6-51 白き虎は最速を示す-1
「さて、まずは小手調べと行こうか!」
膝関節部を曲げたかと思うと、白虎が真直ぐに突進してくる。
神機というだけあってスピードはかなり速いな。でもこれならなんとか対応が可能だ!
勢いのままに振り下ろされる前足を横っ飛びで躱すと、地面が一瞬の光とともに爆ぜる。
「爆ぜた?」
攻撃を躱された白虎はそのまま奥の壁まで突っ込んでいって激突し土煙を上げていた。
その土煙の向こうに何やら眩い光が見える。
ただ前足を叩きつけたわけじゃないのか?
「むぅ、流石の速度だな。慣れるまではコントロールに難儀しそうだ。さて、運よく躱せたようだな。デュシェルのスピード重視形態、その初撃を。だが、いつまで躱し続けられるかな?」
反対側に赤城さんも跳んでいたのだが、どうやら奴は俺の方に狙いを付けたらしくこちらに向かって跳躍する。
そして、土煙の中でも主張の激しいその光の束を何度も何度も叩きつけてくる。動きは単純、攻撃の予測は難しくないな。
冷静に後ろに跳び退りながら躱していると、何となくその正体が掴めた。
「あれは、爪を模したレーザーブレードか」
そう、光の正体は足の先、爪のように伸びる四本のレーザーブレードだ。
それが近くを通るたび感じられる熱は、それらが一撃で俺を溶かしてしまいかねない熱を帯びていることを感じさせる。
試しに属性刀をぶつけてみた所、属性刀は簡単に両断されてしまった。
「ふはははははは! 一撃で敵を葬ることの出来る大出力! それをこれほどの速さで叩きつける一騎当千の機体だ! 恐れろ! 慄け! こいつが貴様等の死神だ!」
「くそっ、対応出来ないほどじゃないがガード出来ないのは面倒だな。とはいえ……ははは、これが俺の死神だって? 俺程度も圧倒出来ないのに、これが宇宙を支配出来る力? 拍子抜けもいいところだな。これならジェルドーの方が恐ろしかったぞ!」
ずっとバックステップの要領で躱していたが、バク転で体勢を変えて前傾姿勢になる。
そして、カナムで足場を調整してしっかりと地面を踏みしめると、俺は振り下ろされる前足に向かって突っ込んだ。
勢いそのままに身を捻ってぎりぎりでレーザーブレードを躱す。
さてジェルドー、悪いがさっそく使わせてもらうぞ!
「来い! 封印刀ケラディウス!」
掌を開いて翳しながら叫ぶとその先に紫色の光が集まり、うっすらと輝く綺麗な刀が手の中に納まっていた。そして俺は両手でそれを掴むとを思いっ切り振りかぶった。
「行くぞ。紫電一閃!」
雷輪によって急激に加速された青白の一閃が白虎の右前足に吸い込まれる。
渾身の一撃はレーザーブレードを出している指にヒットし、僅かに刃が食い込んだ。
流石は神機ということか、これほどの業物を使ってもあっさりとは切れないらしい。
だがまだだ!
この一撃はまだ止められたわけじゃない!
「はあああああああぁ!!」
「な、何だ! 何が起こったあああぁ!?」
雷輪をさらに加速、全力の一閃に白虎の足は内側に弾かれバランスを崩した。
白虎は右前足のレーザーブレードで左前脚に傷をつけながら勢いのままに地面を滑っていく。
どうやら脚は切断はされていないようなので、あのレーザーブレードの火力よりも装甲の頑丈さの方が上みたいだな。
攻撃は受けられないし装甲も簡単には破壊出来ない程に頑丈、今の所操縦が拙い以外に目立った弱点は無しか。
前評判ほどではなくて安心したが、それでもなかなかに厄介だな。
俺は勢いに逆らわずケラディウスを振り切るとそのまま空中で数回転し、地面に突き刺しながら身を捻って地面に足から着地した。
土煙を上げながらヘッドスライディングしたような形となった白虎は完全に横倒しとなっていた。どう考えても瞬時に立ち上がれるとは思えない。これはチャンスだ!
「赤城さん! 今です!」
「おう! これでも食らっとけ!」
白虎の後ろを追っていた赤城さんが跳び上がり、その無防備な背中に躍りかかる。
赤城さんは特殊治安部隊随一の剛腕だ。
完全にフリーの状態からなら、俺の紫電一閃を超える威力の一撃を出せるはずだ。
しかし、ザレフもそう簡単に諦めはしなかった。
「な、嘗めるな! デュシェルは、この程度で敗れはせんのだ!」
俺は失念していた。あれはロボットなのだから、体勢が整っていなくとも反撃が出来る可能性を考えるべきだったのだ。
白虎はグググと身を起こしながらその体から無数の砲身を展開したかと思うと、それらの全てが空中の赤城さんに狙いをつけた。
そして、閃光が殺到した。
機体の性能自体は高くても乗り手が良くなければそれほど脅威にはなりませんよね。
まぁ、雷人達が成長している今だから言える事なんですけども。
次回、「白き虎は最速を示す-2」、お楽しみに!




