5-56 思い出という名の宝を込めて
光が晴れるとさっきまであった水もクジラも消え去っていて、空中に浮かぶクリスタルはゆっくりと台座に向かっていき元の場所に納まった。
それと同時に部屋も再び元の氷鏡の部屋に戻っていき、いつの間にか台座の後ろには最初には無かった氷の階段が現れていた。
「ふぅ、これでようやくクリアか」
「そうみたいですね。きっと、あの階段を昇ったらこのアトラクションは終わりになるのだと思います」
俺と唯が階段を見て話していると、後ろにスッと現れた気配に俺達はびっくりして振り返った。
「いっひっひっ! あんた達がクリスタルを外しちまった時はどうなる事かと思ったが、結果的には忌々しい春精霊を封印することが出来た。礼を言おうじゃないか」
「いや、勝手に悪い魔女だと勘違いして悪かったよ。助かった、こっちこそありがとう」
「私からも、すみませんでした。そして、ありがとうございます。このお城、とても楽しかったです」
「いっひっひっ! そうかい、それは良かったねぇ。そうだ、あんた達には良い愛を見せてもらったからねぇ。これをあげようじゃないか」
そう言って、魔女は俺達の掌の上に何かを落とした。これは……。
「氷の指輪?」
「あ、これってもしかして……ペアリングですか?」
「いっひっひっ! それじゃ、末永くお幸せにねぇ」
そう言って何処へ行ったのか、魔女は霧のように消えてしまった。
残された俺は反応に困り、横目で唯を見た。唯は氷の指輪を見ながらどことなく頬を赤らめているように見える。
「えっと、はは、何か困っちゃうな。いきなりペアリング何て渡されてもさ」
「……そうですか? これは、私にはとても大切なものになりそうな気がします」
「えっと……」
何と答えるべきか逡巡していると、唯が指輪を握り締めながら言った。
「この楽しい時間、今日皆で過ごした思い出は私にとってとても大事なものです。この時間が鏡に映った私達みたいに永遠に続けばいいですが、そんなことはありません」
唯がそう言って氷鏡を見ると、釣られて俺も鏡を見た。
そこには鏡の中にどこまでも続く二人の姿が映っていた。でも、時間は流れるし変わらないなんてことはありえない。
「私達はどうあっても他人です。それぞれの人生はそれぞれのものですから、いつか私達は違う道を歩むことになるでしょう。それに、思い出も永遠ではありません。時と共に薄れてしまうはずです。でも、それでも私は、この指輪を見ればきっと今日という日を思い出します」
唯の言葉には力がこもっている。言っていることは分かるし、同意もする。
でも、そう思いながらも、口では言いながらも、まだ先の話だとどこかで考えないようにしていたそれに、唯は向き合っているんだ。
「雷人君、だから、この指輪は私にとってとっても大切な宝物です。……良かったら雷人君もこれを持っていてくれませんか? 今この時、私達は一緒にいたんだと、その証明のために」
「……そうだな。分かった。これが唯の宝物なら、俺にとってもこれは宝物だ。友情の証って奴だな」
「……えぇ、そうですね。友情の証です。だから、絶対に無くさないで下さいね?」
「おう、任せろ」
俺が笑って見せると唯も微笑んで見せた。
「ふふ、ありがとうございます。それじゃあ、皆が待っているかもしれませんから早く行きましょうか」
そして、俺達は階段を上り、扉を開くと氷の城のエントランスに出た。
どうやら二階に出たようで、下を覗いてみると他の四人がいるのが見えた。
向こうもこっちに気付いたようで芽衣が俺の方を指差した。
「あっ、お兄ちゃん発見! 見事に最後だったねl! 哨ちゃんと私の勝ちだよ!」
「勝利です。ブイ」
「ふふん、うちとフィアが一番でした。やはり連携力が段違いでしたね」
「もう、そんなこと言って。私達だって出て来たのは精々五分前でしょ。ほら、雷人と唯も早く降りてきなさいよ! 感想を共有しつつ次のアトラクションに向かいましょ!」
「あぁ、分かった。今行くよ! 唯、今日はまだ終わってないからな。最後までたっぷり遊び倒して、もっと思い出を増やすぞ」
「ふふ、そうですね。今日という日をもっと楽しみましょう!」
そして、俺と唯は階段を駆け下りたのだった。
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思い出の品っていいですよね。
それ自体は役に立たなくても、思い出すための鍵になる。
記憶はどうしても薄れてしまいますから、大切な思い出を残すなら、何か関連したものを残しておきたいものです。
さて、次のエピソードで本章も最後になります。
最後はもちろんフィアのエピソード、お楽しみに!




