6-57 失恋の慟哭は箱の内に-1
「……それで話って何ですか?」
ここはホーリークレイドルにある会議室の一つ、完全防音であり外への情報漏洩を気にする必要のないこの場所にフォレオは呼び出されていた。
呼び出した相手が誰かといえば……。
「えぇ、一つ確認しておかないといけないことがあると思ったのよ」
フィアだ。雷人達は学校に行き、シルフェは特訓をすると言って師匠とルーの元へと向かった。
そのうえ、場所はここだ。もはや誰の邪魔も入る余地はありはしない。
一体、話の内容は何です?
以前はともかく、最近はかなり親しく出来ていた自信があります。
最近は強敵との交戦が多かったですが、それにも十分に対応出来ていたので自身の成長を実感出来ていました。
それもあって最近は劣等感も薄かったですから、ここの所つんけんした態度はほとんどとっていませんし、フィアとの関係は確実に改善しているはずです。
なのに、なのに、フィアのこの真剣な表情は何ですか?
何かこう、重大な告白でもしてきそうな感じじゃないですか!
はっ、まさか……! フィアの部屋にあるたくさんの写真が貼り付けられたボード。
それに加工して作ったうちとのツーショット写真をこっそり追加していたのがバレたのですか!?
おかしい、バレるはずがありません!
だって、他の写真を見た時にうっすら視界に移り込む程度に重ねたはず!
少しでも早く仲直り出来るように、無意識下でもうちとの親しさを感じるように少しずつ刷り込む計画が……!
「い、一体何のことですか?」
あらぬ妄想がフォレオの頭を駆け巡り、無意識にその頬を引き攣らせる。
それを見てなのか、フィアが緊張した面持ちで口をキュッと引き結んだ。
な、何かの覚悟を決めましたか?
もしかして、『こんな洗脳紛いの事をするなんて、フォレオって気持ち悪いのね』とか言われちゃうんですか?
い、いや、落ち着きなさい、フォレオ。
フィアは絶対にそんな事は言いません。
仮に言うとしても、こんな感じ……。
『えーと、フォレオ? 私、ああいうのは止めて欲しいかなって……』
あーーーーーーーっ!
駄目です! 駄目ですよ!
そんな事を言われたらもう顔を合わせられません!
あ、駄目、駄目です。
そんな気を遣うような、こっちを慮るような視線は止めて下さい! うちの心はもう張り裂けそうです!
「え、えっと、フォレオ? 何でそんな今にも泣きそうな顔を……顔も赤いけど、大丈夫? もしかして具合が悪いのかしら? 応急手当する?」
「お、お構いなく」
「そ、そう?」
しまった。いつの間にか顔に出ていたようですね。
クールがモットーのこのうちがとんだ失態です。
落ち着いて、落ち着いて、例えバレていてもなんとかなります。
フィアは清い子、優しい子。
たった一度の過ちなら許してくれます。
のー、ぷろぶれむ。
そう、いっつ、おーるおっけー。
「それで、用件は何ですか?」
「……実は私、雷人に好きだって言われたの」
……え、雷人が? いつの間に?
その言葉を聞いた瞬間、やっぱりそうかという感想と共にどことなく胸がキューっと痛んだような気がした。
「……おめでとうございます。何となく気付いていましたよ? 雷人がフィアを好きだろうって事、フィアもきっと雷人の事が好きって事も。本当にいつくっ付くのかなと思っていたくらいですよ。二人とも凄く分かりやすいですから」
「え、え? 私……そんなに分かりやすかったかしら」
あぁ、そんないじらしく顔を赤くして恥じらって。
本当に、フィアは可愛らしい女の子ですね。
さっきの妄想はうちの思い過ごしでしたか、良かった良かった。
それなら、うちはクールな自分でいられますね。
笑顔もばっちりです。
「えぇ、それはもう。他の男達に対する態度と全然違いましたから。一緒にいた期間はそれほど長くありませんが、うちはフィアの新しい一面を見ることが出来ましたよ」
「そ、それはちょっと恥ずかしいわね……うん」
「それで、うちに確認したい事というのは何ですか?」
「それは、ほら。フォレオって雷人の事が好きなんでしょ?」
「……え?」
その言葉は、フォレオの全身を電流の様に駆け巡った。
フォレオの顔から笑顔を奪い、間の抜けたような意表を突かれた女の顔がそこには残っていた。
予想通りの展開でしたか?
多分違ったんじゃないかと思いますが、フォレオの反応の所為でちょっとコメディ感のある話になっちゃいました。
フォレオのクールとか冷静だとか言いながら、振り回されてしまいがちな所が私は好きです。
さて、次回は真面目に行きますよ。「失恋の慟哭は箱の内に-2」、お楽しみに。




