6-20 世界を作りし聖女風乙女-3
突然耳元から聞こえた声に反射的に振り返りつつ薙刀を振るう。
ちゃんと狙いの定まっていなかった薙刀は簡単に段平によって弾き落され、体勢が崩れた所に振るわれた回し蹴りが腹に深々と突き刺さった。
「が、はっ!」
体を走る衝撃に一瞬薙刀を握る手が緩んだ。
その瞬間を逃すことなく段平に薙刀を弾かれ、薙刀は地面を飛び跳ねるように転がるとビルの下へと落ちていく。
勢いのままに後ろに下がったフォレオは腹を押さえつつもフォレオスペシャル二号(拳銃)を取り出しナクスィアに向けて発砲、牽制した。
当然の事ではあるがそれらは軽々と弾かれた。
しかし、ナクスィアは距離を保ったまま追撃はしてこない。
フォレオは咽せたように咳き込みながらもナクスィアを睨み付けた。
「げほっ、げほっ! ……はぁ、はぁ、今、のは……」
「分からないでしょうか? 難しいですかね?」
さっきの状況を思い出す。
あの時、ナクスィアは確かにうちから数メートルは離れた位置にいました。
彼女がいくら速いとはいえうちが対応出来ないほどの速さではありません。
仮にこれまでが本気でなかったとしても、うちに気付かれないほどの速さで後ろに回り込むのは不可能なはずです。
単純に考えれば転移系の能力のように思えます。ですが……。
「ふ、ふふ、これは妙ですね。あの時、確かにあなたはうちから離れた位置にいるように見えました。だというのに、まるで転移でもしたかのように一瞬でうちの後ろに現れるなんて……」
「ふふ、それでは私の隠された能力は瞬間移動の能力だと? ふふふ、当たりです。さぁ、どうですか? 絶望したでしょうか? あなたは私からは逃げられないんです」
絶対に逃がさない。
そうとでも言いたいかのようにナクスィアは仰々しく腕を広げながらそんな事を言った。
絶望……絶望ですか? ふふふ。
フォレオは腹を押さえながらも口で笑みを作った。
そんな、ナクスィアの演技を嘲笑うかのように。
「……それは嘘です」
「……へぇ? それはどうしてでしょうか?」
「後ろから声が聞こえる前、確かに離れた位置にいたあなたの姿が揺らいで消えるのを見ました。ですが、転移したにしては不自然な空間の揺らぎでしたよ。残念でしたね。普通なら騙されている所でしょうけど、普段から転移を見慣れているうちにはそのわずかな違和感でも決定的なのですよ!」
「な!?」
左斜め後ろ、その本来なら誰もいないはずの場所に向けてフォレオが銃撃を行うと空中で火花が弾けた。
そう段平で弾かれたことにより発生した火花だ。
そして、何もないように見えていた虚空から不意にナクスィアが現れた。
「ふぅ……どうして私がここにいると?」
さっきまで目の前にいたナクスィア。
それは今もまだそこに佇んでいるが、フォレオが背を向け好機であるというのに攻撃する素振りを見せない。
やはり、自分の考えは間違っていなかったのだとフォレオは確信した。
「どういうつもりかは知りませんが、詰めが甘いんですよ。そんな今思いついたような出まかせに騙されるうちじゃありません。きっとあなたの本当の能力は、偽の映像を見せる能力。そんなところでしょう」
「……今の情報だけでそれは、些か決めつけ過ぎではありませんか?」
「確かに、今話した内容ならば推論の域を出ないでしょう。ですが……誇れるほどではありませんが、うちは人よりも耳がいいんです」
「耳がいい?」
「はい、だから僅かに聞こえていたんですよ。あなたの声に混じるノイズのような僅かな雑音が。大方、そこにいるように思わせるために何かの機械で声を送っていたんじゃないですか? そんな事をする意味、うちに疑問を抱かせる不自然な揺らぎ。これらの小さなミスを複合して考えると偽の映像を見せられていたというのが一番しっくりくるんですよ」
「……なるほど、これはしたり。多少練度が足りなくてもバレないかと思っていましたのに、まさかそんな事からバレるとは思いもしませんでした」
「図星でしたか。やっぱりうちの耳も捨てたものじゃありませんね。とはいえ、未だにあなたの行動には不可解な点が多いのですが」
「不可解な点、ですか?」
「えぇ、あなたからはうちを殺すと言う意思が感じられない。うちの武器は進んで叩く癖に、チャンスがあっても攻撃しない。そういう性格なのかとも思いましたが……」
「ん!?」
その時、不意にナクスィアがグリンと首を回すと、またあの蝙蝠獣人族に向かって発砲したのだった。




