6-27 最速のヒーロー・イン・ドリームワールド-1
「うっ、くっ! 何も! 見えないぃ!」
「あはははははは♡ それっ! それっ! どこまで頑張れるのかしらぁ?」
何も見えない闇の中、シルフェはリリアの声を頼りに方向を探る。
十個の天塊を形状操作して振るうが全然手応えが無い。
何となくの方向は分かるけど、見えないから当てるところまで行けない。
それにどんな攻撃が来るのかもさっぱり分からない。
むむぅ、とりあえず攻撃は防がないとだけど、この状況だと点や線で攻撃を受けるのは無理だよね。だったら、こうするしかない!
「こっれっなっらぁ! どうなのぉ!」
シルフェは手に持っていた天剣を大盾に変形させると、面でリリアの攻撃を防いだ。
「へぇ、考えたじゃない」
「やった! はっ! ほっ! よいしょ!」
防げる範囲が一気に広がったことで大分安定して防御出来るようになったが、攻撃が当たらないのでそれもじり貧だ。
シンシアの話だと蝙蝠獣人族は暗闇の中でも超音波? とかいうのでこっちの動きを目で見ているみたいに正確に捉えられるって話だった。
その所為か、攻撃が的確で防ぎきれない!
「あは♡ そこぉっ!」
「痛っ! むううううぅ!!」
適当に振るうしかない大盾では攻撃を防ぎ切ることが出来ず、シルフェは少しずつ傷を増やしていた。
このままじゃ駄目だ!
どうにか、どうにかしないと!
「う、うああああああああぁ!!」
「きゃっ!」
状況を変えようと思ったシルフェは無理矢理に大盾を構えて突っ込み、何とかリリアを弾き飛ばすことに成功した。
しかし大盾で殴った瞬間、人ではなく硬い物を殴ったような鈍い音が響いた。
その感触はとてもではないが手応えがあったとは言えないものだった。
シンシアの話だと吸血鬼族は体内の血を操作することで身体能力を向上させるって話だし、それに血を凝固? させることで瞬間的に皮膚の下に鎧を着ているような状態に出来るって。
多分、今の硬い感触がそういう事だよね。
きゃっ! なんて可愛く言ってたし、絶対大したダメージは入ってないよね。
でも、そうやって聞くと吸血鬼族はとんでもなく強い能力者集団みたいに聞こえるけど、一応弱点もあるって話だったはず。
確か……血なら何でも操れるってわけじゃなくて、自分の体に流れる血しか操作出来なくて? 普通の生物と同じで血液を一定以上失えば死んじゃうんだったかな。
血は一度自分の制御下を離れると全てを回収するのは無理ってくらい操作が難しいらしいし、どこかで菌や異物でも混ざっちゃえば、それが原因で死んじゃう事もあるんだよね。
だから、戦闘に使った血は可能な限り体内に戻す事はないって。
そういうわけだから、吸血鬼族は基本的に血を失わないように出来る限り体の外には血を出さないし、肉弾戦が基本になるって話だったかな。
うーん、そう考えるともし自分が使う事を考えたらすっごく面倒な能力だよね。
私達の髪は(個人差はあるが)伸ばせるし、変化させることに特にデメリットもないから、天使族の能力は恵まれていたんだなって改めて思うよ。
そうは言っても相手にした時に遥かに戦い辛いのは変わってないんだよね。
何と言っても常に鎧を着ているようなものなのに軽いし、関節が弱いとかそんな事もないし。
それなのに身体能力を向上させて俊敏に動き回るし、回収する事を諦めれば体内から武器まで生えてくるって。
こういうのなんて言うんだっけ、チート? チートだったかな?
これほど戦い辛い相手もなかなかいないよね。
だけど、それでも私は負けるわけにはいかないんだ!
「はあああああああぁ!!」
シルフェはリリアを弾き飛ばすや弓を引く構えを取る。
すると、その手元に膨大な量の光を束ねた矢が無数に出来上がっていく。
ふふふ、暗闇に閉じ込められたってこれで周りは明るく……ならない!?
「え!? 何で!?」
光の矢の周りは確かに明るくなってる。
でも、光が届いているのは精々十センチくらい。
明らかに光の減衰が著しいよ!
その時、驚愕している私を見たのか愉快だと言わんばかりの笑い声が響いた。
「あはははははは♡ そんなので私の闇を消そうっていうのかしら? ムダ、ムダ、ムダよ! 私の闇は全てを覆いつくす闇。ここは私の空間、光を嫌う私の世界! それを塗り替えようって言うのなら、私を押し潰すほどの光を持ってきなさいな! ま、無理でしょうけどね! あはははははははは!」
「う、うぅ」
周りが暗くなったところで光で照らせばいいと思ってたんだけど。
でも、私の作り出せる光の矢じゃリリアを照らし出す事は叶わないんだね。
その事実を理解すると助けを呼ぶ声が、泣き言が、頭の中を駆け巡った。
でも、それでも、シルフェは頭を振った。
負けない。負けられない!
私は逃げるわけにはいかないんだ!
「あぁ、いい……いいわね。その顔、その表情、涙も溜まってきてるかしら? あと一歩、あと一歩で絶望に染まるその表情! そそる、凄くそそるわ♡ さぁ、見せて! もっと見せなさいよ! 絶望に染まったその顔で、もっと私を満たしてよ!」
「嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ! 私は、あなたなんかに屈したりなんかしない! 私は証明するんだ! あなたに勝って示すんだ! 私は、空にふさわしい女なんだって!」
「良く言ったぞ、そこな少女よ!」
「え?」
その時、突然聞いた事のない声が聞こえたのだった。
何も見えない闇、一方的に不利な状況に追い込まれてしまったシルフェ。
そんな折に響いたその声は果たして。




