6-48 神機デュシェル-1
「これは……」
「はっはっは、いやまさか地下にこんな広い空間とこんな物が隠されていたなんてな。驚きを通り越して笑えてきちまったぜ」
「……来たか。という事はジェルドーの奴め、また負けおったな? 本当に口ほどにもない奴よ」
大部屋全体に反響するように声が響く。
そこは、縦横が数百メートルはありそうな巨大な大部屋。
高さは百数十メートルといったところか、その全体は天井にびっしりと付けられた照明の光で照らされているため見通せるが見渡す限り何もなかった。
ただ、その中央に伏せているそれを除いて。
それは体高十メートルはありそうな真っ白な虎だった。
虎、といっても別に生きているわけではない。
その体は光を反射して光沢がある事を示している。
要するにあれは、ロボットなのだ。
加えて、声はするのに人の姿が見えない。もはや間違いないだろう。
「あれに、乗っているのか……」
「ホワイトタイガーのロボットか? 真っ白なボディに走る黒い虎模様、男心的にはカッコ良くていいよな。グッとくる」
「赤城さんもそういうの好きなんですね」
「そうだな。子供の頃に似たようなアニメを見たことがあるんだ。ああいうカッコいいロボットを操縦するのなんて、男の憧れって奴だろ?」
「……そうですね。俺も確かにカッコいいと思います。でも、あれは壊さなくちゃいけない。どんな物なのかは分かりませんが、きっと碌でもない物ですよ」
「全くだ。ちょっと後ろ髪を引かれる想いはあるが……。それとこれとは話が別だな」
「ごちゃごちゃと何を喋っておる、虫けら共が」
こちらが二人で話していたのが気に食わなかったのか、赤城さんの言葉に被せるようにしてそんな事を言う男の声。声の感じからしてかなり年齢が高そうだ。
確かシンシアさんがジェルドーともう一人、杖をついた老人が入って行ったと言っていたな。恐らく、そいつで間違いないだろう。
そして、状況からしてこいつが探していた物と言うのがこのロボットなのだろう。
つまり、こいつが邦桜を巡るこれまでの事件の黒幕って奴だ。
これまでさんざんロボットやら傭兵やらを送り込んできた分、しっかりと返してやらないとな。
そんな事を考えていると、赤城さんが仁王立ちで大声を上げた。
「とりあえず聞いておく! お前は誰だ!」
「……ふん、これまでさんざん時間はあっただろうに、未だに儂に辿り着いておらんかったのか? 宇宙警察もその腰巾着も大したことはないのだな。儂は今この時をもって覇の道を歩み始める。故に、最早隠す必要もあるまい。儂の名はコレオライ・ザレフ。宇宙に広く名を轟かす、コレオライグループの会長よ!」
「……コレオライグループ? お前達の組織は確か、コスモスルーラーって名前じゃなかったのか?」
「あぁ、その名か。馬鹿正直に自己紹介などするものか。それは傭兵共に名乗るための仮の名よ。もっとも、これより宇宙の支配者となる儂を示すふさわしい名だとは思うがな」
仮の名……。まぁそうか。
これまでの奴等を見る限り構成員は全員が雇われの傭兵だった。恐らく、実体のない組織だったのだろう。
そうはいってもあれほどに強い傭兵達を雇い、その上あれだけの数のロボットを送り込んで来たのだ。必要な資金は相当な額だったはずだ。
それを考えれば宇宙で有名なグループの会長?
それだけの地位と言うのも納得がいくというものだ。
俺はそんな風に自分の中で落し所を見つけたのだが、当然というか赤城さんは何を言っているのか分からんと言いたげな真顔だった。
そしてどう反応するべきか迷ったのか、くるっとこちらに顔を向けた。
「……なぁ、そのコレオライグループとやらの会長は凄いのか?」
「いや、俺も知りませんけど、宇宙に広く知られているって言うからには凄いんじゃないですか?」
赤城さんは俺の歯切れの悪い回答に「そうか」といまいち納得いっていなさそうな表情をしていた。するとその時、突然声が響いた。
「お困りですか? お困りですよね。それでは説明させてもらいましょう!」
困った時の解説役、シンシアさんまたもや登場!
通信越しの声だけの登場、正しく天の声的な立ち位置ですね。
次回、「神機デュシェル-2」、虎が白かったら何となく想像つきますかね。




