6-54 天を穿つ絆の光
完全に開いたのか地面の揺れが止まる。時間的には恐らく外は夜だ。
故に光はほとんど見えないが、恐らく外までの道が出来たのだろう。
すると、用心のためなのか、青龍は光刃を回転させたまま逆さになり、尻尾を上にしてその縦穴に向かって昇って行った。何とも器用なものだ。
「ふははははは! さらばだ! 羽虫共! 儂はまた、貴様等を殺すために戻って来る! それまで精々震えておることだ!」
青龍が縦穴に消えたのを見ると、赤城さんが思いっ切り地面に剣を突き刺した。
赤城さんは、その姿勢で体をプルプルと振るわせていた。
「くそっ、今が最大のチャンスだっていうのに逃げられちまう! 雷人、急いで外に向かうぞ。間に合わないかもしれないが、外には他の隊員達もいる。もし足止めをしてくれていれば間に合うかもしれない。俺は諦めない!」
「……いえ、赤城さん一人で行って下さい。俺はここから奴をみすみす逃がすつもりはありません」
「……どうするつもりだ?」
「俺の全力を……ぶつけます」
言葉と同時、集中するとカナムが周囲から集まりだし、青白の光が集まって来る。
バレないようにするために青龍が穴に消えるまで分散させていたのだが、もしもの時のためにカナムは常に出し続けていたのだ。
俺の能力、カナムは一度に出せる量は大したことはないが、こうして時間を掛ければそれなりの量になる。
とはいえ、戦闘で結構使っていたので割と広範囲に霧散してしまっている。
逃げられる前に撃つことを考えると威力が足りるかは心配なのだが……。
そんな不安を押し殺しつつ赤城さんのこちらを見つめる視線に真っすぐ逸らさずに返す。すると、赤城さんはこちらに背中を向けた。
「分かった。こっちは頼んだぞ!」
そして、部屋の入り口に向かって走り去って行った。
それを見送っていると、入れ替わるように誰かがこちらに向かって走って来るのが見えた。あれは……!
「フィア! 空!」
「雷人……ごめんなさい。あなたにまた迷惑を掛けたみたいで、色々と言いたいことはあるんだけど……今はそんな場合じゃなさそうね」
「あぁ、黒幕の爺さんがロボットに乗ってあの縦穴から逃げようとしてる。急いで追いかけないと」
「あの縦穴……ね。分かった、私も行くわ」
「大丈夫なのか? かなり力を使ってただろ」
「うん、大丈夫。かなり消耗してたはずなんだけど、起きたらすっかり回復してたから……火事場の馬鹿力って奴なのかしら?」
「そっか、俺もだよ。空は……」
空の方に視線を向けると空は天井の縦穴を見て首を振った。
「いや、僕は足手纏いになっちゃいそうだから、シンシアさんに上に飛ばしてもらうよ」
「分かった。何かあったら頼む。それじゃあフィア、行こう。悪いけど緊急事態だから首に掴まって」
そう言って、スッとフィアをお姫様抱っこする。
照れ臭いが、全力で飛ばすなら俺の方がフィアよりも速いはずだ。
「きゃっ! ……もう、こういう事をサラッとやるんだから……」
「ん? 何か言ったか?」
「早く行ってって言ったのよ!」
「了解。舌を噛まないようにな。行くぞ!」
青白の翼を生やし、雷輪を思いっ切り回して一気に加速する。
そのまま縦穴の中に入ると、奥の方に僅かに青色が見えた。間違いない。青龍だ。
恐らく、出口に近付いたことでわずかに照らされているのだろう。
飛んではいたものの大した速さではなかったので追い付ける自信はあったのだが、割とギリギリだったかもしれない。
そして、どうやら向こうもこちらに気付いたらしく迎え撃たんとする橙色の光が縦穴を照らす。
「もしやとは思ったが、まさか本当に追って来るとはな。だが浅はかだったな羽虫よ。この縦穴の中ではもはや逃げ場もない。チャージも十分、ここが貴様等の墓場だ!」
「あぁ、確かにここには逃げ場がない。押し負けたら一巻の終わりだ。でも……」
俺がフィアの顔を見るとフィアもこちらを真っすぐ見つめて頷いて見せた。
何となく心が繋がったような、そんな気分になる。
「そうね。私達二人が力を合わせれば、あんなロボットなんかに負けたりなんてしないわ!」
「何をごちゃごちゃと、大人しく死ぬがいい!」
橙色の光が一層強烈になり、先ほど見たものよりも遥かに強力な光線が放たれた。
だが、微塵も負ける気はしない。
フィアが一緒なんだ。負けるなんてありえない!
「撃ち抜け! 授雷砲!!」
「焼き尽くしなさい! バーン! インフェルノ!!」
橙色の光と、青白の光の奔流がせめぎ合う。
そこに、フィアによる炎が合わさる事で少しずつこちらが押し勝ち始めた。
「馬鹿な! 有り得ん! いくら出力が足りていないとはいえ、デュシェルの砲撃形態の全力だぞ! 十分なチャージをしたのだ! 真っ向勝負でそこらの羽虫に負けるなど! 断じて有り得ん! 有り得てはならんのだ!」
「はっ、神機だか何だか知らないが、こっちは日々努力してるんだ! そんな借り物の力に頼って勝ち誇ってるような奴に負けてやるつもりはない!」
「能力は! その想いに応えるものよ! そんな危険な物を欲しがるような奴には、絶対に負けるわけにはいかないわ! 私は、私達は! 守るべきものがあるんだから!」
「ぬうぅ! こうなれば、デュシェルの限界を引き出すまでよ! さぁ、デュシェルよ! その真価を儂に見せるがいい! オーバーロード!!」
オーバーロード、無理矢理に引っ張り出した限界出力ってところか。なるほど、確かに押され始めてるな。だが……。
「フィア、まだいけるか?」
「えぇ、ここが踏ん張りどころね。私が支えるから雷人はそっちに集中しなさい」
フィアが体をくるりと捻ると脇の下から腕を通して抱き着かれるような形となる。
フィアが浮遊の指輪で支えてくれるなら、翼の制御はしなくて済む。
俺はその分を攻撃に回す!
「……あぁ、任せた」
青白の翼は霧散して消え、フィアに抱き着かれる形で安定する。さぁ、反撃開始だ!
「雷輪、多重展開、回転……開始。行くぞ、コレオライ・ザレフ。これが正真正銘、俺の、俺達の、全力だ!」
「「はあああああああああああああああぁ!!!」」
雷輪の高速回転により発生した斥力、それにより押し込まれていたせめぎ合いを一気に押し返す。
「馬鹿な、馬鹿な馬鹿な馬鹿な! こんな、こんなことがあってたまるか! 儂の、儂のデュシェルが、負けるものかあああああぁ!!」
縦穴に響く叫び、それを飲み込むような光の奔流が立ち昇り、雲を突き抜けて天を突いた。
作者が絶対に書きたかったシーンの一つ。
雷人とフィアが力を合わせ、上空に向かっての全力ビームが雲を吹き飛ばして夜空に巨大な大穴をあける……。
夜空を照らす、眩いほどの光の奔流。
そして、雲が吹き飛ばされることで、雲一つなくなった星の煌めく夜空。
いいですねぇ……。
似たような演出は見た事があるので、頭の中に映像が浮かびますね!
こういうシーンはやっぱりテンションが上がる!
「すー、はーっ」
さて、あまり作者がテンションを上げてても鬱陶しいと思うので、深呼吸しました。
もう今章も終盤に差し掛かりましたが、もう少し続くのでお付き合い下さい。
それでは次回、「邦桜を巡る一件の終幕」、いやタイトルまんまかい!




