6-59 これからを見つめて-1
「あー、やっと終わったよ」
昨夜の襲撃の一件から一夜明け、事態の説明をするからと夕凪先生に呼ばれたのだが、そこで待っていたのは夕凪先生による愚痴の嵐だった。
仕方がなかったとはいえ昨日の一件はラグーンシティ全体を巻き込む一大事になった。
流石の夕凪先生でもそれを抑え込む事は叶わず、特殊治安部隊とのどのように収拾を付けるかという話し合いは今朝方まで続いていたんだとか。
どうも報道系にまで手を回したらしく、今回の一件はラグーンシティ内の研究所から暴走した実験機が飛び出して暴れ回ったということになったんだとか。
流石に無理がある小学生のような言い訳ではあるが、特殊治安部隊が上手く対応していたようで死者はゼロ、怪我をした者が数十人くらいでなんとか収まり、避難誘導のおかげもあってか詳細を把握している一般人もほぼいないらしい。
ごく一部の詳細を知っている一般人には緘口令及び相応の措置を行ったとか。……国の闇が見えるな。
というわけで、俺達もこの件については他言無用。
話したらどうなるか分かっているだろうな? という事だった。
ははは、もちろん話しませんとも。
そんなこんなでぐったりとお疲れ状態な俺含むナンバーズと唯は帰宅するために昇降口へと向かっていた。
「それにしても、皆のおかげで今回は本当に助かったよ。ありがとうな」
「ふふふ、僕達は自分の居場所を守っただけですので感謝は不要です……と言いたいところですが、感謝してくれるのなら儲けものというもの。是非、僕と一度戦ってくれませんか?」
「……いや、それは遠慮しとくよ」
ずずいっと近付きながらそんな事を言ってくるので、そのほっぺたを全力で押し返す。
一度承諾してしまうと付き纏われそうな気がして気が引けるんだよな。あと単純に怖い。
「……そうですか。それは残念ですね」
こちらにその気がないという事を理解してくれたのか、思ったよりもあっさりと引き下がる風人。
昨日は思う存分能力を使っただろうし、もしかしたら欲求がそこまで溜まっていなかったのかもしれないな。助かった。
そんな風に俺がほっと胸を撫で下ろしていると、後ろから花蓮がスッと隣に入り込んで来た。
「まぁ風人さんの事は置いておいて、今回の事でお礼を言われるのでしたら私達からもお礼を言わせて欲しいですわ。詳しいことは知りませんが……これまでも人知れずあのような輩と戦っていたんでしょう? 陰で世界を救うヒーローというのもカッコいいとは思いますが、せっかく頑張ったのに称賛されないというのは考えものですわね」
なるほど、まぁそういう考えもあるよな。
確かに俺も昔は承認欲求でヒーローになりたいとか考えていたんだと思うし。でも、今はそうじゃない。
「確かにそういうのに憧れてた時期もあったんだけどな。今は別の目的が出来たからいいんだ」
「あら、もしかしてフィアさんですの?」
突然の鋭い切り返しに一瞬呼吸をするのを忘れる。
そして、一拍遅れて言われた内容を脳が理解した。
「……はっ!? な、え、はぁ!?」
「うふふふふ、分かりやすい反応、面白いですわね」
今の話の流れでどうしてそんな言葉が出る?
待て待て待て、俺の純情、知られ過ぎでは?
「何でバレて……」
「あら、気付いてるのは私だけじゃないと思いますわよ?」
「あっはっは、お前等分かりやすいんだよ!」
「せっかく僕は黙っていたのに、やっぱりゴシップネタは皆の食いつきがいいね」
花蓮の言葉に隼人が声をあげて笑い、会長はさも当然とばかりににやにやとこちらに視線を向けていた。
「く……会長は揺すりのネタにでもしてきそうで怖いな」
「いやいや、僕はそういうネタは扱わないよ。それに君は揺すらなくても動いてくれるだろう?」
「こ、この人は……」
本当、この人は人を掌の上で踊らされているような感覚にするのが上手いな。
「それにしてもどんどん周りがくっついて行きますわね。どう思います? 心さん」
「……んぅ、確かに。祭と風人、花南と隼人、光葉と誠也もそう?」
心の言葉にその場の全員の視線が飛び交った。
え? そんなに皆付きあったりとかしてたのか?
いや、まさか……。
「な、な、な、何言ってるんですか!? 私が、何であの男と! た、確かに最近一緒にいる事も増えましたが、それは偶々で……ごにょごにょ」
「いやぁ、俺と花南ちゃんの関係バレちゃったか―☆」
「あ、あなたって人はー!?」
この反応……まさか、万年ナンパネタ男の隼人に春が来たと言うのか……!?
「ふむ、周りの目は案外侮れないものですね。それでは隠す必要もなさそうですし僕達はこの辺で。祭、デートにでも行きましょうか」
周りの視線も気にしないとばかりに冷静な様子で祭に向かって手を差し出す風人。
対する祭はそうもいかないらしく顔を真っ赤にしていた。
「な、あんたまでそうやって……」
「おや、行きたくありませんか?」
「……行く」
風人の言葉にしばらく口をパクパクとさせた祭だったが、ゆっくりと差し出された手を掴むと観念したとばかりに上目遣いをしながら小さな声で返事をした。
風人はそれを見て満足そうに頷いた。
「ふふふ、素直が一番ですよ、祭。それでは皆さん、また」
「……じゃあね!」
早くこの場から立ち去りたいという気持ちが丸分かりな祭に反して、余裕綽々といった様子で手を引きながら歩き去って行く風人。
何だあれ? 一人だけ恋愛漫画から飛び出してきた?
「……あいつのメンタル強過ぎない?」
「性格は一番イケメンかもしれないよね」
「そうでしょうか? 相手による気もしますが……何にしても全然気付いていませんでした。周りに相思相愛の方がこんなにいたなんて」
俺と空は自分達と比較して大人が過ぎる同級生達を何とも言えない気持ちで見送った。
一方で、こういうシーンに一番ときめきそうな女子であるはずの唯は至って冷静に手をひらひらと振っていた。
なんだかんだで今回も後始末で忙殺された夕凪先生。
地味に割を食っていますね。裏で愚痴を言いながらもきっちり仕事をしている優秀なキャラです。
裏方が専門なので話にほとんど出て来ないのは残念な所。
ナンバーズの面々もキャラは立っているのでもっと活躍させたいところなのですが、
ホーリークレイドルとの繋がりが薄いので、今後の出番が限られてしまうのは辛いところですねー。
とはいえ、一応まだ出番の予定はあるんですよ?
さて、次回「これからを見つめて-2」お楽しみに!




