5-47 ウォーター・スケーター
さて、空とシルフェは二人でどこかへ行ってしまったが、それはそれとして俺達は楽しむとしよう。というわけで女性陣と共に水の遊園地内を歩いていく。
「さすがは別の星のプールというか、何か俺の知ってる一般的なやつとは少し違いそうだな」
「色んな星からお客さんが来るんだもの。そりゃあ多少は違うでしょうけど、基本的には同じなはずよ?」
「ここは水を扱ったものなら大抵のアトラクションはありますよ。水の上を走るジェットコースター。水の中に潜ってその幻想的な光景を見る遊覧潜水艦。強力な水鉄砲を使ったアクティビティから温水プール、流れるプール、ジャグジー、ウォータースライダーに水の上を滑って遊ぶアクティビティなんかもあるみたいです」
「えっと、他のものはなんとなく分かるのですが、水の上を滑るアクティビティっていうのはどのようなものなんですか?」
「私もそれ気になる! あれかな? 水に浮いてすいすい―っと行けるのかな?」
「気になるなら行ってみましょうか。時間はたっぷりとあるし、行きたいのは全部回りましょ!」
「おー!」
そんなこんなで、俺達はウォーター・スケーターというアトラクションへとやって来た。
周りに目を向けると水面に浮くためのホバーシューズらしき物や水に落ちた時に浮かぶための物だろうか? ベストが置かれている。
他には水鉄砲などが置かれていて、奥には浮きで出来た一辺三十メートルほどのコートが広がっていた。
どうやらこのアトラクションはビーチバレーとかと同じでスポーツに分類されるものみたいだな。
俺達が珍しそうにそれらを眺めていると笑顔を浮かべた係員が近付いてきた。
「皆様、当施設へのご来場、誠にありがとうございます。当アトラクションは初めてでしょうか?」
「そうね。初めてよ」
「それでは、当施設の説明をさせて頂きますが宜しいですか?」
「えぇ、お願いするわ」
フィアが返事をすると、係員は慣れた様子でルールの説明を始めた。
「それではウォーター・スケーターのルールを説明させて頂きます。ここではホバーシューズを履いて頂き、浮きで囲まれたコートの中でお互いに水鉄砲で撃ち合い、そのポイントを競って頂きます。それにあたって皆様にはこちらの専用ベストを着て頂きます」
そう言って係員は何やら的なのだろう白い布の付いたベストを取り出した。
「このベストは水鉄砲から放たれた水を感知出来るようになっていまして、一定以上の水が掛かることで一ポイント減ります。逆に、こちらの水鉄砲はベストに当てることで一ポイントが加算されるようになっています。十分間経過でゲームが終了し、ポイントの増減の結果が上に設置されているモニターに表示される仕組みとなっています」
ふむ、要するに水鉄砲を使った水上サバゲ―のようなものか。
ルールもシンプルだし、分かりやすい。
アトラクションとしては十分と言えるだろう。
あと気になる事と言えば……。
「このゲームってチーム制とかはあるんですか?」
「いえ、チーム制はありませんが、個人のポイントで競うのも自由、チーム対抗戦にするのも自由です。ただし、チームを組んでも仲間の撃った水が無効になったりはしませんので、その点には気を付けて下さい」
「ふーん、じゃあ誤射の可能性があるんだね」
「うーん、どっちにしようかしらね。人数は偶数だしチーム戦でもいいけど……あれ? 哨ちゃんはどこ行ったの?」
「あれ? ほんとだ。いないね。哨ちゃん? 哨ちゃーん?」
……本来なら逸れたかと心配するべきだろうが、哨はしっかりしてるから逸れるとも思えない。何をしているかは何となく想像つくな。
「あー、多分向こうに付いて行ったんだろ。流石に哨も邪魔はしないだろうし、多分気にしなくていいと思う」
「それ大丈夫なの? まぁ、雷人が大丈夫って言うなら信じるけど……そうなると人数が奇数だし、今回は個人戦にしましょうか」
フィアの言う通り、二チームに分けてしまうと人数に差が出てしまう。
この競技だと人数の差は確実なアドバンテージになってしまうし、無理にチーム制にする必要もないだろう。
「それでは、他にご質問が無ければ、まずは五分間ホバーシューズに慣れて頂いて、それからのスタートになりますが、何かございますか?」
「質問……能力の使用は大丈夫ですか?」
「大丈夫ですが……施設に被害のないようにお願いします。それと、能力の使用などお客様の過失で怪我をされても責任を負いかねますのでお気を付け下さい」
自己責任ね……まぁ、そりゃそうか。元よりそんな危険な事をするつもりはないからいいけども。
しかし、能力使用可でこの内容ならフォレオに有利なのは間違いなさそうだ。
そんな事を考えつつも全員ホバーシューズを履いてコートの中へと入って行く。
さすがはアトラクションの一つというだけあり、ホバーシューズの扱いはさほど難しくはなかった。多少体幹は必要そうだが、これなら問題なく動けるだろう。
どうやら他の皆もホバーシューズの扱いには慣れてきたようで、スイスイと動きながら水鉄砲の試し撃ちをしている。
そして、四分ほどが経った頃、特に示し合わせたわけでもなかったが全員が中央付近に集合すると、芽衣がその場でくるくると回ってはしゃぎだした。
「これ、滑ってるだけでも結構楽しいね!」
「そうですね。少しバランスをとるのにコツが要りますけど、アトラクションなだけあって難しいというほどではないみたいです」
「うん。皆が楽しめそうで何よりだわ。そういえば、能力使用可って事だったけど武器はただの水鉄砲なのよね。防ごうと思えば簡単に防げちゃうし、ある程度ルールを決めた方がいいんじゃないかしら?」
「うちはそれで構いませんよ。水がたくさんあるここはうちのホームグラウンドと言っても過言ではありません。多少のハンデはないと公平じゃないですからね。ふふふふふ」
そんな事を言いながら余裕の笑みを浮かべるフォレオ。
あんまり調子に乗ってると狙い撃ちされても知らないぞ?
「ルールか。禁止事項を作るとしたら……面による防御の禁止とかか?」
「そうね。雷人みたいな能力でベストを守られちゃ、水鉄砲じゃどうしようもないものね」
「それと……水を干上がらせるような行為だな」
「……え、もしかして私!? 私そんなことしないよ! もー! お兄ちゃんってば!」
俺がじーっと視線をやると自分の事を言われていると気付いたらしく腕をブンブンと振って抗議してくる芽衣。
いやだって、やりかねないだろ? という視線を返しておく。
「後は当然の事ではありますが、怪我をさせる行為の禁止ですね。そのくらいで大丈夫でしょうか?」
「そうね。基本的には各個人のマナーに任せるって事で、それで行きましょうか」
全員が頷き自然と後ろに滑って距離を取る。
それを見計らったかのように係員の女性がタイミングよく腕を上に挙げた。その手にはピストルが握られている。
「それでは皆様、準備はよろしいですか? それではいきます。よーい!」
パンっという乾いた音とともに全員が動き出した。




