6-53 青き龍は遠きを砕く
「いつつ……ったく、白い虎が消えたと思ったら青い龍がいるとか、一体どんな悪い冗談だ?」
「あれは……神機なのか? それとも……」
「逃げ回るな! 死ぬがよい!」
目の前の事態に理解が追い付かず動けないでいる俺と赤城さん。
すると、再び青龍の口内にある砲筒が光を放ち始めた。
「あれはやばい! 躱せ!」
「はい!」
赤城さんと俺が弾かれたように青龍に対して左右の方向にそれぞれ走り出す。
それとほぼ同時に橙色の眩い光線が走り、一直線に地面から壁、天井までを断ち切った。
そして、空気が膨張でもしたのか、周囲に熱風が吹き荒れる。走りながら青龍の方を見ると口内の砲筒から煙が漏れていた。
やはり先ほど見えた橙色の光は奴の放った光線だったみたいだ。
見た感じ、あの光線は収束版の聖なる光線や授雷砲程度の威力はありそうだ。
食らってしまえばさっきの白虎が放った熱線程度では済まないだろう。
恐らく赤城さんでも危ないはずだ。あれを食らうわけにはいかないな。
それにもしかしたら、もっと溜めて撃つことだって出来るかもしれない。
追尾とかしてこないのが唯一の救いだな。
さて、とりあえずあの砲撃に関してはその程度で良いとして……問題はあれが何なのかだな。
順当に考えれば神機でいいんだろうが、白虎はどうしたんだ?
ロボットだからな。仮に変形機構が付いていたとして、白虎は赤城さんが完全に破壊した。
あれはもはや変形してどうこうなるようなものではないはずだ。
だとすれば、自動修復機能でも付いているのか?
「ちょこまかと逃げ回りおって、ならばこれでどうだ!」
そんな事を考えていると、どうやら青龍の武装は口内の砲筒による砲撃だけではなかったようで、胴体の鱗が外側に開くとそこから無数の小さな砲筒が現れ周囲に光線をばら撒き始めた。
「まぁ流石にあれだけではないか。体の大きさからしてカバー範囲が狭すぎるし、体に取りつかれたらどうしようもないからな」
とりあえず、この光線はただの牽制みたいだな。
威力はさっきの光線ほどじゃないから雷盾でなんとか防げるはずだ。
白虎の熱線が効かなかったんだから、赤城さんの方も問題ない。
「どうした、どうした! 効かないぞ! おらぁ!」
叫びながら赤城さんが青龍に突っ込んでいく。
やはりあのくらいでは赤城さんは止められない。
考えている場合ではないか、俺も続かなくては!
「加勢します!」
青龍を中心に回るように走っていたのを、思いっ切り地を踏みしめて方向転換。青龍に向かって走り出す。
青龍は鱗のような外装に全身を覆われているが、あの長大な体をくねくねと動かしている以上関節部分は存在しているはずだ。
本来ならそこもしっかりと守られているのだろうが、俺達への牽制のために鱗を開いてしまっている以上はそこが弱点になるはず。
本体の大きさもあり、狙うべき場所はそんなに小さくない。
ならば操作の精度はそこまで要らないな。今は数で勝負だ!
「剣閃乱舞!」
空中に無数に出現した大剣が次々と青龍に殺到し、その胴体に突き刺さっていく。
光線に弾かれたり、位置や大剣の姿勢が悪く刺さらないものも多数あったが、それ以上に数で攻めているので次々と突き刺さる。
そして、幾つかは上手く砲筒に刺さったらしく無数の小さな爆発が起きた。
「ぬおおおおおお!?」
「おっと、やるな! だったら、俺もいっちょかましてやらないとな! いくぜ! ドラゴンスパイトオオォ!」
「くぅ、させんわ! 羽虫共がぁ!」
あの白虎を一撃で破壊した赤城さんの一撃。
流石にそれを食らえばまずいのは馬鹿でも分かる事だ。
青龍は必死に体をくねらせて赤城さんの一撃をギリギリで躱す。
代わりに叩かれた地面に巨大なクレーターが出来る辺り、あの一撃の威力が本当に凄まじいことが分かる。
赤城さん、頼もしいし憧れてるけど、本当に人間だよな……?
もしあれを食らっているのが自分だったらと思うと味方ながらゾッとする。
巻き込まれないように注意しないと。
しかし、せっかくの一撃も躱されると意味がない。
俺がどうにか動きを止めないと……。
そうだ。即興だが……。
「これで、どうだ! 破壊槌!」
空中に特殊合金の巨大な塊を形成、それを青龍目掛けて雷輪で加速させながら落としてぶつける。
距離がないので十分な加速は出来ないが、元々の重さがあるので威力は十分。
初めてやったので狙いが甘かったのだが、特殊合金の流星は青龍の尻尾の先に命中し、見事にその体を地面に縫い留めた。
「お、ナイスだ! これでもう逃げられないな!」
「くそっ! なぜだ!? デュシェルは宇宙を統べられる機体のはずなのだ! こんな羽虫共に苦戦していいはずがない! ぬおおおおおおぉ!」
「往生際が悪いぜ、爺さん! こいつで仕舞いだ!」
「終わるものかあああああぁ!」
赤城さんが青龍の頭に向かって走り、その頭を断たんと跳び上がった瞬間、青龍の全身が光を発した。
すると、青龍の全身から十メートルほどの長さの光の刃が飛び出し、青龍が高速で回転を始めた。
「なっ! ぐあっ!」
「赤城さん! あ、くそっ!」
赤城さんは迫りくる光刃を剣で防いでいたが、あえなく吹き飛ばされ壁に叩きつけられる。
刃は青龍の全身から出ていたため俺も下がらざるを得ず、回転に耐えられなかったのか特殊合金で押し潰していた尻尾が千切れた。
そして、青龍はそのまま空中に浮かび上がった。
「赤城さん! 大丈夫ですか!?」
「こっちは大丈夫だ! それよりも……」
「こんなことは、こんなことはあり得ないのだ! ……そうか、分かった! 分かったぞ! ふは、ふははははは! 残念だったな羽虫共!」
「何が残念だって! 口だけの爺さん!」
「ふん。まだ起動したばかりだからな。十分な出力が出せていないに違いないこれが神機の実力だと思ったら大間違いだという事だ!」
「何を言うかと思えば、憶測かよ。それよりもあんたの操縦技術が足りてないって言われた方がまだ納得できるな」
「確かにな。それにもし仮に暖機不足で出力が出せてないとしても、結局のところ今出せないなら意味がないだろうよ」
「全くですね。そんな事を言われても何も怖くない!」
「ふん、馬鹿な羽虫どもが嘗めくさりおって。今貴様等と決着をつける必要がどこにあるというのだ! 一度引いて調整をしてから覇道を始めればいいだけのことだろう」
「はっ、何を言うかと思えば。此処は地下だ。逃げ場なんてどこにもないぞ!」
「……いや、待って下さい赤城さん。あれをここに埋めることが出来たなら、きっと何か脱出の手段が……」
「ほう、そっちの小僧はまだ賢明なようだな。まさか、地下から出せもしないのに、取りに来るわけがあるまい?」
「な、何だ!」
「地面が……揺れてる!?」
天井に円形の巨大な穴が……いや、円形に天井がせり上がっているのか。
そして、それらは左右に割れ、そこには巨大な縦穴が現れた。
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高速移動形態の白虎に対して、砲撃形態の青龍
こっちは火力に重点を置いた高火力型ですね。
その分機動力は低く、取り付かれてしまうと厳しかったりします。
さて次回、「天を穿つ絆の光」お楽しみに!




