6-23 雌雄は決し、枷を破るは慟哭の調べ-2
俺はジェルドーが見境なく攻撃を仕掛けないように、分かりやすく周囲に放電をしながら弧を描くようにして駆けた。
「くはっ! おいおいお漏らしかぁ! 目隠ししても光ってちゃバレバレだなぁ!」
声と共に霧の中の光目掛けて熱線が走り、散発的に霧を吹き飛ばし始めた。
よし、狙い通りだ。無差別に熱線を撃たれたらフィアが危険だからな。狙いは絞ってもらわないと。だが残念、俺も馬鹿じゃない。放電しているのは俺から少し離れた場所だ。
俺は全速力で駆け抜けジェルドー目掛けて霧を抜けた。
すると、ジェルドーはこちらに向けて大剣を振りかぶって待ち構えていた。
「はっ、バレてたか」
「くはっ! 小細工なんざバレバレなんだよぉ!」
ジェルドーは何だかんだでとんでもない戦闘センスをしている。
だから、あっさり引っかかってくれるなんて甘い考えはしていない。
だが、ジェルドーを囮で釣って確実に攻撃を当てるにはそれ相応の真実味のある攻撃が必要だろ。
だったら俺がその役を買って出ないとな!
「行くぞジェルドー! おおおおおおおぉぉ!!」
「くはっ! いいぜぇ! くたばれよなぁ!」
「紫電、一閃!」
「ブレイズ・インパクトォ!」
灼熱の炎を纏いながら振り下ろされる大剣を属性刀で迎え撃つ。
雷輪による急激な加速で体に負担は掛かるが、今は無茶をするべき時だ。少なくともこれならば無視は出来ないだろう!
ジェルドーの動きに合わせて少し角度を調整し、真正面からではなく少し横から属性刀を叩きつけた。すると狙い通りに剣筋がズレ、ジェルドーの一撃は地面に叩きつけられた。
紫電一閃と切り結んだダメージは相当のものだったようで、叩きつけられた衝撃に耐えられなかったらしく大剣が半ばから折れてジェルドーが体勢を崩した。
「何ぃ!」
「今だ! フィア!」
「任せて! クリスタルプリズン!」
大剣が折れた事でさすがのジェルドーも動揺したらしく、フィアのクリスタルプリズンを躱すことが出来ずにその体が巨大な氷塊の中に取り込まれた。
「やったか!?」
「そのセリフはフラグでしょ! 時間があったからかなり頑丈に出来たけど、このくらいじゃ止まるとは思えないわ! もっと重ねるわよ! チェーンバインド!」
「分かった! これならどうだ! レールガン……設置!」
フィアの言葉は正しく、完全に氷の中に閉じ込められたジェルドーは未だに健在なようで、その内側に揺らめく炎のような光が見えた。
どうやら内側から溶かしているようだが逃がしはしない。
フィアが鎖で氷塊を縛り上げると、内側が溶けていた氷はひび割れながらも内側に押し込まれその体積をみるみるうちに小さくしていく。
氷が溶けて出来てしまう空間をむりやり埋めることで、ジェルドーが自由に動けないようにしているのだ。であれば俺は、フィアのおかげでジェルドーが動けない今のうちに攻撃を仕掛ける!
普通に撃っても引力で逸らされるだろうが……これならどうだ?
ランダムな配置で氷塊を取り囲むように全八門のレールガンが設置され、その銃口を氷塊の中心に定める。
一方向からの攻撃なら簡単に対処出来るだろうが、全方位なら対処は難しいはずだ。
フィアの時間稼ぎのおかげでしっかりと狙いをつける時間もある。
「照準……」
氷の溶ける速度は増していき、あと数秒もすればジェルドーは自由になってしまう。だが、間に合ったぞ!
「てぇえー!」
瞬間、全砲門からほぼ同時に弾丸が放たれる。
それと同時に氷が内側から爆発し、周囲に真っ白な蒸気が吹き荒れた。
「くっ!」
何も見えない。
吹き荒れる暴風に腕で顔を隠すようにしながら蒸気の向こうを見据える。
視界が塞がれようと関係ない。
放たれた弾は真直ぐに進むだけだ。
そして、無数の金属音と鈍い何かが折れたような音が響いた。
同時に爆風によって晴れる視界。
そこには頭から、腕から血を流し、持っている大剣の残っていた刀身も完全に砕けた状態のジェルドーが立っていた。
それを見た瞬間、俺の中に感情が溢れ返った。
やった!
やってやったぞ!
ようやく俺の攻撃があのジェルドーに通じた!
奴の武器は完全に破壊され、ダメージも与えた!
フィアのサポートありきとはいえ俺はもうあの時の、ただ見ていることしか出来なかった頃の俺じゃない。成長したんだ! 俺はもうフィアと一緒に戦えるんだ!
そんな気持ちに興奮し、心が浮立つ。
そして、ジェルドーはというと自身の持っている鍔までしか残っていない大剣にちらりと目を向け、それを放り捨てた。
「ははは、どうやら勝負あったな! さすがのお前でも武器なしで俺とフィアを相手にするのは厳しいだろ!」
「雷人! まだ油断はしちゃ駄目よ! こういう奴は追い詰められた時こそ危ないわ! 手負いの獣は恐ろしいってやつよ!」
「……くはっ、くははははははは! 俺が手負いの獣だぁ? あぁ……そうだな。言い得て妙だなぁ。もっと圧倒的になぶってやる予定だったんだけどなぁ。くはっ、いいぜぇ。認識を改めてやる。お前等は俺が本気を出すべき相手だぁ……俺に本気を出させたこと、後悔するんじゃねぇぞぉ?」
「何を言ってるんだ? 武器を無くして怪我も負ったってのに、ここから何が出来るってんだよ?」
「あぁ? 武器が無いって? くははははは! そいつは勘違いってやつだなぁ。俺の本来の武器はその鈍らじゃねぇ」
「なっ!? 雷人! 急いでやるわよ! バーン・インフェルノ!!」
「え!? わ、分かった! 剣閃乱舞!」
剣閃乱舞
円環剣舞ほどの数は操作出来ないが、決まった動作をするわけではないために動きが読まれにくく、また複数方向から攻撃出来るのが特徴な円環剣舞の派生技だ。
まだ一度に緻密な操作が出来るのは三本程度だが、フィアの攻撃を避けられないようにするだけなら三本でも十分だ!
しかしそんな、およそ危機的な状況の中でもジェルドーは笑っていた。
どうして笑える? 何かこの状況を覆せるような手が……?
そして、ジェルドーは水平に腕を伸ばして掌を広げ……、
「来い! 封印刀ケラディウス!!」
いつの間にかその手には一本の刀が握られていた。
因縁のあいつがこの程度のはずはなかった。
武器を持ち替えて第二ラウンドです!




