5-49 何でもするって言ったよね? 2
「……ふふ、ふふふふふ、私もう怒っちゃったもんね! お兄ちゃん!」
「はい!?」
なんか突然病んだかのように怪しく笑い始める妹に少し戦々恐々としながらも返事をすると、芽衣はフォレオを見据えたまま指を弾いて見せた。
……突っ込めってことでいいんだよな?
そう判断した俺はフォレオの死角に入るように動きを調節しながら距離を詰める。
そんな中、芽衣がまたもや腕を包む銃口をフォレオに向けた。
「これならどうなの! 脱水君!」
いつも通りのそのまんま過ぎる名前のそれが複数射出され、フィアに追い立てられているフォレオの足元に落ちた次の瞬間、一瞬にしてフォレオの足元の水がごっそりと消え、フォレオが空中に投げ出された。
「へ? なっ、これって禁止事項じゃなかったですか!?」
「禁止事項は水を干上がらせることだもんね。一部の水を吸い上げる事じゃないんだから!」
「はは、さすがは俺の妹だ。……切れさせないように気を付けないとな」
「しまっ!」
フォレオが空中に投げ出され動きが止まったその瞬間に、俺は素早くフォレオにタックルを仕掛けた。
このゲームは禁止事項が少ない。
勿論、ラフプレーが駄目なんてルールもないぞ?
そして……。
「ゼロ距離なら、弾道変えるも何もないだろ!」
「うひゃ! っちょ、後ろからは止めて下さい!」
「ふふ、じゃあ、前からならいいんですね?」
「唯!? いつの間に! ひゃわ!」
一瞬にして距離を詰めた唯と俺によって合計八発ほどの水弾がフォレオに叩き込まれた。
苦し紛れにフォレオが撃ち返してきた水弾は一発ずつ唯と芽衣を捉えたようだったが俺とフィアは完全に防ぎ切った。
そして、揉み返しで流れ込んで来た水の上で器用にバランスを取りつつ、フォレオは不敵な笑みを浮かべた。
「ふふふ、ここまで苦戦させられるとは思いませんでした。ですが、残念でしたね。残り時間はたったの十五秒、今のうちの得点は五点、次点で雷人の二点のはず。このまま逃げ切って、うちの一人勝ちです!」
「そうはさせるか!」
「甘いですよ!」
空中にカナムでレールを作って、無理矢理にその上を滑りながら接近しつつ水鉄砲を乱射するが、狙い澄ましたような銃撃でその全てが撃ち落とされてしまった。
そしてその瞬間、終了を知らせるブザーがコート全体に鳴り響いた。
「やった! これでうちの勝ちです! ふふふ、どんなもんですか!」
勝ち誇った用に跳び上がるフォレオ。
しかし、それを称賛する声は上がらない。
代わりに上がったのは……。
「……く、ふふふ、あはははははは!」
フォレオを横目に笑い出した俺にフォレオが不気味なものを見たというような視線を向けた。
「な、何なんですか? 突然笑いだして、まさかゲームに負けたくらいで自棄になってるんじゃないですよね?」
「ははははは、はー、いや、そういうわけじゃないんだが、まんまと嵌ったなぁと思ってな」
「へ? 嵌った? うちが? ……一体何のことですか?」
「分からないか? 分からないならリザルトを見てみろよ」
アトラクションのリザルトはコートの入り口に設置された電光掲示板に表示されている。
それを見るとフォレオは目を丸くして、まるで金魚の様に口をパクパクとさせた。
「確か、負けたら何でも一つ言う事を聞くんだったか?」
唯:0点 雷人:2点 フォレオ:5点 フィア:15点 芽衣:-22点
「なぁ! これは……まさか……」
「ルールは聞いてたよな? チームを組んでいても当てれば得点は無効にはならない。お前が一位でなければ、俺達の勝ちだな」
「えへへ、びしょびしょになっちゃった。でも、最初からマイナスならもうどれだけマイナスになっても変わらないもんね!」
状況が理解出来たのかフォレオの顔が段々と青ざめていく。
「……ちょっ、ちょっと待って下さい。うちが悪かったです。反省していますから罰ゲームとかは……」
フォレオとしてはあまりないフィア相手に無双できる機会だったのかもしれないが、他人に迷惑をかけるのは駄目だ。
遊びとはいえ、皆が楽しむためには最低限のマナーが必要だからな。
限りなく黒に近い手段まで使って、あれだけ調子に乗ってはしゃいでいたのだ。やっぱり、多少の痛い目は見てもらわないとな。
フィアも同意見なのか、ニコニコとしながらフォレオに近付いていく。
やられる側の立場で考えると……あれは怖いな。
「ねぇ、何でもするって、言ったわよね?」
「あぅ……はいぃ」
ずいっと顔を近付けるフィアにたじろぐフォレオ。
そこでフィアは人差し指でフォレオの鼻を押した。
「ふぎゅっ」
「それじゃあ、命令。今日は楽しむことに全力を尽くす事。勿論、皆に迷惑は掛けないようにね。いいかしら?」
「ふぃ、フィア……」
フィアの言葉にフォレオの顔がパーッと明るくなるのが見てとれた。
少し脅し過ぎたかな?
何にしても、これで調子に乗って人に迷惑を掛けてはいけないという事が身に染みたのではないだろうか?
それと同時に、やっぱりルールはちゃんと決めないといけないなぁと思うのであった。
いやぁ、水辺で男女が水のかけ合い。
普通ならきゃっきゃうふふな展開になるところなんでしょうが、はい、普通にガチバトルです。
水を操作出来るフォレオがいる時点でフォレオ優勢は揺るぎなかったので、それをどうやって倒すかを考えるのはなかなか楽しかったです。
作者はこうでしたが、皆さんならどうやって倒しますかね?
能力を自由に使ってしまうと水鉄砲は簡単に防げますし、かと言ってルールで全て禁止してしまうと普通過ぎて盛り上がりに欠ける。なかなかに難しい塩梅でした。
結局、各々のマナーに任せるとかいう曖昧なルールになってしまいましたが、個人的には結構上手く書けたかなと思っています。
それにしても、見事に各キャラの考え方の差が出ましたね。
とにかく勝ちたいはっちゃけフォレオに、そう来るなら仕方がないと周りに影響がない程度に、防御にのみ能力を使用するフィア。
何気に一発ももらっていないのはフィアだけだったりします。
ついでに雷人もフィアと似たような考え方ですね。
少しフォレオよりですが…。
一方、最初は控えていたものの怒り心頭な芽衣は、相変わらず場を一変させるクラッシャーっぷりを発揮しますが、何気に一発も当てていない無得点です。
それでも圧倒的な存在感。さす芽衣です!
そして、やはり真面目な唯。
フォレオの理不尽な能力の使い方を前にしてもはっちゃけることなく、最低限のサポートとしてのみ能力を使用しています。
やっぱり彼女が一番マナーがありますね。
さて、長々と失礼しました。
本章も残り少なくなってきましたが、最後までお付き合い下さいませ!




