6-24 雌雄は決し、枷を破るは慟哭の調べ-3
その刀は怪しげにうっすら紫色に輝く綺麗な刀で、こんな状況でなければ見惚れていたかもしれない。
そんな一振りをしっかりと握り込むやジェルドーは豪快な動作で体を捻り、そのまま体を回転させながら振り切った。
「おおおおおおおおぉぉ!!」
「な!?」
「くっ! 噓でしょ!?」
その一閃はフィアの放ったバーン・インフェルノ。炎の奔流を切り裂くでもなく、巻き取るようにして刀に纏わせ、そのまま三方から迫っていた俺の操る大剣をあっさりと切り裂いた。
それはまるで炎の旋風であり、綺麗だと言わざるを得ない芸術的なものを感じさせた。
巻き上げられる炎をバックに剣を担ぎ、悠然と立つジェルドー。
それは、芸術的でありながらも俺達に危機感を与えるに十分な光景だった。
「は、ははは……何よ。さっきまでと同じ、豪快で乱雑な動きなのに……どうしてこんなに綺麗なのよ」
乾いた笑いを漏らしながらも警戒を怠らないフィア。
それに背を向けながら、ジェルドーは刀をこちらに見せびらかすかのようにチラつかせる。
「くはっ、いいだろぉ? こいつの銘は封印刀ケラディウス。かの機神を作ったとかいう匠人族の王、そいつの弟の刀神が打った業物らしいぜぇ。こいつは……あー、あ? どうして俺が持ってるんだぁ? ……まぁ、そんな事はどうでもいいよなぁ。俺は一目見て分かったぜぇ? こいつは俺にふさわしいってなぁ!」
……刀神が打った業物だって?
刀神っていうのはよく分からないが匠人族って言っていたし凄い刀なのは間違いないだろう。
くそっ、ようやく追い詰めたと思ったのに状況が元に戻った。いや、むしろ悪化したのか。
もう勝ったと思っていたのに、まさかたった一手で覆されるとはな。
「なぁフィア、どうす……」
「危ない!」
「る!?」
フィアの声に咄嗟に雷盾を張りつつ退がり、振り下ろされる刀を属性刀で受ける。
大剣から刀になったというのに、その振りは鋭くなっただけでなく変わらず重い。
その一撃の重さに雷盾はあっさりと切り裂かれ、片手では受け止められずに属性刀の峰を支える事で何とか受け流すことに成功した。
続けざまに振るわれる斜め下からの一撃を紙一重で躱したものの、体勢が崩れた所に流れるような振り下ろしの一撃。俺は受け流すことが出来ずにたまらず背中を地面に叩きつけられた。
俺は地面に背中が付いていて、ジェルドーがそれに跨るようにして鍔迫り合いになる。
この状況では起き上がる事も力を抜くことも出来ない。
圧倒的な力で徐々に押し負けていく。
そんな状況に、ジェルドーが口の端を持ち上げて笑った。
「ぐっ! くそっ!」
「くははっ! 戦場で油断はするなって教わらなかったのかぁ?」
「あんたもね! 灼火閃!」
「くはっ! 分かってるっつうのぉ!」
「っ! 今だ!」
背後から切り掛かったフィアの渾身の一撃をジェルドーは身を翻すようにして弾いたが、流石にこちらまで気にしている余裕はなかったようだ。
注意が逸れた一瞬を狙ってカナムの足場を作って蹴り、ジェルドーの足元から滑るようにして抜け出しながらカナムの刃を纏った足を振ってジェルドーの足を切る。
正直化け物なんじゃないかと思うのだが、ジェルドーはその一撃さえも躱そうとステップを踏み、逃げ出しざまの一撃は掠るに留まった。
本当に、こいつの戦闘センスはどうかしているな。
「くぁっ! っちぃ! おらぁ!」
「ん! っとぉ! 二対一でこれだなんて、本当にあんた悪党やってるのもったいないわよ!」
「あぁ? 余計な世話だってんだよなぁ!」
明らかに踏ん張れるような体勢ではなかったというのにジェルドーはフィアを弾き飛ばし、体勢を立て直した。やはり、ジェルドーは乱暴に見えて高い戦闘技術が垣間見える。
どんな状況でもきっちり対応してくるその様は本人の粗暴な性格とは似ても似つかないが、実際そうなのだから仕方がない。
「フィア、ありがとうな」
「お礼は良いわ! それよりも集中しなさい! こいつは正直、私達よりも各上なんだから。油断していたら本当に死ぬわよ」
本当に死ぬか……。
あぁ、確かにそうだな。こいつは強い。
俺が命懸けで掛かっても勝てる確率はほとんどないと思うほどに、だが、もしもフィアに危険が及ぶのなら俺は命懸けでも……。
その時、ふと視界の端にちらっとフィアがこちらに視線を向けたのが見えた。
あぁ、そうだった。
そういえば、フィアが死んだら俺が悲しいのと同じで、フィアも俺が死んだら悲しんでくれるんだよな。
駄目だな。こういう場面になるとどうしても命懸けでって考えが出てきてしまう。それじゃあ、誰も幸せにはなれないよな。
それに……。
「まだ返事も貰ってないんだ。今死ぬわけにはいかないな」
「……そうね。今死んだりしたら絶対に許さないんだから」
一瞬フィアがびくっと震えたのが見えた。
あれはどういう反応なのか、脈ありなのか、それとも無しなのか。
……いや、そんな事を考えたってどうせ答えなんて出ないんだ。
この考えは一旦禁止。今は目の前のこいつに集中だ。
そして俺が意識を集中させていると、何やらジェルドーが片手で頭を押さえた。
「面白い」「続きが気になる」と感じたら、
下の ☆☆☆☆☆ から評価を頂きたいです!
作者のモチベーションが上がるので、応援、ブクマ、感想などもお待ちしています!
ただでさえ強いのに、さらに強化されてしまったジェルドー。
その決意はフラグとなるか、それとも……。




