6-4 それは無双ゲーの如き戦場-2
遠くから聞こえる爆発音。
ビルを倒壊させるほどの轟音。
普通に生きていたらまず聞かないであろう戦いの音は、友人達が頑張っている証拠だ。
ビルの屋上で強風に靡く髪を片手で押さえ、唯は眼下にひしめくそれらを見た。
もはや見慣れてしまったロボットの山。
最初はあれのごく一部、数体ですら命の危機を感じていたというのに、今となっては雑兵の群れに過ぎない。
もっとも、そうでなければこの大軍勢を抑える事などとても出来ないのだが。
「とはいえ……出し惜しみは出来そうにないですね」
唯は胸に手を当てて目を瞑り、深呼吸をした。
何かを決意するかのように、はたまた自身の意識を切り替えるかのように……。
「私は守ります。愛しき者達を、愛すべき者達を。……ですが、願わくばこの愛しき日々も……。贋作聖剣」
唯はそう呟くと躊躇いなく地面を蹴って屋上から飛び降りた。
その彼女の周りには無数の贋作聖剣が生まれ、その矛先を蠢くその軍隊に向ける。
そして、軽やかに彼女が降り立つと同時、数えきれないほどの発砲音が響き周囲に火花を散らしていく。
しかし、そんなものが唯に傷をつける事はない。
しっかりと盾の形状に変化した聖剣が弾丸の行く手を阻んでいた。
「まずは数を減らさないとですね。聖なる光の雨!」
言葉と共に唯が聖剣を軍隊に向けると、聖剣の先に光が収束し無数の光線が殺到する。
それらは細い線のような一撃に過ぎないが、その威力は十二分であり光線は一瞬にして直線状のロボットの全てを貫いた。そして……。
「切り刻みなさい。光刃乱舞」
周囲に浮いた複数の聖剣が光線を放ったまま切り払い。
目の前にあった軍勢を焼き切っていく。
そして、どこからともなくその軍隊は爆発し、誘爆を繰り返して熱波を急速に撒き散らしていく。
そんな中、唯は小さく唇を動かし聖剣を地面に突きさすとその場に仁王立ちで熱波を受け止めた。
そこに残ったのは爆発四散したロボット達の残骸と、衝撃に耐えきれずに崩れた廃墟の山。
爆発が周囲を焼き焦がす中、唯の周囲……いや、唯の後方だけが何事も無かったかのように残っていた。
すでにその前に立つ者は無く、しかし少女は力強い眼差しで開けた視界のその先を見据えていた。
「まだ、序の口と言ったところでしょうか? 本当に数が多いですね。それでも私は、通すわけにはいかないんです。守りたいと、そう思ってしまいましたから」
奥から再び湧き出てくるロボットの軍勢、それを見ても少女は怯むことなく力強く一歩を踏み出した。
今は、今だけは自分の意思を貫き通す。
その決意を胸に抱えて。
*****
空はうじゃうじゃと蠢く軍勢を廃墟の影からこっそりと見つめていた。
正直なところ、あの軍勢に飛び込んでいくのは少々厳しい。
他の皆は何かしらの範囲攻撃の方法を持っているというのに、未だに自分にはそんなものは一つもないのだ。
「多少自分の時間を長く出来た所で囲まれたらさすがに厳しいよね……集中切れたりしたら袋叩きにあっちゃいそうだし……」
自分の力はそれなりに強いものだとは思っている。
だけど、これまで使ってこなかった所為でいまいち自信が持てない。
僕はこの力を本当に使いこなせる?
持続時間は? 途中で使えなくなったりしない?
そんな不安が頭をぐるぐると回る。
でも、このままじゃいけない。良いわけがない!
雷人の事もあるし、シルフェの事もある。
僕は変わらないといけない。いや、変わるんだ!
「ん!」
空は自身の両頬を力強く両手で叩いた。
頬がじんじんと痛い。熱くなってくる感覚がする。
……ちょっと涙出て来た。強くやりすぎちゃったかな。
でも、不安の言葉は吹き飛んだ。
「よし、行くぞ!」
身体強化を使って思いっ切り地面を蹴るとロボットの群れに真正面から突っ込んでいく。
向こうもこちらに気付いたらしく無数の弾丸が飛び交い、ロボット達が武器を振り翳しながら殺到してくるが問題ない。
自身の時間を二倍程度に延ばすと敵の動きが一気に鈍くなる。
そして、ゆっくりと振り下ろされるそれらを軽々と躱すと思いっ切りその顔面を殴り飛ばした。
「おおおおおおりゃあああ!」
殴り、蹴り、掴んでは投げ、振り回して叩きつけ、無我夢中で敵を討つ。
空は頃合いを見て上に跳び上がると置き土産とばかりにウルガスさんから貰っておいた球状の爆弾を群れの中に複数投げ込んだ。
「よし! 退避、退避! うひゃあ!」
一旦離脱して地面に伏せ可能な限り爆風を避けてやり過ごすが、肌を撫でるその熱に呻き声が漏れる。
自身の時間を長くしていると瞬間的なダメージを弱めてくれるのだが、その分痛みは長く続く。この能力、良い事ばかりではないのだ。
相手からの攻撃は相対的に遅くなるからダメージを一気に軽減出来るけど、自分から攻撃する時は柔らかい物を殴る時でも硬い物を殴っているのと同じように感じるからその分痛いしね。本当に一長一短だよ。
でも、ウルガスさん仕込みのグローブのおかげで反動は軽減出来てるし、こうして武器を使えば本来出来ない範囲攻撃だって出来る。
「ふふふ、僕だってやれば出来るんだってところを見せないとね」
まるで雷が落ちてビビっている子供みたいに頭を抱えながら丸まって地面に伏せていた空は、すくっと立ち上がるとグローブを打ち合わせて決め顔を作って笑った。
*****
一方その頃、後方待機を命じられた芽衣はといえば、当然と言うか何と言うか。
物凄く暇そうに侵入不可区画とラグーンシティ中心部を繋ぐ橋の上にグデーっと寝転がっていた。
時々ごろっと寝返りを打ってはお腹をポリポリ、その様たるや休日のオヤジのようであった。しかし、幸いと言うべきかそんな姿を見ている者は哨以外誰もいないのだ。
「芽衣、流石にはしたないです。直さないならその姿を写真撮っちゃいますよ」
「写真って。そうは言ってもさー、やる気でないよー。また一番後ろに追いやられるなんて、お兄ちゃんは心配のし過ぎなんだよぅ。……一応罠は張ったし、やる事はやるけどさぁ。もうちょっとリップサービスがあってもいいんじゃないかなぁ?」
「まぁまぁ、いわゆる最後の砦って奴なんですから、やる気出して下さいよ」
「もー、口を開けば皆そればっか……ん?」
うだーと言った感じでうつ伏せながらぼやいていた芽衣は、何かに気付いてピタリと動きを止めた。
「今のって……哨ちゃん?」
「違いますよ。私ではないです」
「本当に写真撮ってる……いや、そんなことより」
パシャパシャと機敏な動きで色んな角度から写真を撮っている哨を横目に、冷や汗を流しながらギギギと音が鳴りそうなぎこちなさで何もない虚空を見上げる。
「あ、あは、あはははは……見てました?」
「え? うーん、何のことでしょうか?」
「ん! いやいや、何でもないんですよ! うんうん、頑張っちゃう!」
シンシアさんの言葉に途端にパーッと顔を明るくする芽衣。
嬉しさのあまり無意識に体が動き出し、腕をブンブンと振ってしまう。
しかし……。
「あーでも、女の子が外でお腹を出して掻くというのはあまり感心出来ません。好きな人とかが出来た時のために今から気を付けた方がいいと思いますよ?」
続いた言葉にその動きはピシッと凍り付いたかのように止まることになるのだった。
そのまま芽衣は膝から崩れ落ちるように地面に手を突き、そのまま体を丸めてダンゴムシの様になってしまった。
「あれー? 芽衣さーん? 芽衣さーん?」
「……もう……お嫁にいけない」
「行けますよー。大丈夫です! 自信持って下さい!」
「うーん、これはなかなか、またコレクションが……あ、芽衣。こっちに視線いいですか?」
「う……くぅ」
シンシアさんも哨ちゃんも、もしかしてSなんじゃないだろうか?
そんな事を考えて丸まる芽衣の耳に遠くで響く爆音が、何かが崩れるような大きな音が届く。
「うぅ、こうなったら私もスカッとしたいぃ。早く来ないかなぁ」
丸まったままで顔だけをそっちに向けた芽衣は、途切れないシャッター音を浴びながら煙の昇る戦場を一層恨めしそうに眺めるのだった。
皆、最初の頃と比べると各段に強くなりましたね。
特に唯なんて、大分カッコいい能力になりました。
最初なんて、形状変化と光線ブッパくらいしか出来なかったのに、贋作聖剣のおかげで幅が広がりまくり。流石は聖剣って感じですね。
それに比べて芽衣と哨は……うーん、色々と頑張りが必要そうですね。
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