6-67 恩寵の巫女-1
「雷人に話? パパ、それって私は聞いてちゃいけない話なの?」
「そうだね。雷人君とは男と男の話し合いがあるんだ。すまないがフィアは席を外してほしい」
「男と男の話し合いって、一体何を話すつもり……て、ちょっ、マリエル姉さん!?」
「はいはいはい、フィアは私と向こうに行くかなー。お腹空いてない? 何か姉さんが奢ってあげちゃうかな」
「ちょ、ちょっと、まっ――」
フィアも何かしらを予期していたのか、何とかマリエルさんを振り解こうとしていたがそのまま連れて行かれてしまった。
いいんだフィア。
これはいつか越えなければならない壁なんだよ。
付き合い始めてその翌日にもう挨拶とは些か気が早過ぎるような気もするが、ここは邦桜ではないのだ。俺の常識は捨てよう。
そう考え仮面のお義父様に正対する。
そして俺は気付いた。お義父様の隣にさも当然の様に立っている一人の女性に……。
「……あの、ディビナさんは出て行かれないんですか?」
「えぇ、私もあなたには用がありますので……」
つまり、ロナルドさんとは別件でという事か?
そうであれば一度席を外してもらって改めての方がいいだろう。
ロナルドさんが何か言うはず、そう思ったのだがロナルドさんは特に出ていくように言う様子がない。ということは同じ要件で? そう思った俺はおずおずと質問した。
「……男と男の話し合いというのは?」
「悪いね。あれは方便だよ」
その返答に俺は無意識にジトーっとした視線を向けた。
……この人思ったよりもしれっと嘘を吐くな。
何というか、会長に近い雰囲気を感じる。
その場その場に合わせて冗談とかも言えるタイプの人間だ。
なんだかんだで真面目な人なのかと思っていたのだが、ちょっと印象が変わったな。
「……それで、話というのは?」
「うん、もうフィア達も十分に離れたかな? 悪かったね。この話は絶対にフィアには聞かれたくなかったんだ」
フィアに聞かれたくない話、やはりお付き合いに反対という事か。
それにディビナさんが何の関係があるかは分からないが、他に思い当たるものもない。
そう思った俺は思い切って切り出してみた。
「ロナルドさんは反対という事ですか?」
「反対? あぁ、もしかしてフィアと君が付き合うという話かな?」
「! やっぱりご存じだったんですね」
やはり予想は正しかった。
でも何だ? 何か違和感があるな。
今の反応、まるで他の話をしようとしていたみたいな……。
「ごめんね。君達のプライベートに干渉するつもりは無かったんだけど、あの天使族の子が話しているのをシンシアが聞いてしまったみたいでね。シンシアは仕事を忠実にこなしただけなんだ。責めないであげてほしい」
シルフェかー!
予想の斜め上の情報源に表情が若干崩れる。
てっきりこの話が漏れるならシンシアさんの盗み聞きだと思っていたが、偶然聞いただけだったのか。
疑ったりして申し訳ございません。
シルフェはそういう話をする時は周りに気を付けてね!
「いえ、いずれは話さないといけないことでしたし、お付き合いをするのなら将来の事も考えた上で付き合うべきだと思いますので」
「うん、真剣に考えているのならそれに越したことはないよ。さて、それで反対かどうかだったね。……率直に言おう、私は迷っている」
迷っている? 意外な答えだ。
この人は最初に会った時には娘をやらないと言っていたし、フィア達を愛しているように思える。まず間違いなく反対だと思っていたのだが……実は今回の件で俺の株が上がっていたりするのか?
いや、自惚れてはいけないぞ俺。
理由、そう理由だ。理由を聞かなければ判断は出来ない。
反対ではなくても賛成という事ではないのだから。
「迷っているのは……どうしてですか?」
「……実はフィアには特殊な事情があるんだ」
ちょっと引き延ばした感じになっちゃいましたが、
次回からが本作の本題となる設定になります。
次回、「恩寵の巫女-2」お楽しみに!




