6-26 雌雄は決し、枷を破るは慟哭の調べ-5
属性刀が折れたのを見て勝利を確信したようにジェルドーの口の端が上がった。
世界がまるでスローモーションのように見える。
もはや、ここから間に合わせる方法はない。思いつかない。
俺は数瞬の先にはジェルドーに切られる。
だが、このままでは終わらない。
刀が折れたのならば、新たな刃を作ればいいだけだ!
「おおおおおおおおおおおぉ!」
「何ぃっ!? ちいいぃぃ!」
折れた刃先、そこから延ばしたカナムの刃が青白の軌跡を描き、ジェルドーに迫った。
ジェルドーはこれに対して咄嗟に身を捻って躱そうとする。
だが、この一撃は絶対に当てる!
俺は諦めない!
無理矢理に体を捻ってジェルドーの動きに追従する。
そして、青白の刃はジェルドーの左腕に吸い込まれるように食い込み、その腕を切り飛ばした。
しかし、ジェルドーは左腕を切り飛ばされ、体勢を大きく崩しながらも刀を握る力を緩めなかった。
「あ、ぐぅっ! 舐めるんじゃ、ねえええええぇ!」
一瞬怯んだものの、ジェルドーは雄叫びを上げると確かに刀を振り切った。
その刃は俺の左肩から右腰に掛けてを切り裂き、鮮血が滲む。
同時に走るこれまでにないほどの激痛。
振り切った勢いのままに俺は後ろへと倒れこんだ。
届かなかった……のか。
くそ、差し違える事ですら……俺には出来ないってのか。
背中に走った衝撃の後には胸から温かさが流れ出るような感覚が続いていた。
段々とぼやけてくる視界の中で視線をふらつかせると、その様子を間近で見ている影が見えた。フィアだ。
「……あ……雷人? 嘘、よね? 嘘、嘘よ。こんなの。だって、雷人はこれまで、どんなにぎりぎりの時だって、最後には何とかしてきたじゃないの。だから、今回だって……だって……」
ふらふらと歩み寄って来て俺のそばに膝から崩れ落ちるフィア。
その様子をジェルドーが切り飛ばされた左腕を押さえながら見ていた。
ジェルドーは強い。
フィア一人では十中八九勝ち目はないだろう。
だから俺に構わなくていい、逃げろ。
逃げるんだ、フィア。
激痛がだんだん収まってきて、それと同時に体に力が入らなくなっていくのを感じる。
恐らく、俺はもう駄目なんだろう。
約束を守れなくてごめんな。
こんな結末は望んじゃいなかったが、優しいフィアが悲しむのは分かっているが、それでも俺は、君には生きていて欲しいよ。
「ちっ、こいつ、最後の最期で折れた刃を生やすなんて隠し玉を出してきやがった。抜け目のない野郎だなぁ……あ? しまった。こっちに集中し過ぎて重圧が切れちまってたかぁ。おい女ぁ。こいつは最後の最期まで諦めなかったわけだがよぉ。お前はどうするんだぁ? 諦めるってんならよぉ。せめて、苦しまないように一瞬で殺してやってもいいんだぜぇ?」
「雷人、雷人ぉ。ねぇ、返事しなさいよ。まだ私言ってないじゃない。返事してないじゃない。死ぬのは絶対に許さないって、言ったじゃない……。まだ、まだよ。まだ死なせないんだから、応急手当、応急手当、応急手当、応急手当!」
ごめん。ごめんなフィア。
もう体が動かないんだ。
自分の体の事だから分かる。
フィアの応急手当を受けても回復はしない。
だから、もういいんだよフィア。
せめて後ろにいるそいつを倒して君の安全を確保したいけれど、それももう叶わないんだ。
だから、どうかお願いだ。
逃げて……生き延びてくれ。
尚も叫び続けているフィアの目からはポロポロと涙が零れ、俺の頬を仄かに温かい雫が濡らす。
そんなフィアを見つめながら、頭の中で逃げてくれとそんな事を幾度も幾度も考える。
だが、どうも言葉が口から出て来ない。
出てくるのは空気が漏れるような音だけだ。
俺はもう、自分の意思を伝えることすら出来ないのか……。
「……こいつはもう駄目だなぁ。ちっ、締まらねぇな。おい。こんなのを生かすためにこいつは最期の力を振り絞ったってのか? はっ、笑えねぇ話だなぁ……あ?」
「応急手当、応急手当、応急手当、応急手当、応急手当……雷人、雷人、雷……あ、あぁ、ああああああああぁ!」
「な、なんだぁ? これは……!」
その時、突然何かが割れるような音が響き、縋りつくように横たわる男の手を握っていたその少女から、どす黒くて禍々しい黒い霧のようなものが噴き出した。
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絶体絶命の大ピンチ!
もはや雷人が死にかけるのは恒例になっている気さえしますが、今回は仮想訓練ではなく現実です。
ジェルドーの単純であるが故に分かりやすく強力な力に、一糸は報いたものの敗れてしまった雷人。
それを見て、冷静さを欠いてしまったフィアに起こった変化とは!
突如噴き出した黒い霧は何なのか!?
非常に気になるところですが、一旦話はシルフェの方に移ります。
次回、「最速のヒーロー・イン・ドリームワールド-1」
どいつもこいつも、夢の世界にご招待!




