6-64 黒き力
コホンと咳払いをしたロナルドさん。
顔は見えないがきっと真剣な表情をしているのだろう。
なんとなくそんな雰囲気を感じる。気を引き締めないとな。
「今日二人を呼んだのは実は重要な話があるからでね。その話というのは昨日の一件、その時にフィアの体から噴き出た黒い霧についてなんだ」
黒い霧……フィアが暴走した時に立ち上っていたあれの事か。
確かにかなり気になっていた事だったのだが、フィアが気を失って目覚めてからは再び出ることはなかった。
本人も暴走中の事はうっすらとしか覚えていないみたいだったし、問い詰めても意味がなさそうだったのでとりあえず放置していたのだが……ロナルドさんはあれの事を知っていたのか?
「パパ、あれが何か知ってるの? 私はあんなのが出た記憶はないんだけど……」
「あぁ、知っているよ。あれは危険なものだからね。出て来ないように封じ込めていたんだ。ほら、フィアは耳飾りを付けていただろう? あれが黒い霧を封じていたんだ」
フィアの耳飾り?
そういえばあの時割れていたんだったっけ。あれにそんな役割があったのか。
普段はほとんど髪に隠れて見えないけど、そういえばいつも付けていたような気がする。
「耳飾り……、確かに壊れたわね。そういえば、あれは昔パパから貰ったプレゼントだったっけ。ずっと付けていて欲しいって言われたから付けてたけど……あれが?」
「そうだよ、ごめんね。心配させたくなかったから必要がないならこの件については話すつもりはなかったんだ」
ロナルドさんの言葉にフィアは表情を険しくする。
自分の事を自分が知らなかったこと、知っていたのに隠されていたことに思うところがあるのだろう。
それも当然だ。ちょっとしたことならまだしも、暴走してしまうほどに危険なものだというのならこれは非常に重大な事実だ。
心配させたくないというロナルドさんの気持ちは分かるが、だからといって完璧に割り切れるものでもないだろう。
フィアは溜め息を一つ吐くと表情を緩めた。
「……色々と言いたいことはあるけど、パパの気持ちも分かるからそれについてはいいわ。……それで、続きを聞いてもいいかしら? 教えてくれるのよね?」
「もちろんだよ。とは言っても私もそこまで詳しくはないんだけどね。……その黒い霧。それは黒き力と呼ばれているものだ。それは恨みや妬み、単純に嫌だと思う感情とかね。そんな負の感情から生まれるエネルギーのようなものらしい」
「負の感情から生まれるエネルギー? そんなアニメの設定みたいな話……もしかして、それが私の能力なの?」
フィアのその言葉に俺はハッとした。
フィアは指輪を誰よりも多く扱える。
そんな人間が無能力者だなんてことが本当にあり得るのか?
それだったら元々何がしかの能力を持っていたが封じられていたという方が幾らも納得出来る。
そう思いロナルドさんを見つめる。
だが、相変わらず仮面なのでその表情は読み取ることは出来ない。
一体何を考えているんだ?
「……そうだね。とは言ってもその力はフィアの故郷、シュバルタムでは皆が持っていた特徴だよ。天使族の髪を変化させる力と同じようなものだね」
「……え? パパ、私の故郷を知ってるの? 私の事は一人でいた所を保護しただけだって言ってたじゃないの。もしかして本当のパパやママの事も知ってるの!?」
……なんだか修羅場みたいな事になってきたな。
幾らフィアが温厚だとはいっても家族喧嘩が勃発しそうな気配がむんむんする。
きっと何かしらの事情があるんだろうけど、こういうのは家族間に亀裂を生みかねない大問題だ。
……とはいえ、この一件について現状部外者でしかない俺はどうする事も出来ない。ただ、見守ることしか出来ないのは何とも歯痒いな。
「悪いんだけど、私はフィアの両親の事は知らない。ただ一つだけ分かっていることはある」
「ロナルド! ……いいのかな?」
これまで黙っていたマリエルさんの大声に全員の視線が集まる。
わざわざ確認するのだ。今言おうとしていることは、間違いなく良くないことなはずだ。
それをフィアも悟ったのだろう。フィアは覚悟を感じさせる表情をしていた。
「話して、私は真実を知っておきたいの」
黒き力、フィアの暴走の原因となった黒い霧をロナルド達は知っていました。
ここからの六章の残された内容、それは本作品の軸となる部分です。
……などと言ってはみたものの、設定の話なので説明が多くなってしまいます。
読みにくいかもしれませんが、ご容赦下さい。
次回、「暗き情動に挑む決意」、お楽しみに!




