6-15 離れて見守る親心
フィア達のチームの控え室。
そこには現在モニター中のシンシアの他に八人が集まり、空中に映像を映して状況を見守っていた。
フィアとフォレオの育ての父であり、社長であるロナルド。
その他、S級社員のマリエル、エンジュ、ノイン、ルイルイ、アセシノ、ミューカスの六人。それに加えて、ノイン並みに小柄な一人の少女だ。
フィアがジェルドーと戦闘を始めたのを見るや、ノインはそわそわして立ったり座ったり、落ち着きなく動き回っていた。
「あぁ、あぁ、心配なのです。この悪魔族はかなり強いのですよ。シルフェの相手の蝙蝠獣人族も何やら危険な匂いがプンプンしますし、フォレオの相手の半耳長族もかなりの手練れみたいです。うぅ、大丈夫です? 本当に大丈夫なのです? 助けに、助けに行きたいのです!」
「はぁ、ノイン。お前って奴はやっぱり根性が足りてねぇ。毎回毎回そわそわ、そわそわしやがって、可能な限り俺達は干渉しない。そういう約束だっただろうが」
「でも! でもですよ! フィア達がこの悪魔族の男と初めて戦った時は誰かが死んでいても全然おかしくなかったのです! シルフェの時だって一歩間違えれば危なかったですし、竜人族の時だってフォレオが負けていたらどうなっていた事か!」
「まぁねぇ、私も気持ちは分かるわよ? フィアとフォレオの事は小さい時から知っているし、大切な子供みたいなものだし? 苦しんでいる姿なんて見たくもないわ。それだけじゃなくて、シルフェや邦桜のあの子達にだってもう情は移ってる。だけど、前もって私達が困難を全部排除してたらフィア達はいつまで経っても強くなれないわよ? この先、どんな苦難が待ち受けているか分からないんだから、苦労は出来る時にしておくべきなのよ」
どっしりと構えるエンジュに対して浮足立ちまくりのノイン。
それを見て、ミューカスが諭すようにそう言った。
すると、誰もいないように見えていた場所にスーッと一人の少女が現れた。
「ミューカスの言う事は、正しい……。実際私達は、それなりに困難を乗り越えてここにいるはず……。そうでしょ……?」
「おわっ! びっくりした! 強制されてもないのにシノが喋るなんて一体どうしたんだ? あ、さては根性を鍛え始めたのか? そうだろ!」
「違う……。この状況じゃ、誰もプラカード見ない、でしょ……? 根性を鍛えるつもりは、ないよ……」
「あぁ、確かにそうね。シノには迷惑かけるわね。でも皆がこっちの観戦に夢中なのは仕方がないのよ。ノインほどじゃなくても、皆落ち着いてはいられないの」
「うん、分かってる……。大丈夫、だよ」
「あぁ、あぁ、やっぱり行ってくるのですよ!」
「駄目だよ。皆も頑張ってるんだから、ノインも抑えなきゃ」
走り出そうとするノインを後ろから抱き着くようにしてルイルイが捕まえる。
力の関係でノインはじたばたしても逃げ出すことが出来ない。
「うなぁ……」
「ほんと、こんなに皆が騒いでるのに二人は何にも喋らないわよね。流石に集中し過ぎじゃない? そんなんじゃ体が持たないわよ」
ミューカスの言葉にようやく気付いたかのように顔を上げるロナルドとその隣に座っている小柄な少女。ロナルドは少女の方をちらりと見ながら申し訳なさそうに笑った。
「ははは、いや、ディビナの事はもちろん信じているんだけどね。それとこれとは話が別というか。あぁ、いけないね。私が決めたことだというのに、言い出しっぺが不安がっていちゃ示しがつかないな」
「いえ、仕方がありません。かくいう私も心配で……何も手に付かない状態ですから。本来であれば私が一番信じていないといけないのですが。どっしりと構えているというのはどうにも難しいものですね。あぁ! 今敵の攻撃が掠りました! 痛そうです。早く手当てをしてあげたい……!」
「分かる! 凄く分かるよ、ディビナ! でも我慢だ、我慢するんだ!」
「行かせて下さい~!」
「駄目だよ。駄目っ!」
そんな騒がしい仲間達を見て、ミューカスは溜め息を吐くしかなかった。
「……はぁ、ほんと私達ってフィア達の事、溺愛し過ぎよね」
「仕方ないだろ。元々俺達はフィアを守るっていう集まりなんだからな。本来は過保護なくらいで普通なんだよ」
「うん。一番じゃ、ないけど……。フィアは好き……。フォレオも、あの子も、好き……」
「……一番じゃないとか、わざわざそういう前置きを付けるなよ。必要ないだろ? ……因みに一番は誰なんだ? 俺か?」
「エンジュではない……。でも、一番は誰だろ……? んぅ? ……同率一位、かもしれない……?」
「……シノは本当に遠慮ってものがないよな。まぁ、いいや。お前等もそろそろ落ち着け。今回もどうにでもなんだろ」
エンジュの言葉も空しく、結局その状況はまだまだ続くのだった。
……そうです。
実はS級社員達はフィア達をいつも見守っていたんです。
獅子は我が子を千尋の谷に落とすと言いますね。
試練無くして成長なし。
助けてばかりではいけないという事です。
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