6-55 邦桜を巡る一件の終幕
フィアと共にゆっくりと縦穴を昇って行く。
視界に広がるのは縦穴と星の散らばる綺麗な夜空のみ。
もはや間違いない、俺達の勝ちだ。
「はぁー、流石に疲れたな。久々に全力を出したぞ」
「そうね。私も疲れちゃった。……早く上に行きましょうか」
全力を出しても意識は失ってないし、最初の頃よりは幾分か成長したというのを感じる。
でも、ほぼほぼ体力を使い切ってこうしてフィアに支えられているというのは少々情けない気もするな。抱き着かれているのは嬉しい限りなんだが……。
そんな事を考えつつフィアの顔を見ていると、俺の視線に気付いたのかフィアが俺の顎を押して上を向かせようとしてきた。
「ちょっ、痛いって。何々?」
「もう、私ばっかり見てないで上を向いて警戒してなさいよ。まだ地上がどうなってるか分からないんだからね。出た瞬間に襲われる可能性だってあるかもしれないんだから」
「……まぁそれはそうなんだけど、あの神機とかいうのを倒したんだから多分大丈夫だろ」
「……神機って、あの神機?」
「よく知らないけど、多分その神機なんじゃないか?」
「私も詳しいわけじゃないけど……本当にあれが神機なんだったらこんなものじゃないと思うんだけど」
「あぁ、確か乗ってた爺さんも十分な出力が出せてないって言ってたな。本当にそうだったのか」
「なるほど、最後に確認されたのは随分前って話だしその可能性もあるか。ってそれもあるけど、確か神機には複数の形態があって、例え壊れたとしても核が無事なら別の形態に切り替えが出来たはず……。まぁさっきのは跡形もなくなってたし、核も破壊出来ただろうから関係ないか……」
「ん、そろそろ地上に出るぞ……」
その時、俺達は正直油断していた。
もう神機は倒したものだと考えていたからだ。
俺達を照らすわずかな明かり、それを遮る巨大な影、真っ赤な機械の怪鳥。
さながら朱雀と言えるだろうそれが俺達を見下ろしていたのだ。
「なっ! まさか、核の破壊を免れて……!」
「やられる前に地上に辿り着いてたのか!」
「貴様等だけは必ず今ここで殺してやる。死ねぇ!」
朱雀の腹、そこに備え付けられた無数の砲筒が火を噴いた。
もはやそれを全て防ぐだけの力は俺達には残されていなかったが、この爺さんは一つ思い違いをしている。
ここは地上だ。地下じゃない。
ここにいるのは俺達だけじゃないのだ。
放たれた無数の弾丸は俺達に届く前にその全てが弾かれた。
そして……。
「そーれ!」
「ぐぉっ! な、何者だ!」
「ふう、本当に世話の焼ける人達ですね。いつもいつも詰めが甘くて、うちがいないと全然ダメなんですから。ピンチにならないと気が済まないんですか?」
「ふっふっふー! 今回はいまいち良いとこなしだったからね。最後くらいはもらっちゃうよ!」
薙刀をくるくると回して弾丸を防いだフォレオと髪の毛ハンマーで朱雀を殴り飛ばしたシルフェ。
全く、頼りになる仲間達だ。
「悪い。もうほとんど力を使い果たしちゃっててな。後は任せてもいいか?」
「そうね。おいしいところは譲ってあげるわ」
「何が譲ってあげるですか……」
呆れたような表情のフォレオ。
しかし俺達の前から動く気はなさそうだ。守ってくれているのだろう。
そんな中、体勢を整えた朱雀が飛び立とうとしていた。
「くそっ、もう新手に見つかったのか! ……妬ましい限りだが、ここは一度引いてやる。貴様等は必ずこのコレオライ・ザレフが殺してやる。覚悟しておけ!」
「はぁ、逃げるんですか? とは言っても、もう逃げ場なんてありませんよ?」
「何を……な、何だこいつ等は! いつの間に!」
よくよく見てみると周りには複数の人影があった。
唯、芽衣、哨はもちろんの事、あれは韋駄天阿門さんに、水瀬夢姫さん?
あっちの燃えるような赤の着物の人は炎堂紅葉さん、その隣にいるスーツの人は冷泉氷室さんか?
おぉ……そういえば赤城さんが来ているって言ってたな。
本物を生で見るのは初めてだ。
こうして見ると錚々たる面々だ。
あ、あっちには風人に花蓮、祭もいるな。
ははは、今回のオールスター勢ぞろいか。流石にこのメンバーに囲まれて逃げるなんて不可能だな。
そんな事を考えていると、突然横が光ったかと思うとふっと虚空から空が現れ、どこからか赤城さんも跳んで来て瓦礫を吹き飛ばしながら着地した。
「あ? 何だ、また見た目が変わってるじゃないか。だがまぁ、もう終わりだな。観念しろよ。な?」
「ふざけるな! 木っ端が集まったからなんだと言うのだ! 貴様等なんぞに止められるものか!」
そんな風に声高らかに吠えたザレフだったが、そこからはもう飛び立つことすらも叶わなかった。
最後に現れた玄武と呼ぶべき亀のような形態もすぐに動きを止められ、赤城さんによる全力スマッシュを五回ほど耐えた所で核が破壊、なし崩し的にお縄についたのだった。
そうなった時には最初の元気はどこへやら、憔悴し切った様子でもはや抵抗する様子は見られなかった。
こうして、ザレフは宇宙警察に引き渡され、俺達の邦桜を巡る一件は幕を閉じたのだ。
*****
フィア達のチームの控え室、戦場各地を映していたモニターを食い入るように見ていた小さな影が脱力してソファに倒れ込んだ。
「はぁ、今回もなんとかなったみたいですね。良かったのですよ……」
「ノインが何度も暴れて大変だったけどね。主にルーが」
「わ、私は別に、大丈夫、だよ?」
「……悪かったのですよ」
そんなノインに治療医であるミューカスがお小言を言うと、ルイルイはぶんぶんと手を振ってそれを咄嗟に否定した。
しかしノインも迷惑を掛けていた自覚はあるようで、目を逸らしながらも小声で謝っていた。
それを見るとミューカスは視線を横にずらし、狐の仮面を頭の横側に着けた男に視線を向ける。
「それはそれとして……ロナルド。フィアのあれ、そろそろ限界なんじゃないの?」
「だよなぁ。流石にもう隠しとくのは無理だろ」
ミューカスの意見にエンジュが賛同、もとい全員が頷いたところでロナルドは困ったように笑った。
「やっぱりそうだよね。うーん、どうやって話したものかな?」
「私の方を見ないでくれるかな。私はとりあえずあの黒い霧については素直に話すしかないと思うけど、ディビナはどう思うの?」
「はい。問題ないでしょう。ロナルド、それでいいのでは?」
「……そうだね。こればっかりは本人が向き合わないといけないことだし、隠していても危険なだけだ。話せる情報は話すとしようか。さて、皆待機していてくれてありがとう。事態も何とか解決したみたいだしもう休んでもらって大丈夫だよ」
「そうするのですよ。……あれ? シノはどうしたのです?」
ロナルドの言葉で皆がゆっくりと立ち上がる。
そんな中、ふとアセシノが見当たらないことに気付いたノインが声を上げた。
「あん? ……そういえば姿が見えねぇけど、疲れて能力が出ちまってるだけだろ?」
「んぅ? そうかしら? それだと今出てきてないのが違和感なんだけど」
全員がきょろきょろと周りを見回しているがアセシノの姿は見えないし、当然声も聞こえない。
そんな中ドアが開く音に全員が視線を向けると、そこでは見覚えのある看板がぶんぶんと揺れていた。
「あれ? シノ、いつの間に外に出ていたのです? お手洗いにでも行っていたのですか? フィア達の方に夢中で気付かなかったのですよ」
【問題ないよ。今日はもう解散?】
「そうね。フィア達も無事よ、安心しなさいな」
【うん、大丈夫。それじゃあね】
看板にそう文字が流れるとまるで手を振るかのように看板が揺れ、スーッと消えて行った。
「本当、あの子はいつも忙しないわね……」
「そんなに忙しないか? 別にいつもいないわけじゃなくて誰も気付いてないだけだと思うけどな」
「ははは、それはそうだけどね。シノはちゃんと頑張っているさ。……さて、僕は急いで準備をしないとね。マリエル、ディビナ、手伝ってくれるかい?」
「もう、しょうがないかなぁ」
「はい、行きましょうか」
そして、全員が部屋を後にしたのだった。
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またもや復活したと思ったらすぐにボコボコにされてしまいましたね。
すぐに逃げないのが悪いんです。
さて、一章から続いて来ました一件がようやく終幕しました。
如何だったでしょうか?
え? 長い?
ははは、ですよねー。
自分の書きたい事を詰め込んだらこんなことになってしまいました。
しかし、後悔はありません!
さて、本章ではまだいくつか書かなければならない内容が残ってますので、もうしばらく続きます。
もう少しお付き合い下さいませ。
それでは、次回「いつも通りの朝にそれぞれの想いを抱えて」、久々のいつものあれです。




