6-5 白銀の勇気を胸に-1
「あっ、来た来た。やっと来たわね。待ちくたびれて町の方にでも向かおうかと思っちゃったじゃない」
「ふふん。残念ながらそうはさせないよ! 私は空との幸せな未来のためにも、この町を守らないといけないんだからね!」
何やら少し大きめのナイフをくるくると回していた蝙蝠獣人族の女は私を見るなり目を爛々と輝かせた。それに対して、私は臆する事もなく両手に髪で作った直剣、天剣を構える。
すると蝙蝠獣人族の女はじろじろと上から下までこちらを見回し、輝かせていた眼をスッと細めて若干冷たさを感じさせる声色で言った。
「幸せな未来……ねぇ? ふーん、天使族の小娘、確か……シルフェリアだったかしら? まさかあなた一人で来たわけ?」
「そうだよ。こーんなにたくさんの仲間を引き連れちゃって、やりにくいったらないよ」
「……」
手を大きく動かすジェスチャー付きでそう言う私を沈黙しながら見つめる女。
その眼差しに少し不気味さを感じながらも、いやその恐怖を紛らわせるためなのか、シルフェは疑問を口にした。
「そういえば、私の名前を知ってるんだね。あなたの名前は何ていうの?」
「……んー、もしかして私って嘗められてる? 嘗められてるのかしら? あのトカゲですら三人も釣れたっていうのに、邪魔が多いのも考えものね。でも流石に壊すわけにもいかないし……」
すると、女はまるで私の言葉が聞こえてないかのようにブツブツと呟いた。
その様子はそれこそ私の事を嘗め切っているかのようだった。
それを見て、せめてこっちを向かせようと声を掛けた。
「ねぇ、聞こえてないの?」
「……まぁいいわ。えっと? 私の名前だったかしら? いいわよ。冥土の土産に教えてあげる。私はリリア。リリア・ニュクテリス。うふふ、私があなたに引導を渡してあげるわ。だから、精々生きられるように足掻きなさ……いっ!?」
私を殺すと、笑いながらそう言い放ったリリアは死角からの一撃を体勢を崩しながらも躱し、攻撃の飛んで来た方に視線を向けると叫んだ。
「だぁー、もう! 分かってるわよ! この狂信者! 頭硬すぎ! これから戦うってのに仲良しこよしなんて楽しくないじゃない! まったく!」
「……? ……?」
てっきりフォレオが撃った流れ弾でも飛んで来たのかと思ったが、弾の飛んで来た方向に視線を向けると殺気の籠った視線を向ける半耳長族の少女が見えた。
え? この二人は仲間じゃなかったの?
多分二人とも私と同じで傭兵なんだろうし、元々二人組って事ではないのかもしれないけど、だからって敵である私達を前にして仲間割れをする意味がさっぱり分からなかった。
それが顔に出ていたのだろう。
頭にはてなを浮かべている私を見たリリアは手で顔を押さえて、はーっと溜息を吐くとこちらに殺気を放った。
「っ!」
肌がピリピリするような感覚、全身がこの女は危険だと訴えている。それはそう感じさせるだけのものだった。
そんな殺気を向けたリリアは、にたぁっと笑った。
その恐ろしい笑顔に背筋が震えた。
「邪魔が入ったわね。さぁ、始めましょうか。心躍る殺し合いの始まりよ!」
そう言うとリリアの体が不意にブレる。
いや、体勢を低くして走り込んできているのだ。
どうしてというのは分からないが、直感で感じる。
他の事を考えている余裕なんてない。
この人から注意を逸らせば、殺される!
「私が……倒す!」
二本の天剣を構え、走り込んで来るリリアに対して後ろに下がった。
シルフェ(天使族)の髪を超便利な謎物質に変化させる能力
これまでは特に呼び名とかつけてなかったんですけど、毎回髪を変化させたーとか書くとテンポ悪くなるという悩みにぶち当たったため、天剣とか天槍とか、そんな感じで表記する事にしました。
いや、ほんと! 名前つけるのって難しいですね!




