6-10 ベールを被りし狂信者3
あの方とやらがどんな奴なのかは知りませんが、この女のそれはきっと一般的な愛故になどではないのでしょうね。
これはそう、狂信としか言えないのです。
目の前で顔色一つ変えずに言い放った少女にそんな事を考えながら、理解出来ないその考えに生理的嫌悪感を覚えながらも、フォレオは頭の一部を冷静に保っていた。
こいつが、この女があの方とやらのために動いているのならば、こいつの裏には誰かがいるという事になります。
一人の狂信者がいるのです。あと何人いても不思議ではありません。
……情報を、少しでも集める必要がありますね。
「そこまで心酔しているなんて、あの方とやらは随分と素晴らしい方のようですね。それは一体誰なんです? あなた達の雇い主ですか? まさか、神様だなんて言わないですよね?」
「……神様ですか。えぇ、そうですね。私にとってあの方は神様です。ですから私達の雇い主など、そのような拙い者と一緒にされるのは甚だ遺憾です」
やはり雇い主とあの方は別ですか……同じだったら話は早かったのに、また面倒そうな話になってきました。
それにしても、神様というのを否定しないのですね。
「……どうやら、狂信者というのは間違っていなかったみたいですね。その装いもあながちコスプレではなかったと」
「……狂信者? あぁ、確かにあなた達から見ればそうも映るでしょうか。可哀想な人。未だ、自らを預けるに足る者に出会えていないのですね」
本当にこちらを可哀想だとでも考えているような目を向ける女。
自らを預けるに足る者?
そんな狂信でなくとも、背を預けられる仲間なら既にたくさんいるのですよ。
「……憐憫を向けられる謂れなどありません。まぁいいです。あなたはどうも口を割りそうにありません。その異常な忠誠心、心酔はしていても頭は回りそうですから」
「ふふふ、そう言うあなたも上手ですね。私を怒らせて冷静さを奪おうとしているのでしょう? あなたはつくづく私と似ています。果たして、これは偶然なのでしょうか?」
「……確かにあなたとうちは似ています。能力、戦闘スタイル、常に冷静であろうとするところ、これでもかってほどにうちと類似点がありますね。ですが、全て偶然です。うちは誰かに心酔するつもりなどありません。自分を無くすなんて、愚かな事ですよ」
そう言い切ったうちに対して、若干のいら立ちを感じさせる視線を見せる少女。
僅かに浮かべていた口元の笑みが消えましたね。
そのまま冷静さを欠いてくれればいいのですが……さすがにそこまでは期待出来ませんか。
心酔の否定。
それは彼女の崇めているあの方とやらを軽視する発言でもあったはずですが、それを流せるだけの冷静さは持ち合わせているみたいです。
フォレオが状況を把握している間、少女は特に考えなしの突撃などはせず武器の具合でも確かめるかのように手を動かしていた。
「……まぁ、それもいいでしょう。私も別にあなたを仲間になどとは考えていませんから」
「そうですか。それではそろそろあなたを倒すとします。……せっかくですから名前を聞いておきましょうか」
うちがそう言うと、女の意識がこちらに向くのが分かる。
名前を聞いたのがそんなに意外でしたか?
「……名乗りですか? 必要とは思いませんが……まぁいいでしょう。私はナクスィア・ソリタリオ。あの方の傍に侍りし鉾です」
「うちはフォレオ・シレーナ・ライナックです。あ、覚えなくてもいいですよ。ナクスィア、あなたは危険過ぎますからここで殺すことにします。絶好の機会にうちよりもあっちの蝙蝠獣人族を優先したこと、精々後悔する事ですね」
そう言ってうちが拳銃を構えると、ナクスィアは僅かに笑みを浮かべた。
「ほう、殺す……ですか。それはいけませんね。全力で防がせてもらいましょう。もっとも、あなた達にそんな余裕があるかは疑問ですけれど」
「うちでは力不足だと?」
「それもありますが……ほら、そろそろ始まる頃ですよ?」
そう言ってナクスィアは視線をスッと遠くに向けた。この方角は……町ですか?
「何を……ひゃっ!?」
その時、突然端末が激しく振動を始めた。
この振動、これはこいつらが来る時のアラートと同じ……!?
「まさか、まだ何か切り札があるんですか!?」
そう言って周囲を見回す。
転移ゲートは未だに開いており、ロボット達は未だに出て来てはいるものの追加される数は大分減ってきている。
恐らく、まもなく追加は止まるだろう。
そして、数秒待ったが特に新たなゲートが開く様子はない。
「……? 一体何が……」
「皆さん、大変です! ラグーンシティ全域、無数のゲートが開きました! ロボット達が大量に町に侵入しています」
突然の焦ったようなシンシアの声、いきなりの事でその内容に理解が追い付かない。
いや……理解したくなかったのだろう。
そんな困惑の中、信じたくないという気持ちが自然と口から漏れ出ていた。
「……は? シンシア、今なんて言ったんです……?」
「町中に、ゲートが開きました!」
それは防衛線の破綻を告げる一言だった。
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