6-61 これからを見つめて-3
ひとしきり笑い合った俺達は再び三人で向かい合った。
こんな時間がずっと続けばいい。そう思う。
「あはは、全員で頭下げ合って、何してるんだって感じだね」
「全くだな。でもこれはこれで俺達らしいんじゃないか?」
「ふふふ、そうですね」
唯の柔らかな笑み。
その表情にどことなく寂しさのようなものを感じた。
あぁ、唯も感じているのか?
これからがこれまでと変わっていくかもしれないことを。
状況は時間と共に変わっていく。
それは誰であっても避けられないことだ。
だから俺達は自分の道を選ばなければならない。
自分の意志で、動かないといけないのだ。
俺は下駄箱から靴を取り出すと振り返って唯の顔を見た。
視線を感じたのか、唯がこちらを向き視線が交差する。
俺は僅かに汗ばむ手を握りしめた。
「……なぁ、唯。俺と空はホーリークレイドルに正式に入社しようかと思ってるんだ」
「……え?」
突然の言葉に唯は俺と空の二人の顔を見つめる。
その表情は驚きの色に染まっていた。
切り出したタイミングは唐突だったが、この話は何も急な話じゃない。
唯も少なからず考えていたはずだ。
俺達は邦桜を巡る一件を解決するのを手伝うという理由でホーリークレイドルに仮入社している。
であればこの一件が解決した以上、俺達はホーリークレイドルに残るかどうかを選択しなければならない。
「……と言っても、さっき空と話したばっかりでな。このことはまだ誰にも言ってない。このまま順当に学校を卒業して特殊治安部隊に入るっていう道もあるけど、俺達はフィア達との縁を大切にしたいからさ。この国の事は会長達がいれば大丈夫だろうから、俺が特殊治安部隊に入る必要もないと思うんだ。むしろ会長がのらりくらりとやってないことの方が考え辛いだろ?」
「そういうわけでさ。唯ちゃんも一緒にどうかなと思って。正式に雇ってもらうのに何がいるのかとかは分からないけど、シルフェがなってるんだし大丈夫だと思うんだよね」
「あ、そうですね。その……すみません。少し考えさせてもらってもいいですか?」
俺達の提案に唯は視線を逸らしてそう言った。
それを見て俺ははっとした。
俺と空はこれからも唯と一緒にやっていけたら嬉しいが、唯には唯の事情というものがあるだろう。それは家庭の事情かもしれないし、何かしらの夢があるとかかもしれない。
何にしても、唯の事を想うなら俺達が望むことで唯の進む道の妨げをしてはいけない。唯の人生は唯が選択しなければいけないんだ。
そう考えた俺達は咄嗟に手をブンブンと振った。
「あ、や、そうだよな。悪い、別に今すぐにとかそういう話でもないんだ。ただ将来的にどうかなってだけで、大切なことだしゆっくり考えてくれればいいんだ」
「うんうん、唯ちゃんには唯ちゃんの考えがあると思うし、例えホーリークレイドルに入らなくたって、僕達がこの事件を一緒に乗り越えた親友だって事には変わりないしね」
「親友……はい、どうなるかは分かりませんが、例え何があってもずっと親友です」
俺達の言葉に唯は迷うかのように視線を揺らし、何やら頷いたかと思うと俺達の目を見つめた。
そして両手を胸の前で強く握りこむと何かを振り切るように力強くそう言い切った。
その様子は、決意……というよりは願望のように感じられた。
今はこれ以上この話をするべきではない。
そう考えた俺は持っていた靴を地面に落として履こうとし、それに気が付いた。
体に伝わるわずかな振動、端末が震えていた。
「ん? あれ、なんか連絡が……」
そして、頭に声が響いた。
その相手は……。
「……空、唯。悪いちょっと用事が出来た。買い物は二人で行ってもらってもいいか?」
「ん? いいけど、ちゃんとお疲れ会までには帰って来てね。今からだと多分七時くらいになりそうかな?」
「了解。それじゃ、よろしくな」
俺は手を敬礼の様に上げると走り出した。
逸る気持ちに心臓がバクバクと鳴っているが、そんなのお構いなしとばかりにただ足を動かした。
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雷人達のホーリークレイドル入社。
話の流れとしては予想通りだったでしょうか?
唯が保留にしたのは予想外ですかね?
唯にもいろいろと事情があるんですが、その辺りはおいおいという事で。
オイオイネー。
さて、次回「告白」、本章も終盤、畳み掛けて行きますよ!




