6-60 これからを見つめて-2
それにしても、相思相愛か……。
「今の話でいくと会長も?」
「おっと僕は用事が、それじゃあね」
「あ、会長が逃げたぞ。なんだかんだ言ってあの人も恋愛関係奥手だな。いいのか? 光葉」
自分に飛び火するとみるやそそくさと逃げ出す会長。
それを見て隼人がそんな事を言った。
会長が恋愛奥手だって?
むしろさっきの隼人みたいに相手を振り回すようなイメージなんだが……そうでもないのか?
そして話を振られた光葉はというと、胸の前でぎゅっと両手を握って去って行く会長の後姿を見つめていた。
「……私はいつまでも誠也様をお慕いしていますので、例え、相手が私でなかったとしても」
「……最悪一生片想い宣言? 重すぎねぇ? ……おわっ! あっぶねぇ、光線飛ばしてくんなよ!」
「知らないんですか? 隼人の命は私の愛よりも軽いんですよ?」
完全に自業自得なので何も言う気はないのだが、この人は相変わらず切れると怖いな。
本人に向かって言うのは怖いので心の中で言わせてもらうが、こんな所で能力を使うんじゃない。
とはいえ制御は完璧で校舎に傷はついていないみたいだけど……。怒っててもしっかりしてるのな。
「やべ、怖っ! ほら花南ちゃん、俺達も逃げるぞ!」
「な、何でそこで私の手を取るんですかー! 勘違いされるじゃないですか! 変態ぃい!」
上手い具合に光線を躱しながら花南の手を取って走っていく隼人。……あの二人、結局付き合ってるのか?
花南は否定しているみたいだけど照れ隠しともとれるし、隼人は胡散臭いからよく分からないな。
「……なんだかこの辺りは空気が甘ったるくてかないませんわね」
「……大丈夫? 落ち着いてく?」
「……両手でハートを作らないで下さいます? でも心さんもそんな冗談が言えるようになったのならいい事ですわ。さて、そろそろ私達も行きましょうか。それでは皆さんごきげんよう」
「……ん、ごきげんよう」
スカートの端をスッと摘まみ上げながらお辞儀をする花蓮とそれを横目で見ながら真似をする心。
割と堂に入って見えるが、どこかのお嬢様だったりするのか? いや、まさかな。
何気に同じように真似をしていた唯もかなり様になっているが……もしかして、女子ってこういうのこっそり練習してたりするのか?
そんな事を考えながら手を振っていると、スッと唯がこちらに向き直った。
「……皆さん、まるで嵐のようでしたね」
「いつの間にか光葉さんもいないし、個性的な人が多過ぎない?」
「……そう言われると、最近会った奴等って個性的じゃない奴の方が少ないよな。まぁいいや。今日はもう学校に用もないし俺達も帰るとするか」
「うん、そうだね。確かもう冷蔵庫の中身も無かったし、何か買って帰らないと。まだ昨日の疲れも残ってるし今日くらいはゆっくりしようよ。そうだ! 唯ちゃんも晩御飯一緒にどう? お疲れ会って事で」
「そうですね。はい、ご一緒させてもらいます」
「おー、お疲れ会か。これまで色々とあったけど、もう全部終わったんだもんな」
そう、終わったのだ。
であれば、これまでとこれからでは変わるものもある。
この、学校の中でも。
だから先に進むためにも一度色々と整理をする必要があるだろう。
例えば唯との関係とかな。
そのためにも、唯にはまずお礼を言わないとな。
「……唯、今日まで本当に助かった。もし唯がいなかったら俺はもうどっかで死んでたかもしれない。こんな結末を迎えられなかったかもしれない。これまで俺達を支えてくれて、本当に感謝してる」
「もう、いきなり何ですか? お疲れ会はまだ始まっていませんよ?」
「そうだよね。雷人ってば早いよ」
「悪い、何か言いたくなっちゃってさ」
「……でもそうだね。唯ちゃんは雷人を、僕達を、ここまでずっと支えてくれた。最初は僕達、唯ちゃんの事を遠ざけようとしたのに、それでも僕達との関係を大切にしたいって言ってくれたよね。あの時はびっくりしたけど嬉しかったんだ。ここまで辛い事も苦しいことも一杯あったけど、全部全部楽しかったよ。だから、ありがとう」
空が頭を下げたのに合わせて俺も一緒に頭を下げる。
慌てさせちゃうかと思ったけれど、少しして唯の落ち着いた声が聞こえた。
「……空君、雷人君。顔を上げて下さい。これは私がしたくてしたことです。二人と仲良くなりたかったのも、この場所を守りたかったのも、全部私の選択です。この思い出は私の一生の宝物。だから私からも、ありがとうございます」
首筋に風を感じた。
だから、何となくお辞儀したまま顔だけを上げて見ると、そこには同じようにしている二つの顔があった。
「ぷふっ、あははははは」
そして、俺達は腹を抱えて笑い合った。
心から楽しい、そんな時間だった。
心が「……大丈夫? 落ち着いてく?」と言っているシーンがありますね。
文中では特に描写はないですが、以前よりも積極的に能力の練習をするようになったことで、
能力の制御が可能になっていたりします。
以前は掛けたら掛けっぱなしで解除が出来ませんでしたが、今は解除や程度の調整が出来るようになっています。
今回の事件の裏方では負傷者に能力を使って痛覚を鈍くしたりとか、暴れないように感覚を無くしたりとか。手軽な麻酔代わりとして医療の補助をしていたりします。
ナンバーズウォーで大きく変わることが出来たんですね。
それでは次回、「これからを見つめて-3」、お楽しみに!




