6-44 例え火の中であろうとも-1
いわゆる火災旋風が目の前で巻き起こり、そのあまりの熱量に俺は後退るしかなかった。
「あつ、これは……」
「ちょちょちょ、これってもしかしなくてもフィアさんだよね!?」
あぁ、どうやら俺は勘違いをしていたらしい。
洞窟の崩落を防いでいたから、フィアは正気を保っているものだと思い込んでいた。いや、そう思いたかったのか。
フィアが正気なら俺達が近くにいる状況でこんな攻撃をするわけがない。
ジェルドーは、奴は重症だからもう駄目だと言っていたんじゃない。フィアが止まらないと分かっていたから俺に託したんだ。
そして、吹き荒れていた青炎が消えると、そこにはもう塵の一つも残っていなかった。
「雷人……」
「あぁ、ジェルドーは死んだ」
フィアは、ジェルドーを殺した。
この目で見てしまえば疑う余地もない。
……いや、そんなことは今は問題じゃない。
ジェルドーの最期を想えば複雑な気持ちにもなるが、俺達は殺し合いをしていたのだ。
俺達の誰にも死ぬ可能性はあった。これは気にしても仕方のない事だ。
割り切れ、今一番の問題は、目の前にある。
そう思い空中に浮かんでいるフィアに視線を向けると、突然フィアが咆哮をあげた。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァ!!!」
「うわっ! なになになに!?」
「やっぱり、正気を失ってるみたいだな」
咆哮をあげたフィアはそのまま周囲に炎を撒き散らし始めた。
まるで、癇癪を起こした子供みたいに。
そして、その姿は酷く苦しそうに見えた。
「どどどどど、どうしよう! 雷人! このままじゃ天井が崩れちゃうよ!」
「どうするって、止めるしかないだろ……」
「え? 止めるって……無茶だよ! さっきのあれ見たでしょ! 一瞬で塵にされちゃうって! あ、それとも何か考えがあるの?」
「いや、考えはない……。だけど、フィアは苦しんでる。こんな時こそ俺は行かないといけないだろ。悪い、これ持っててくれ!」
「ちょっ! もうっ! 馬鹿っ!」
俺は空にジェルドーから預かった刀を押し付けると制止も振り切って走り出した。そして、背中に青白の翼を生やすとフィアに向かって真っすぐに飛び立つ。
荒れ狂うような凄まじい熱波が襲い掛かって来る。
全方位に放出している所為か遠目に見ていたほどの火力はないみたいだが、それでも十分な脅威だ。
さらにフィアに近付くにつれてその熱量は増し、向かい来る強風にスピードも落ちる。
「くそっ! フィア! 何があったのか知らないけど、落ち着け! お前はこんな風に周りを壊すのを良しとはしないはずだ!」
風を受け流しやすいように前方に雷盾を設置し、無理矢理に突き進む。
しかし、あまりの強風になかなか前に進むことが出来ない。
押さえきれない強風に雷盾にひびが入り、漏れた熱風で目を上手く開けられない。それでも、腕を前に出してフィアを見つめる。
近付いたことでフィアの表情が僅かに見えた。
頭を抱えて苦しそうなフィア、その真っ赤に光る瞳から涙が零れたのが見えた。
「くそっ! こんな、熱風くらいで……!」
熱い、目が乾いて開けているのがつらい、苦しい。
……それでも、俺は進むぞ。
フィアも苦しんでるんだもんな。
苦しいからって俺が逃げたら、誰がフィアを助けるんだ!
……いや、違うな。俺が助けたいから助けるんだ。
俺がこれ以上苦しんで欲しくないから助けるんだ。
辿り着けたところで助ける方法なんて分からない。
俺が行ったところで無駄な事なのかもしれない。
それでも、俺は助けたいんだ!
君の元に向かわずにはいられないんだ!
……俺は我儘だからな。
例え不可能だとしても、俺はこの手を伸ばして無理やりにでも掴んでやる!
「フィアああああああ! 今! 行くぞおおおおおお!!」
俺の叫びに応じるように、雷輪が回転速度を上げる。より大きな力が俺の体を引っ張っていく。
体が青白の光を帯び、流星と化す。
「アアアアアアアアアアァァァァァ!!」
体を熱波が撫で、全身がひりひりと痛む。
でも、それでも俺は辿り着いたのだ。
次回、「例え火の中であろうとも-2」、お楽しみに!




