5-57 夢の記憶を心に刻み、色付く世界への一歩を踏み出せ 1
さて、色々とアトラクションを回ったが最後に遊覧潜水艦に乗ろうと勇んでやって来たのだが……。
「見事に逸れたわね」
この遊覧潜水艦にはゴールデンタイムというものが存在するそうで、一定の時間に乗ると特別な物が見られるのだという。
そこで俺とフィアが急いで列に並び後ろを振り向くと、付いて来ていると思っていた芽衣、哨、フォレオ、唯の四人がいなかったのだ。
「きっと芽衣がさっきの売店で粘ってた所為だな。まさか付いてきてないとは思わなかった」
「……まぁいいわ、最後くらい二人きりでっていうのもいいでしょ? このまま並んじゃいましょ!」
「……二人きり、そうだな」
全員で来ている以上、そんな機会は訪れないと思っていただけにかなり嬉しい。
というか、二人きりって言われるとそれだけで緊張してくる。
普段はなんだかんだで誰かが近くにいるからな。
それから、二十分ほどは列に並んでいただろうか?
ようやく俺達の番となり、ゲートの前に案内された。
「お次の方、こちらへどうぞ! 二名様でよろしかったですか?」
「えぇ、二名で合ってるわ」
「それでは! すぐに次の遊覧潜水艦がやって参りますので、そちらに乗って頂きます。水面をご覧下さい」
そう言われて指差された方の水面を見ていると少し離れた所の水面に影が浮かび上がった。
潜水艦が浮上してきたのだろう。
するとみるみるうちにその影が大きくなり、水面を押し上げて潜水艦が姿を現した。
「わっ! あれが遊覧潜水艦なのね! 私潜水艦に乗るのは初めてだから、ちょっとドキドキするわ!」
「まぁ、普通は乗る機会なんてないよな。俺も乗ったことないよ」
全長七メートルほどはありそうな小型の潜水艦で遊覧用なだけあってガラス窓がたくさん付いているようだった。
……潜水艦にガラス窓が付いてるイメージあんまりないけど、大丈夫なんだろうな?
いや、アトラクションにしてるんだから問題あるはずはないんだが……。
そんな事を考えていると潜水艦の上部のハッチが内側からパカッと開き、中から乗客が出て来て降りて行った。
一、二、三、四……六人か。
二人で入るのは結構贅沢かもしれないな。
「さぁ、お客様! 足元濡れておりますので、お気をつけてご乗船下さい。良い旅を!」
「ありがとうございます」
「ありがとう」
乗客を降ろしてこちらに流れて来た潜水艦に向かって歩いて行き、外面に付いていたタラップを登って中へと入るとスタッフが付いて来てハッチを閉めて行った。
それと同時にフィアが感激の声を上げる。
「わぁ! 中はこんな風になってるのね! 見た目は結構レトロだわ! 機械チックな感じもなかなかいいわね」
「確かにそうだな。実際の機能的には多分ハイテクなんだろうけど、内装をそれっぽく見せてる感じかな? 雰囲気があるな」
わざとらしくちかちか光るランプや、何かを探知していそうなレーダーなど、それっぽい機器が備え付けられているが、特に機能していそうには見えない。
多分、見せかけだけの物だろう。
とはいえ、こういうのはなんだかテンションが上がるな。
「ほらほら、雷人! 凄いわよ! ここの水、透明度が高くて結構遠くまで見渡せちゃうわ! 暗いのに凄いわね!」
「確かにそうだな。あっ、潜航時に揺れるらしいぞ。フィア、一旦座って潜航するまで待とう、って、うわっ!」
「きゃっ!」
テンションマックスといった様子で窓に張り付いていたフィアが潜航時の揺れでバランスを崩したので咄嗟に腕を滑り込ませて体を支える。
フィアは本当にこういう時は危なっかしいな。
仕事中ならこんなこと有り得ないんだが……。
「ご、ごめんなさい」
「いや、大事なくて良かったよ。それよりほら、もう揺れも収まったからゆっくり見よう」
「そうね……ねぇ、まだ揺れるかもしれないし、しばらくこのままでもいいかしら?」
「え? あ、いや、全然……OK、です」
どういうわけなのか、フィアからのこのまま宣言。
今の状態はというと、フィアが俺の胸に寄りかかっており、その体を腰に片手を回して俺が支えている状況だ。お互い水着という事もあり破壊力が半端ではない。
幸いと言うか、フィアの水着はいわゆるビキニパーカー。
腰に回した手は地肌を触っているわけではない。
俺の方も一応上着は羽織っているもののその下は裸なわけで。
前は開いているので、もたれかかられているだけでも何となくこそばゆい。
度々首の辺りにフィアの吐息が掛かるので尚更意識してしまう。
もしかしたら恋人とかなら普通の事なのかもしれないが……フィアさん。
そういう事を言うと勘違いさせてしまうんだぞ?
俺としてはラッキーとしか言えないので思う存分享受させて頂きますが……いや、駄目だ。例えこの状態を止めることになってしまう可能性があっても、言っておくべきだな……うん。
「……フィア、俺だからいいけどさ。他の奴にそういうことを言っちゃダメだぞ? 勘違いさせるからな」
「……他の相手なんて思いつかないけど、それって……」
何やら顔を赤らめながら遠慮がちに俺のわき腹の辺りに手を添えてこちらを見上げてくるフィア。
おい、そんなの反則だろ!
ポイント高いです! 可愛過ぎる!
……いやいや落ち着け、変なことを考えていると悟られてはいけない。
平常心、平常心……。
俺は心情とは裏腹に極力普通の顔を心がけてフィアを見返し、何も気にしていないとアピールする。
「ん?」
「……何でもない。あっ、ほら! 光が見えて来たわ! 外に出たのね!」
「あぁ、本当だ。綺麗だな」
相変わらずフィアの方が気になるが、それはそれとして窓から見える景色は最高に綺麗だった。




