6-19 世界を作りし聖女風乙女-2
「ふふ、それでは回答をどうぞ」
「それではまずあなたの移動方法についてです。地面を滑るようにして移動していましたが、少し地面から浮いていますよね。うちが地面との間に水を挟むことで滑っているのに対して、あなたは空気を挟んでいます。要するに、ホバーしているのです」
「えぇ、そうですね。見た通りですが」
「それで、これは推測ですが……あなたは足元だけでなく他の部位でもホバーすることが出来るのではないですか?」
うちがそう言うとナクスィアは目を少し大きく開いて驚いた様子だった。
どうやら当たりですか。
「ふふ、この戦闘でそこまで気付いたのですね。はい、そうですよ。私は全身のどこでも同じように浮くことが出来ます。そして、それを応用することで全身のどこからでも推進力を得る事が可能です」
「やっぱりですか。流石に体幹が強いとかの一言で済ますのは無理がある動きをしていましたからね。あの跳ね上がるように起き上がっていたのなんか特にそうです」
「なるほど。少々無理をしすぎましたか。戦闘では出来るだけ相手には情報を与えない方がいいですから、もう少し慎重になるべきだったでしょうか?」
「それともう一つ、あなたは拳銃とあの段平を作り出す力を持っていますね」
「作り出す? どこかから取り出すではなくてですか?」
「はい。あなたは拳銃を使っていた時に、マガジンの交換を一回もすることなく撃ち続けていました。あれはあなたの能力が武器を取り出すのではなく、作り出すものだったためではないですか?」
「どうしてそう思うのですか? 武器を取り出すものだったにしても、取り出す先が弾倉なら問題ないはずでしょう?」
「……さっきも言いましたが、あなたはマガジンを交換していなかったではないですか」
フォレオの指摘にピンとこなかったのか、ナクスィアは少しの沈黙の後に首を軽く傾げた。
「……ん? どういう事でしょうか?」
「……マガジンがどうやって装弾しているか、分かっていますよね?」
「それはバネとかで押して……あぁ、そういう事ですか」
「そういう事ですよ。マガジンは基本的にバネの力で弾を押し上げて装弾します。故に全弾出し切ったマガジンはバネが伸び切った状態です。だから、弾を込めようと思ったら撃つための一発が限界、フル装填は出来ないんですよ」
「あなたの言い分は分かりましたが、それだけでは不十分ではないですか? それでは私が弾を作り出しているという証明にはならないでしょう」
「はい? まさか、一発撃つ度に一発だけ取り出していたとでも言うつもりですか? あなた、収納系能力を使った事がないんですね」
「……どういうことでしょうか?」
「収納系能力はイメージが重要です。ただ取り出すだけならそれほどでもないですが、装填するとなると少しの位置ずれで不具合が起きかねません。だから、より精密なイメージが必要になるんですよ。あれだけ連射しながらそんな事をしていたら意識をそっちに持っていかれてしまいます。そんな事をするくらいならマガジンを捨てて、弾の詰まったマガジンに入れ替えた方が遥かにマシなのですよ」
「収納系能力は精密なイメージが必要ですか……。弾を作るのとは違うと?」
「全然違いますよ。収納系能力だと収納されている物の姿勢は一定ではないですから、取り出す時にイメージに従って修正されます。この時イメージがしっかり出来ていないとズレが生じやすいんですよ。戦闘中は十分に意識が向けられませんから、ズレが発生する可能性は非常に高い。暴発を招きかねない以上、これは致命的な問題です。そんな危険を冒してまで一発ごとに装填するとは思えませんね」
「なるほど、確かにそれらしく聞こえますが……ズレが生じるというのは作り出す場合でも同じことではないですか?」
「いえ、そうでもないですよ。作り出す場合には元の状態は関係ないですからね。いつでも条件に変化がありません。慣れていない内はこっちの方が難しいですが、一発撃つ度に弾を追加するように訓練を積めば、ほぼ無意識でもリロードが可能になるはずです。実際、うちがそうですから、間違いありませんよ」
「……ふふ、ふふふふふ。これはしたり。慣れていたので、ずっとそうしていたのが仇となりましたか。どこかから取り出していると思われる方が多いですし、そっちの方が都合が良かったのですが。弾倉を捨てるワンアクションを追加してでも装弾された弾倉を作り出すようにしていれば良かったでしょうか?」
「さらっとマガジンも作れるのですね。もしかして、万物創造の能力です?」
「万物創造? その発想がすぐに出るということは、そのような能力者の知り合いがいるのですね。残念ながら私が作れるのは拳銃とその関連部品、それと段平のみです」
「そうですか。それは随分と限定的なんですね。……うちが言うのもなんですが、それを言ってしまって良かったのですか?」
「別に、隠していてもいなくても変わりませんから、お気遣いありがとうございます」
そう言いながらナクスィアは頭を何とも綺麗な所作で下げた。
全く、こんな風にしていても全く油断している様子がありません。
ここで隙ありと近付こうものなら切り捨てられてしまうでしょうね。
本当に、調子が狂います。
「……気遣ってなどいませんよ。さて、種は割れたことですし、そろそろ再開といきましょうか」
「あれ? もう終わりですか? 私の能力はまだそれだけではありませんよ? ほら……」
「え?」
その瞬間、ナクスィアの姿がまるで陽炎のように揺らいで消えた。
そして……。
「こんな風に」
「なっ!?」
耳元でナクスィアの声が響いたのだった。




