6-6 白銀の勇気を胸に-2
蝙蝠獣人族の戦い方は知らないが、その手にはナイフが握られていた。であれば、その戦闘方法は接近しての近接戦闘で間違いないはず。
近接戦闘にはそれなりに自信があるが、とはいえ相手の土俵で戦う必要もない。
リーチで勝っているんだから懐に入られないように立ち回る方が良いはずだ。
「行くよ! それっ!」
シルフェは両手の天剣をリリアに向かって投げつけた。
それらは簡単に弾かれてしまったが、弾かれた天剣はその形をグニャリと曲げてリリアに向かって襲い掛かる。
「おっと、危ないわねぇ」
「まだまだだよ! それそれそれぇ!」
シルフェは次々と天剣を作ると作ったそばから投げていく。
投げられた天剣は時に裂けるかのように分裂して逃げ場を塞ぎ、確実にリリアを捉える。
リリアを囲む元天剣の不定形な物体、天塊はどんどんとその数を増していき、その数はシルフェの操作出来る限界、十個ほどにもなった。
その手数は相当なもののはずなのだが、リリアはナイフを振るって的確に攻撃を捌いていた。
腕の下に大きな膜が張っているのだから的は大きいというのに、動きが上手くて掠りもしない。想像以上の手練れみたいだ。
「ふ、ふぬぅ、当たらない……なんでぇ?」
「よっと、ふぅん……これが天使族の不思議な力って奴? まるで曲芸ね。それに見た目に反して一撃一撃が重いわ。確か、インパクトの瞬間に重量を増してるんだっけ? 事前に知っていなければいいのをもらってたかもしれないわね」
「んむむ……やっぱり私の情報は知ってるんだね」
「はぁ? 何を言ってるのよ。あなた最初はこっち側だったでしょ? 調べられてるのは当然だし、裏切り者には粛清をっていうのも当然の事よねぇ?」
「裏切り者……あなた達傭兵にはそういうのは関係ないんじゃないの? この仕事さえ終われば赤の他人に戻るんだし、依頼主さんはともかく粛清をするような義理もないはずだよね?」
「んー? そうねぇ。確かに粛清をする義理なんてないわ。傭兵稼業は信頼第一って話だけど、どうするかは個人の自由だものねぇ。でも、そうすれば依頼主の覚えはよくなるし、報酬にも色が付くとは思わない?」
全力で攻撃しているのにそれをまるで何でもないかのように捌かれてる。
例えこっちの種が割れていたとしても、その対処はそう簡単な事ではないはずだ。
そんな事は、天使族である私が一番よく分かってる。
何せ、同じ力を持つ天使族の中で揉まれて育ったんだから。
つまり、この敵は息も切らさずこんな雑談をしながらも余裕で捌けるほどに手強いということだ。
正直、私一人で戦うには厳しいように感じる。
頑張って特訓をしたのに、まだ足りないの?
「……あんまりお金を気にしてそうには見えないけど」
「あは、バレちゃった? そうよ。私はお金にも依頼主にも興味なんてないわ。私はただ、誰かを殺したいのよ。ね? 戦って、圧倒して、勝てないって逃げ出した相手を捕まえて……助けてくれって泣きながら懇願されるのなんてもう……。あぁ、想像しただけでもたまらないわ! だから、ね? コロシアイマショウ?」
「ひっ!?」
その歪な感情を乗せた瞳を見ていると、真っ暗な底なしの穴でも覗き込んでいるかのような感覚になって背筋の寒気が酷くなる。
怖い。足が、手が震える。
本能的な恐怖に髪の操作が精彩を欠き、リリアの一撃で切られたそれらは形を維持出来ずに地面に飛散してしまった。
それを見ると、リリアは手を頬に添えて恍惚とした表情を浮かべた。
「あは、あはははは♡ 良いわ、良い。凄く良い♡ その顔、その怯えた表情! 本当にたまらなっ!」
その時、不意にリリアの言葉が途切れ、辺りに鮮血が飛び散った。




