5-45 初めて着たんだけど……似合ってるかしら?
どうやらここの施設は水の遊園地というだけの事はあり、中にあるのはプールだけではなく、様々なアトラクションなどもあるみたいだ。
入場ゲートを通った後はすぐに更衣室になっており、どうやら施設の中では常に水着でいることが普通みたいだ。
今回は初めて別の惑星に来たからな。常識の違う部分とかがさっぱり分からない。外の事に詳しいフィア達がいないと色々と不安だな……。
更衣室で水着に着替えた俺と空は消毒や汚れを落とすためと思われるシャワーの道を通らされ(地面は水平型エスカレーターだった。動く床と言うべきか?)、強力なエアーブロウで乾かされるとようやく俺達は施設内に入ることが出来た。
「おぉ、なんていうか圧巻だな」
「ほんとにね。僕達と大差ない見た目の人が多いけど、何割かは全く違う外見してるよね。やっぱり、ホーリークレイドルに人型の宇宙人が多かっただけなのかな?」
空の言うように獣人だったり、体の一部が違うだけでほとんどフロラシオン人と変わらない者もいれば、体が不定形だったり、腕や足が何本もあったり、虫みたいな見た目だったり、何とも形容しがたい姿の者達もいるようだ。
こうしてると久しぶりに宇宙に出て来たって感覚を味わえるな。
「これだけの他種族がいて問題なく過ごせてるっていうのも結構凄いことなのかもな。慣れればそうでもないんだろうけど、さすがに初見だと抵抗があるぞ……」
「まぁ、ここは観光業が盛んな惑星でいろんな星の人達がいるのが普通だもの。来てる人達もそんなのは承知の上だから、全然問題にもならないわ」
空に言ったつもりだった言葉に対する後ろからの返答に、俺と空は振り返った。
すると、水着姿のフィアが後ろに立っていた。
「ふふ、お待たせ。どうかしらこの水着? 初めて着たんだけど……似合ってるかしら?」
フィアに言われて視線を顔から下に落とす。
その恰好をパッと答えるのならビキニパーカーという事になるのだろうか?
プールだというのになぜかいつもと同じでマフラーを巻いているし、パーカーを着ている分露出は少なくなってしまっているが、何かグッとくる。
あれか? 露出が減った分、露出部分が強調されているのだろうか?
何にしても可愛い。しかも、なんとそれだけではない。
ビキニの上部分は胸の上の辺りに輪っかが付いていて、それに紐が結ばれる形でクロスしており、その所為かどことなく胸が寄せてあげられているような気がする。
元からフィアの胸は小さくはないが、より強調されている感があって油断すると視線が谷間に吸い寄せられる。
加えて下部分については紐だ。そう、紐で止めるタイプの水着なのだ!
まさか、フィアがこんな大胆な水着を選んでくるとは想定外だった。
それだけではない、なんと色は黒色なのだ!
攻めている。誰が何と言おうと、これは間違いなく攻めている!
そんな考えが脳裏を駆け巡った結果、俺の口から出たのは端的な言葉だった。
「凄く、可愛い」
そう言った瞬間、フィアの顔が一瞬で赤くなった。
漫画だったらボッと効果音が付きそうな感じだ。
するとフィアはそのまま視線を横に逸らし、指で髪を弄りつつ小さな声で何か喋り始めた。
「そ、そう? 可愛いかしら、ふーん……。雷人もその、か、カッコいいわよ、うん。スラッとしてるし、筋肉も程よく付いてるわ。最近訓練を頑張ってる証拠ね」
一瞬水着を褒めるんじゃないんかいというツッコミが頭を過ったが、よくよく考えてみれば自分も可愛いとしか言っていない。
これ、水着は褒めれてないな。
そう思ったので、俺は口を噤んだ。
「そうか? そう言ってもらえると嬉しいな。ははは、それにしても唯も随分と大胆なのを薦めたんだな。まさか紐のやつを着てくるとは思わなかったからびっくりしたよ」
「え、これ……大胆だったかしら? あぁ、紐ってこれのこと? 確かに紐だと解けちゃいそうだし危ないかなって気はするけど、それについては大丈夫よ。ほら、これって二重に穿いてるの。だからもしも紐が解けたとしても、下にもう一枚あるから問題ないわ」
そう言ってフィアが指差す先を見ると確かにもう一本腰に掛かるラインが見えた。
こ、これはまさか、レイヤードってやつか!
両方黒だったから分からなかったが、よく見てみれば確かにそうだ。
二重になっているという意味では防御力は上がっているのかもしれないが、その影響なのか上に重なっている方は結びが紐だし、下の方は紐を結んでいるわけではないみたいだが面積が小さいし横のラインが細い。
これはこれでグッとくるデザインだ。
唯、あんなに大人しそうな顔をしてるのに、なかなか凄いのをぶっこんでくるじゃないか!
「なるほどな。うん、全体的に水着のチョイスは凄く良いと思う。フィアにめっちゃ似合ってる。唯のセンスはさすがだな」
「ほんと? そう言ってもらえると嬉しいわ。実はこの水着は私が自分で選んだの、えへへ」
そんな事を言いながら恥ずかしそうに笑うフィアに、俺は先ほどのフィア同様に顔を真っ赤に染めることになった。
選んだ本人に言っていたと思うと、なぜか恥ずかしくなってくる。
やばい、顔が熱い。赤くなってないだろうな……。
「あ、そうなのか……。それはその、なんて言うか……。そ、そういえば、水着でもそのマフラーは着けてるんだな!」
「え? あぁ、これ? なんていうか、これを巻いてると落ち着くのよね。……やっぱり変かしら?」
「あ、いや! えっと、まぁ変わってるとは思うけど、大丈夫。可愛いから問題ない」
「……ふふ、それなら良かったわ」
頭の中を何言ってんだ俺! という言葉と、いや言うべきだっただろ! という言葉が乱れ飛んだ。
そんな、二人がなんとも言えない雰囲気になっている中、空は二人に聞こえないようにボソッと一言呟いたのだった。
「……もう付き合っちゃいなよ」




