5-51 アイスキャッスル・ラビリンス
氷の城の外に出来ている列に十五分ほど並び、ようやく中に入ることが出来た。
城の中には氷で出来た家具や調度品が並んでいて、天井には綺麗に光るシャンデリアまで吊るされていて見た目には凄く綺麗だ。
そして、事前情報のとおり特に寒いという事もない。それでいて氷が溶けていないのだから結構凄い技術が使われていそうだな。もっとも、アトラクションとしては良いがここに住みたいとは思えないが。
「それでは次のお客様、こちらへとお願いします」
「あ、私達の番みたいだよ! 行こ行こ!」
「あ、芽衣。床も氷なんですから、走ると転んじゃいますよ」
どうやら順番が来たみたいだ。係員に案内されてて歩いていく。確か二人一組で参加するアトラクションだと聞いていたが、他の客も含めて三十人ほどが一度に呼ばれていた。
「二人ずつ案内されるんじゃないのか。この先で分かれるのか?」
「どうやらそうみたいですね。あ、大きな広間に出ましたね。ここがスタート地点でしょうか?」
何やら開けた場所に出た。豪華で大きな城のイメージにピッタリな玄関といった感じだろうか? 中央と左右から伸びる大きく幅の広い階段があって二階に行けるようになっているみたいだ。
中央の階段はまっすぐ二階に繋がっているが、左右の階段は螺旋を描くようにして二階の側面側へ繋がっている。一階もそうだが、二階にもたくさんの扉が見えるな。
「ふーん、迷路って話だしこのたくさんの扉の中から一つを選んで進んでいく感じかしら? 一階と二階で何か変わるのか気になるところね」
「内部構造はリアルタイムで変化するという話でしたし、単純に一度にたくさんの客を捌くための仕様ではないですか? 迷路という事なら踏破するのにそれなりの時間は掛かるでしょうし、客の満足感と回転率を上げる事の両立のためでしょう。うちはどの扉から入ってもさして変わらないと思うのですよ」
「……そう言われるとそんな感じがするけど、もうちょっと夢を見ましょうよ」
「あ、すみません、ちょっと野暮な事を言いました。……や、さっきのはあくまでうちの憶測に過ぎませんし、アトラクションの内容とは関係ないのです。きっと楽しめるような内容のはずなのですよ」
あー、多分フィアはさほど気にしてないだろうけど、フォレオが気を遣ってぎくしゃくしてるな。
フォレオがちょっと過敏になってるのはさっき注意した所為でもありそうだし、フォローした方が良いか。
そう思って二人に声を掛けようとしたのだが、俺よりも先に唯が二人にスッと近寄って声を掛けた。
「二人とも、どうやらアトラクションの説明があるみたいですよ。係員さんが呼んでいますから早く向かいましょう」
「あぁ、そうみたいね。それじゃあ行きましょうか」
「は、はい。行きましょう」
お、他に意識を向けてちょっと気まずい空気を断ち切ったな。狙っての事かは分からないが、唯は自然にこういう事が出来て凄いな。
っと、いけない。俺も急がないと。俺は小走りで唯達の後を追いかけた。
そして、全員が近くに集まったことを確認すると、係員が説明を始めた。
「皆さま、当アトラクションにご来場頂きありがとうございます。こちらのアトラクション、【アイスキャッスル・ラビリンス】はこの氷の城からの脱出を目的としたものとなっています。二名のペアになって頂いて、このエントランスに無数に存在する扉から一つを選択して脱出を目指して頂きます」
へぇ、迷路とは聞いてたけど、これって脱出ゲームだったのか。
脱出ゲームはやった事がないからちょっと楽しみだな。
「詳しい内容については扉の中に進みますと説明がありますので、皆さまペアを作って扉の中へとお進み下さい」
係員の説明を聞いて周りの客たちがペアを作って扉を選びに歩き出した。
さて、俺達はまだペアを決めてないから早く決めないとな。
「それじゃあ、ペアはどうやって決める? じゃんけんとかでいいか?」
「いえ、私は芽衣と行きます。これは絶対です。譲りませんよ」
「うぉう! 熱烈なラブコールだね! それじゃあ私のペアは哨ちゃんだ! そうと決まれば早速扉を吟味しにいこう!」
「はい、行きましょう。それでは皆さん、また後で」
「お兄ちゃん! どっちが速く脱出出来るか勝負だからね!」
そう言うと芽衣は哨の手を引いて走って行ってしまった。
あ、二人そろって滑ってこけた。
「おい、はしゃぎすぎて怪我するなよ! ったく、心配になるな」
「あはは、芽衣ちゃんと哨ちゃんは元気一杯ですね。それに……ちょっと羨ましくなっちゃいます」
「そうか? 俺としては少し落ち着いて欲しいが、っと、こうしてる場合じゃなかった。ペアを決めないとな。他に希望とかはあるか? なければじゃんけんにするけど」
「あ、それなら私はフォレオとペアを組もうかしら」
「え、うちとですか?」
「……えっと、私とじゃ嫌かしら?」
「い、いえいえいえ! そんな事はありません! う、うちもフィアと組もうかと思っていたところですので!」
「そう? それなら嬉しいけど、じゃあ私達も扉を選びに行きましょうか」
「えぇ、そうですね! 行きましょう行きましょう!」
フォレオはこちらをちらっと見ると両拳を握って肘を体に寄せ、恐らく頑張ってきますと気合いを入れるとフィアに付いて行った。
「うん、ちょっとやらかしの所為でぎこちなくなってたのが気になってたが、この分なら大丈夫そうだな」
「……前もそんな感じの事を言ってましたけど、フィアさんとフォレオさんって何かあったんですか?」
「あっ」
しまった。唯の前ではどうもポロっと零してしまいがちだ。
うーん、でも隠すようなことでもないよな。唯なら茶々を入れたりはしないだろうし、まぁ大丈夫か、よし。
「ちょっと昔は色々とあったみたいでな。今はお互いに歩み寄ろうとしてるんだよ。俺は偶然それを知る機会があったから、影ながら応援しててな」
「なるほど、そうだったんですね。でも、私には仲のいい姉妹に見えていましたから、心配しなくても大丈夫だと思います」
「だな。分かってはいるんだけど、所々危なっかしくてな。大丈夫とは思っててもちょっと気になっちゃうんだよ」
「そうですね。その気持ちもちょっと分かります。ふふ、親心ってこんな感じなんですかね?」
「え、親心……そう言われるとちょっと複雑な気分だな。俺はまだ高校生だぞ」
「ふふふ、そうですね。さて、残った私達が最後のペアですね。それでは行きましょうか?」
そう言って唯は手を差し出して来た。
一瞬躊躇したが、拒否するのは流石に失礼だし意識し過ぎてるみたいでキモい気がしてすぐに握り返した。
「んっ……」
「え、どうかしたか?」
「いえ、思ったよりも強かったので」
「あ、強かったか? 悪い……?」
そう言って俺が手を離そうとすると、唯がより強く握って来たので離せなかった。
どうするべきか迷ったが、無理矢理振りほどくのが違うのは分かるので大人しく握り返した。
「ちょっとびっくりしただけなので大丈夫です。それに……」
「……それに?」
「いえ、何でもありません。皆さんを待たせているから早く行きましょう」
「お、おう」
気になるから途中で止めるのはやめてくれー! と心の中で叫びながら唯に手を引かれながら一緒に走った。
わずかに見えた唯の横顔は、走っている所為かほんのり赤くなっているような感じがした。




