、悪神を封印すると死んでしまうんだ」
やっと、やっと本題に入りました。
タイトルを見て読み始めてくれた方はもしかしたら、タイトル関係ねぇ! タイトル詐欺じゃねぇか!
ってなってたかもしれませんが、実は……詐欺じゃないんです。
信じられないかもしれませんが、タイトル詐欺じゃないんです!
え? 遅すぎ? ここまで長すぎ?
それはそう。
……次回、「恩寵の巫女-3」、お楽しみに!




