6-7 白銀の勇気を胸に-3
まただ。また、あの聖女のような女が横から撃ったのだ。
この人達は一体何なんだろう? 分からない。怖い。
本能的な嫌悪に近いそんな感情が頭を占め、なんだか視界が狭くなるような感覚に襲われる。
息が苦しい。
何だろう。何なんだろう。
これは……あの女の攻撃なの?
これは……。
「シルフェ!」
「っ!?」
突然耳に響いた声に意識がそっちに逸れる。
今の声は……空? どこに……。
「シルフェ! 大丈夫!? 大丈夫なら返事をして!」
「あ……うん大丈夫。大丈夫だよ」
きょろきょろと辺りを見回してみたが声の主は見当たらず、少ししてようやく頭が追い付いた。腕に取り付けた端末に目を向ける。そっか、通信だ。
「良かった! シンシアさんからシルフェが良くない状態だって聞いて、今からそっちに行くから!」
……空がこっちに来る? うれし……。
そこまで反射的に考えたところで、こんな言葉が頭を過った。
空が助けに来てくれることを喜んでいていいの?
「あぅ……」
空は私とのことを考えてくれてるって言ってくれた。
それはこれまでひたすらに好意を伝えてきたことの成果って言ってもいいはずだよね。
だけど、私は空に好きになってもらう事に全力だったけど、空の事をちゃんと考えられていたのかな?
この星は空の育った星、国、故郷。
それはつまり私にとっての故郷と同じ、凄く大切な場所って事。
私はこの星を守ることに対して口では頑張るって言ってたけど、ちゃんと頑張れてたのかな?
この前の竜人族との戦いではフィア達の足を引っ張っちゃったし、その後の訓練も限界ってくらいに真剣にやれてたのかは自信がないよ。
こんな不安な気持ちを持ったままで、私は空の返事を受けてもいいの?
空は使わないようにしてたっていう能力も使うようになったし、私とのことにも前向きになってくれてる。なのに、私はいつまでも進めないまま。
今も任されたことをちゃんと出来ないで、助けてもらう事に甘えようとしてる。
本当にこのままで……。
そこまで瞬間的に考えたシルフェは自分の頬を思いっ切り叩いた。
辺りにパァンと良い音が響いた。
「え? ちょっ、今の音何!? 大丈夫!? 本当に大丈夫なの!?」
空が来る。空に会える。それは確かに嬉しい。
でも、今は違うよね。
私はいつも空の事で頭が一杯で、空と一緒にいれる未来ばっかり妄想して、一人で楽しくなって。
でも違うよ。
そうじゃない。そうじゃないんだ。
空が一番に私を心配してくれる。
それは私が望んでいた事。
私の事を意識してくれてるって事、大切だって思ってくれているって事。
好きな人がそんな風に思ってくれるなんて、私は幸せ者だよ。
でもそれは、私の願いの一部でしかないんだ。
勿論守ってもらえたら嬉しいけど、やっぱり迷惑は掛けたくないんだ。
私は空に大切にされるよりも、それよりももっと、空を大切にしたいから。
そのためには空に助けてもらうわけにはいかない。
……今空が持ち場を離れたら、それだけ皆の負担が重くなる。
もしも町を守り切れなかったら、皆で過ごすあの家が、あの大切な空間が消えちゃう。
それは私にとっても、空にとっても悲しい事。
うん、そんなのは許容出来ないよね。
私は幸せ者だからこそ、それに甘えてちゃいけないんだ。
私は、空との大切を守りたいんだから!
「……うん、大丈夫だよ。心配してくれてありがとね。空」
「いや、心配なんて当然の事で、ってそんなこと言ってる場合じゃないか。急ぐから」
「んーん、要らない」
「……え?」
「ここは私に任せて。私一人でもこの人は絶対に抑えてみせるから」
「でも、やっぱり心配だよ」
「信じて、ね? 空」
優しく語りかけるような、そんな口調で告げる。
しばらくの沈黙、今、空は考えている。
私の事を信じられるか、私に任せることが出来るのか。
それを、色々な不安と天秤にかけているんだ。
そして、答えはあった。
「……うん。分かったよ。でもこれだけは言わせて、危なくなったら絶対に僕を呼んでね。すぐに駆け付けるから」
「うん、分かった。ありがとう」
通信が切れると意識がスーッと晴れるような気がした。
視界は良好。息も出来る。
体の震えは……もう収まった。
そして、私は目の前の女を見据えた。
女は頭から盛大に血を流し、手で押さえながらも笑っていた。
「……あは、あはははは。やられたわ。興奮してた所為で気付かなかったみたい。全くひどい奴よね。あの女、私の楽しみを奪うなんてね。……覚悟を決めたようないい顔しちゃって、想い人にでも励まされちゃったのかしら?」
「うん、私の想い人はとびっきりのいい男なんだから!」
「……ふーん、そう。それはまた、その顔を歪ませる楽しみが出来たってものね!」
私の返答に驚いた表情から一転、再びの殺気、肌がピリピリする感覚。
でももう怖くなんてない。空が私に勇気をくれたから。
「シルフェリア・ミカエル。それが、あなたを倒す者の名前だよ」
「……へぇ、面白いじゃないの。それじゃあ、たっぷりと最高の地獄を見せてあげる! さぁ、私に絶望の表情を見せなさいよ!」
そして、二人は武器を構えて衝突した。
いつも能天気だったシルフェが意識を変えた。
これはシルフェの分岐点の一つですね。
流されるだけじゃなく、自身の手で未来を選択していく。
自身がありたい未来を掴み取っていく。
フォレオとフィアでも似たような話はありましたが、やっぱり大切な相手は守られるより守りたいと考えてしまいます。
カッコよく守られるというのも乙なものではあるんですけどね。
ときめきポイント爆上がり?
そんな一方で相手側は混沌を極めてきましたね。
嗜虐的なリリアと、なぜかリリアに攻撃するナクスィア。
理解出来ない事ってそれだけで怖いですよね。
でも、理解出来なくて良いのかもしれません。
深淵をこちらが覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのです……。
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