6-25 雌雄は決し、枷を破るは慟哭の調べ-4
「あぁ、まただぁ。また頭が痛みやがる。何なんだぁ? この、懐かしい? 何が……このチラつくものは何なんだぁ?」
頭が痛む? そういえば、最初に戦った時にもそんな事を言っていたな。
青臭いとかなんとか。何かがあるのか?
「あぁ、お前達のやり取りを見てるとよぉ。どうもここが苦しくなるんだよなぁ」
そんな事を言いながら胸をトントンと叩いて見せるジェルドー。
……もしかして、こいつも何かしらの能力を受けていたりするのか?
それこそ、花蓮の時みたいな精神誘導系の……。
「……おい、もしかしてお前……黒髪黒目の少年に会ったことがあるんじゃないか?」
「あぁ? 黒髪黒目の少年だぁ?」
「え……黒髪黒目って、あの? そういう事なの?」
「あぁ、そいつは精神操作系の能力を持っている奴だ。もしかして、俺達の敵になるように操作されてるんじゃないかと思ってな」
「……っつ! あぁ、痛みが酷くなってきやがった。イライラするなぁ。もういい。お前らは殺してやる。そうすればこの痛みは治まる。よく分からないけどよぉ。そんな気がするんだよなぁ……」
この反応、やはりこいつの頭の痛みというのは俺達を敵と認識するように、記憶やらとの乖離を起こさないようにしているとか、そういうやつなんじゃないのか?
思い出そうとすると痛んで、思い出そうとしないようにする……みたいな。
「……怪しいな」
「……もしそうだとしても私達には止める手段なんてないわ。手加減出来るような相手じゃない。ジェルドーは私達を殺そうとしてるんだからね。くれぐれも、殺さないようになんて考えないで」
フィアの言う事はもっともか。
例えこいつが本当は悪い奴じゃなかったとして、俺達にはこいつを助けるほどの力はない。
それが出来るのは、そいつよりも圧倒的に強い奴だけなんだから。
俺達が考えるべきなのはこいつを助ける事じゃない。
如何にして町を守りつつ俺達が生き残るか、だ。
「……そうだな。分かった」
「くは、くははははははは! 俺を殺さないようにだって? つまりそれは、俺に勝てると思ってるって事かぁ? あめぇんだよ!」
ジェルドーが何でもないことの様に棒立ちのまま指をパチンと鳴らした。
それと同時に、立っていることすら難しいほどの重圧が俺とフィアに襲い掛かった。
「……がっ!? ぐ、ぎぃ……これ、は……」
「な!? によ、これぇ……。こんな、のっ……てぇ……」
地面に膝と両手を突いて顔を上げる事すらギリギリの俺達を冷めたような表情で見下ろすジェルドー。
まるで、もう戦いは終わった。
ここからはただの処刑だぞ。とでも言わんばかりの表情だ。
「動けるかぁ? 動けねぇだろがよぉ。これが俺の能力、重力操作。俺の全力だぁ。こんな勝ち方はつまらねぇから嫌いなんだがよ。どうしてだろうなぁ? 何か……どうでもよくなっちまった。そら、潰れろぉ!」
「がっ! あああああぁぁ!」
ジェルドーはつかつかと歩いて来ると、何でもないような様子で刀を俺の左肩に突き刺した。
そしてそのまま、子供が砂でも突くかのようにぐりぐりと刀を回す。
その度に肩から激痛が走り、遂に腕に力を入れられなくなった俺は地面に顔から倒れ込んだ。
「いてぇか? いてぇよなぁ。俺もいてぇんだよ。分かるよなぁ?」
「ぐ、この、野郎……!」
「解放されたいって思うよなぁ? 分かるぜぇ。俺もそうだからよぉ」
「あ、があああああああぁぁ!」
続けて右足の付け根の辺りに刀が突き刺される。
軽減されているはずなのに、あまりの痛みにおかしくなりそうだ。
「ちょっ、や、止め、なさい。止めなさいよ!」
少し離れた所であまりの重圧に倒れ伏していたフィアがぐぐぐと、ゆっくり起き上がりジェルドーに向けて手を翳した。
「離れ、なさい! クリムゾン・スフィ……」
「くはは、良いのか? この男を巻き込むぞ? それどころかよぉ。俺の重力操作で弾道が変わってこいつだけ吹き飛ぶかもしれねぇなぁ?」
「……くぅ、だったらぁ。私が、自分で!」
「ちっ、健気なもんだなぁ、おい」
フィアがこちらに向かってゆっくりと歩き出し、ジェルドーの意識が一時的にそちらに向く。
どっちを先に攻撃するか、恐らく一瞬の逡巡。
意識が俺から離れた。フィアがその身を危険に晒してまで作り出したまたとないチャンス、やるなら今だ! 今こそ、根性を見せろ!
俺は痛む体を無理矢理に動かし、体を何とか起こすと足に全力を込めて踏ん張り、体を捻るようにして属性刀を掴んだ。
そして、雷輪を複数作り出し、重力に正面から抗う。
雷輪による力とジェルドーの能力による重圧で体は悲鳴を上げ今にも意識が飛びそうになるが、そんなのはお構いなしとばかりに属性刀を握り締める。
「お、おおおおおおおぉ! 紫電一閃!」
「ちぃっ! グラヴィティ・インパクトォ!」
両手で持った属性刀を体の捻りを最大限に生かしながら、左下から右上へと振り上げるように放つ紫電一閃。
雷輪によって加速されたその一撃に対し、ジェルドーは重力によってその重みを増した振り下ろしの一撃をぶつける。
なるほど、こいつの一撃が大剣から刀に代わっても重かったのはこの能力の所為だったのか。
俺と同じ発想、使い方をしていたわけだ。
重力の後押しがあれば、そりゃあ動きも早くなるし一撃も重くなる。
振り上げた紫電一閃と振り下ろしたグラヴィティ・インパクト。
それが交差し、その力は拮抗する。
「はああああああああぁぁ!」
「おおおおおおおおおぉぉ!」
しかし、本気の一撃をぶつけて分かってしまった。
このままでは確実に押し負ける。
ジェルドーによる重圧で体は上手く動かないし、こちらが振り上げる体勢なのに対して振り下ろしているジェルドーの方が余裕がある。
ここからジェルドーの一撃を押し返せるイメージが出来ない。
あれから相当強くなった自信があったのに、まだ届かないのか。
くそ、悔しいなぁ……。
次の瞬間、属性刀にひびが走り、そして遂に属性刀が折れた。
遂に明かされたジェルドーの能力。やはり単純な力は強いですね。
上をとられて圧倒的に不利な状況の中、その一合の結末は……。




