6-50 神機デュシェル-3
「ほう、それなりに知識のある者もいたようだな。如何にも、その通りだ。確かに四機の神機はアルチザンによって管理され、二年程前に盗み出された。だが、一つ間違えているぞ。神機は全部で四機ではない。隠された一機、五機目が存在したのだ!」
「なっ! そんなまさか、それがその機体だとでも言うのですか!? そんなまさか、あり得ません!」
「ふはははは! あり得ないだと? あぁ、確かにお前達からすれば有り得まい。これは我が一族、儂のみが知る事実なのだからな!」
……なんだか二人で盛り上がっているが、正直そのテンションに付いて行けない。
当然だろう。神機が盗まれただの、幻の五機目が現れただの。
本来なら「な、なんだってー!」とでも驚くべき所なのだろうが、俺はその神機とやらの凄さをよく知らないのだ。
いや、宇宙を支配出来るというのだから凄いのだろうことは分かるが……何と言うか実感が湧かない。
似たような立場、もとい俺よりも宇宙スケールに慣れていないであろう赤城さんも同様だろう。
ポカーンとした顔でどうすればいいんだろうといった様子だ。
そんな中でもシンシアさんのオーバーリアクションに気を良くしたらしい爺さんの話は続く。
「何を隠そう。儂の祖父はかつて、かの王の友だったのだ!」
「え! アルチザン様のご友人ですか!?」
「そうだ! もっとも、祖父の遺品である手記を見つけた時には儂も驚いたものだが、調べれば調べるほどにそれが嘘ではないという事が分かった。そして、遂に儂はこの機体の設計図を見つけたのだ!」
「設計図……だったら、自分で作ろうとは思わなかったのか? あんた、ロボットを作ってる大企業の会長なんだろ?」
「ふん、無論、儂もそのような事は考えた。だが、出来なかったのだ。その設計図には肝心な部分が欠けていた。神機を神機たらしめる、なくてはならないもの。神機の核。それが設計図には載っていなかったのだ。どうやら神機の核はかの王、アルチザンの作った物を使用していたらしくてな。儂の祖父は神でもなんでもない。特別な才があったわけでもないただの凡人だったという事だ。だが、どちらにせよ儂はこの機体を探すつもりも作るつもりも無かった。最初は、な」
「……何となく話が見えてきました。かの王、アルチザン様の下に四機の神機があったからですね?」
「そうだ。だが二年前、それ等が盗まれたことで状況は変わった。かの王は最後に四体の神機を作り腑抜けおった。奴はあろうことか、自身の作った機体が戦争に使われる事を嫌がったのだ! たった一度、たった一度戦争に使われただけで全宇宙を支配出来るとまで言わしめたそれを、奴は封印したのだ! 馬鹿だとは思わぬか? それほどの戦闘能力を有した機体を作っておきながら、奴はそれが使われた後の事を想像していなかったのだ。その上これほど有用な機体を封印するなど、愚かにもほどがある。あぁ、それについては祖父も愚かだな。かの王なんぞに同調して、これほどの優れた機体をこのような辺境の地に打ち棄てていたのだからな」
「……何だよそれ。間違いに気付いたから封印したんだろ? その決断を馬鹿にするのは違うだろ」
「……ふん、貴様も戦争は良くないなどと考える輩か? 圧倒的な力、それを手にしておいて振るわないなどと、どこの聖人君子だ? 馬鹿馬鹿しい。何にしてもかの王は愚かであったが、その特異性ゆえに封印された機体は使えぬガラクタとなった。当然だ。神機はかの王にしか扱えぬ核を使用しているのだ。核を停止されれば動かす事などもはや出来ぬ。核を起動出来るのはアルチザンのみだ。故に、神機が盗まれたとて盗んだ者達はそれを扱うことが出来ぬのだよ」
その時、白い虎の体が僅かに震えた。
身震いした感じだな、それを見て俺と赤城さんは油断なく武器を構えた。
「幾らかの王が戦争を望まぬ腑抜けとはいえ、儂がこのデュシェルを駆ればかの王は神機の封印を解く恐れがあった。そうなっては宇宙を統べる事など出来はしない。だから儂は諦めていたのだが、それらが盗まれアルチザンの手元にないのであればこのデュシェルを、儂を止められる者はもはや誰もおらぬ! ふはは、ふははははは! アルチザンめ、どうせ動かないなら盗まれても問題ないと考えていたのだろうが、考えが甘いのだ! 後は奴を仕留めれば最後、誰も彼もが儂の前に膝を付くことになる! 儂が、宇宙を統べる覇者となるのだ!」
「……今の話が本当だとすれば相当まずいです。雷人さん! 赤城さん! あれが神機の一体だと言うのなら、恐らく約百年は動いていなかったはずです! いくら神機とはいえそんな物がメンテナンスも無く万全に動けるとは思えません! 手が付けられなくなる前にあれを止めて下さい!」
「そうか、なんだか難しい話で眠くなってきてた所だが……要はさっさとぶっ壊せばいいんだな? それなら話が早い! シンプル・イズ・ベスト! 簡単に行こうぜ!」
「はい! 話を聞いてむかついてきてた所なので、俺もそろそろ我慢の限界でした! ぶっ壊します!」
「来るか。だが……儂の勝ちだ」
二人で勢い込んだその時、白い虎のロボット……長いな。
仮に白虎とでも呼ぶか、白虎が駆動音を響かせながら立ち上がった。
立ち上がるとその体高はおよそ倍、二十メートルほどとなり威圧感が増した。
何というか、纏っている雰囲気が変わったような気がしたのだ。
その機械の白虎は体の調子を確かめるように、再びぶるぶると小刻みに体を揺すって見せた。
「ふはははははははは! 貴様らは唯一の好機を逃した! ちょうど今こいつの起動シークエンスが終わった! まだ動けない内に攻められれば如何に神機と言えど無防備だからな。肝を冷やしたものだが、残念だったな。もはや貴様らに勝ちの目はない!」
起動シークエンスが終わった?
さっきまであのロボットが伏せていたのは、まだ起動出来ていなかったからなのか。
ははっ、情報を引き出しているつもりでまんまと時間を稼がれたってわけか。
……だが、見た感じどことなく動きがぎこちなく見える。
シンシアさんの言うように本調子でないのか、爺さんも初めて乗るはずだからな。操作に慣れていない可能性もあるか。
何にしても、最初が絶好のチャンスであることには変わりなさそうだ。
「赤城さん。短期決戦に持ち込んだ方がいいと思います。最初から全力で行きましょう!」
「あぁ、全力全開フルスロットル! レッドドラゴン! 出撃だ!」
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いやぁ、ちょっと説明が長かったですかね。
申し訳ない。
しかし、一連の事件の真相はこれではっきりとしましたね。
そういう事です!
それでは次回「白き虎は最速を示す-1」戦闘開始です!




