6-38 狂人達の帰還
「さて、夢姫の能力で眠らせた者は例え近くで騒ごうが起きる事はないが、とはいえ放置するわけにもいかない。早いところ捕縛しようじゃないか!」
「えぇ、そうね。阿門ちゃん。はい、ホーリークレイドルの方達から預かった手錠よ。何でも、掛けると能力が使えなくなるらしいわ」
「何だって? 能力が使えなくなる? そんな物が存在するのか」
「あー、それ。本当だよ! 私も一回掛けられたことがあるからね」
阿門は夢姫から受け取った手錠を訝し気に眺めていたが、シルフェの言葉を聞いて信用したらしい。
「ふむ、君は嘘を言いそうにない、私には分かるぞ! なるほど便利な物だな」
阿門はつかつかとリリアに近付いていくとそばにしゃがんでその手を掴んだ。
「それでは早速掛けるとしよ……」
「えっ!? 危ないわ! 阿門ちゃん!」
「む? おっとぉ!」
その時、横から飛来した銃弾を阿門はなんとか剣で弾いたけど、同時に滑り込んで来たベールを被った女の子が振るった剣……剣?
よく分からないけど、刃のついた剣みたいなもので夢姫と阿門が弾き飛ばされた。
「あ、あなたは!」
「あぁ、ギリギリ無事、といったところでしょうか? すみませんね。天使族の娘。今は名乗っている暇がありません!」
再び横から飛んで来た銃撃。それを滑るようにして躱しながら、その少女はリリアを肩に担ぎあげた。
銃弾の飛んで来た方向を見ると、フォレオがこっちに向かってくるところだった。
「逃しませんよ! シルフェ! 手を貸して下さい、ここで仕留めます!」
「あ、うん!」
シルフェはフォレオの言葉を聞くや髪束を一本の槍状に固め、それを光の矢でコーティングする。
そして、それをその女性に目掛けて思いっ切り投擲した。
ふふん、光の矢よりも威力を高めた新技だよ。
「極光の投げ槍!」
全力を込めた投げ槍は、その少女が弾くために振るった剣を弾き飛ばした。
リリアを担いでいたこともあり、その勢いで少女は体勢を大きく崩した。
「くっ!? ふふっ、これはしたり。良い一撃です」
「ナイスですよ、シルフェ! さぁ、ここが終着点です! 流華薙ぎ!」
そこに滑り込んで来たフォレオの回転を加えた鋭い一閃。
それをあろうことかその少女はリリアの体を使って防いだ。
驚愕の光景に全員が目を見開く。
「え、仲間を盾に!? むむ、もう一度! 極光の投げ槍!」
「……っ! もう一発! 流々薙ぎ!」
「それは見過ごせんぞ! 韋駄天!」
シルフェの放った投げ槍、フォレオが勢いそのままに体を回転、斜め上から下に振るう薙刀、加えて高速で突進した阿門による一撃。
それらの全てをリリアを盾にしつつギリギリで躱していく少女。
それをシルフェ達は驚愕の表情で見ていた。
「どうして!」
「貴様……外道め!」
「ま、まだっ!」
「ふぅ非常に残念ですが、これにてお暇させて頂きます。それでは、ごきげんよう」
非難を帯びた視線に晒されながらも、全く堪えた様子のない少女は、追撃を躱した不安定な体勢のままで軽く頭を下げる。
そして、止まることなく突き出されたフォレオの突きを後ろ向きに滑って躱し、そのままビルの屋上から飛び降りた。
ボロボロに破れたベールを靡かせながら浮かべたその表情は勝ちを思わせる笑みであった。
だが、担いでいるリリアが右腕と両足を切断され、その体を、顔を鮮血で染めていたことがその場に居た全員に鮮烈な印象を与えた。
そして、狙い澄ましたように虚空に開かれたゲートに、そのもはや聖女とは思えない見た目になった女性は飛び込んだ。
その後、ゲートは瞬く間に消えてしまった。
「はぁ、はぁ、はぁ、何て奴なんですか。まさか本当に逃げ切られるだなんて」
「……もう、何が何だかさっぱり分からないよ。助けに来たと思ったら盾にするだなんて、どうなってるの?」
「……少女よ。あれは理解出来なくて良い。いや、理解してはいけない類の狂人だ。全く、このような怪物が二人もいるとはな。しかも、私が居ながら取り逃がしたなどとは考えたくもない」
「まぁ、まぁ、阿門ちゃん。最低限ここの防衛は出来たんだから、今回は良しとしましょう? ほら皆も立って立って、まだまだ終わっていないわよ! 未だに市街地の方はたくさん出て来たロボットの対応に追われてるみたいだから、私達が行かないとね?」
「……そうだな。夢姫の言う通りだ。少女達、君達は奴等を退けるに十分な力を持っている。今一度、私達に力を貸してはくれないか?」
「……そうですね。このまま何もない虚空を見つめていても仕方がありません。恐らく、また戦う事もあるでしょう。あいつ等はうち等よりも遥かに強かったですが、それは対策を考えて備えるとしましょう。さて、本音を言えばフィア達に加勢したいところですが……、そもそも現状を知りませんし……。シルフェ、今はうち等も雑魚処理に加わるとしましょう。必要ならシンシアから打診があるはずですから」
「……うん、そうだね。考えるのは後にするよ。……行こう!」
そうして、シルフェ、フォレオの激闘はようやく終わりを迎えたのだった。
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ナクスィアは何だかんだできっちりと仕事を果たしていきました。
ゲートのおかげもあるとはいえ、人一人を担いだ状態で逃げ切るなんて凄いですよね。
まぁ、やり方はやべー奴ですが、それはこの際置いておきます。
それでは次回、「願いの呪縛-1」
リリアの過去回、どうしてリリアが嗜虐的な殺人鬼になったのかについてです。




