5-43 訓練を終えたらリフレッシュしよう!
俺達が訓練室に到着すると、そこにはすでに皆が並んで待っていた。
その中へと軽く頭を下げながら入って行く。
「すみません。遅くなりました」
「待たせちゃってごめんね」
すると唯がこちらに軽く手を振りながら微笑んだ。
「いえ、こっちも訓練はさっき終わったところです。大丈夫ですよ」
「何ならもう少し休んでいたかったくらいだよね」
いつも通りの調子でそんな事を言う空にノインさんが溜め息を吐いた。
「空はもう少し頑張った方が良いと思うのですよ。まぁそれは置いておいて、シノはどうしたのです?」
「アセシノさんなら先に出て行きましたけど、今いないなら多分こっちには来ないんじゃないですか?」
「シノはなんだかんだで忙しいんだし、無理もないんじゃないかしら?」
「そうですか。顔くらいは出して欲しかったものですが、こちらもいきなり頼んでしまいましたししょうがないですね。それじゃあ、とりあえずこれで皆集まったのですよ」
ノインさんが皆を見渡しながらそう言うと、パンッと拍手のいい音が部屋に響き、皆の視線がそちらへと集中する。
「皆、訓練お疲れ様かな。普段の訓練と比べるとかなりキツイ訓練だったはずだけど、皆最後までよく頑張ったかな」
「おうおう、最初は根性足りない奴ばかりだったが、全員少しは根性のある面構えになったぜ。これでこれからどんな敵と戦っても上手くやれんだろ!」
「はぁ、この訓練だけでそこまでいけたら苦労はないのですよ。とはいえ、皆訓練の前とは見違えるほどに成長したのは間違いないのです。それでも、あなた達がひよっこだってことは何も変わっていないのですから、今回の訓練で学んだことを忘れずに、日々努力することが大切なのですよ」
「うん……。でも、頑張り過ぎちゃうのも良くない……から、明日はゆっくり休むと良いよ」
「そうそう、どこか遊びにでも行ってくるといいかなぁ。というわけで、訓練はこれでおしまい。私達もそろそろ仕事に戻らないといけないから、またしばらくは面倒見れないけど、困ったら気軽に相談するかなぁ」
マリエルさんの言葉に俺は一歩前に踏み出した。
今回の訓練は確かにいつもよりもキツかった。
でも、それは俺達のためを思っていたからこそだ。
それに、マリエルさんと戦った時、マリエルさんからの期待を感じた。
フィアを守って欲しいというその期待を。
俺は全力でそれに応えたい。
そして、そのための一歩を示してくれたS級社員の皆への気持ちは、この一言に集約される。
集まる視線の中、俺は深々と頭を下げた。
「ありがとう、ございました!」
「ありがとうございました!」
俺の声に続く形で皆の声が響いた。
見るまでもない。そのお辞儀は、きっと綺麗に揃っていた。
顔を上げるとS級社員の皆が前を歩いていく姿が見えた。
右拳を上に挙げながら歩いていくエンジュさん。
若干顔を赤らめ、前を見ながらも尻尾をゆらゆらと揺らしているノインさん。
恥ずかしそうに胸の辺りで小さく手を振っているルイルイさん。
そして、屈託のない笑顔で顔の近くで手を振るマリエルさん。
全員が部屋の外へと出ていくと、部屋の中が一瞬静まり返った。名残惜しさを感じているのだろうか、皆がドアの方を見つめていた。そして、その空気を割くようにフィアが声を上げた。
「よし! 皆凄く訓練を頑張ったんだし、明日はどこかに遊びに行きましょ! 皆、どこか行きたい場所はある?」
「そうですね……。そろそろ暑くなってきましたし、皆でプールなんてどうですか?」
「プール! ……プールって何?」
唯の言葉にシルフェが元気よく反応するが、すぐに首を傾げた。
シルフェの故郷にはプールは無かったんだろうか?
「プールって言うのはあれだよ。人が入るように水を溜めた遊ぶための場所の事だよ」
「水浴び場みたいなものなんだ! 空は物知りだね! プール! プール!」
「ふふふ、水場ですか。それならうちの独壇場ですね。いいでしょう。 うちの能力フル活用で楽しませてあげます」
「ちょっと、フォレオ? 行くのは公共の場なんだから、周りに迷惑かけちゃ駄目だからね? でもいいわね。それじゃあそうしましょうか!」
皆が疲れを吹き飛ばさんとばかりにはしゃぎ始める。
プールか、そういえば長いことプールなんて行ってなかったな。
それにしても、プールとなると必然的に水着だよな。
この女子率の高さを考えると健全な男子高校生としては心が落ち着かないな。
……ん? ちょっと待てよ。
普通の服も持っていなかったフィア達が水着なんて持っているのか?
「あれ? どうしたんですか、雷人君。浮かない顔をして」
「いや、皆はしゃいでるけど、フィア達って水着は持ってるのかなと思ってな」
「はっ、それは確かにそうですね……。あの、皆さん水着は持っているんですか?」
「……水着? 水着って何?」
「……うちはほら、水に濡れたところで一瞬で乾かせますし? 濡れても問題ありませんから」
「あー……それは、考えてなかったわ」
案の定と言うか全滅だった。
明日行くのに今持ってなくて大丈夫か?
俺は確か……昔使ってたのがどこかに仕舞ってあるはず……。
「それではせっかくですし、これから皆で買いに行きませんか?」
「そうするしかないわね。ねぇ唯、自分じゃあんまり自信ないし、意見をもらってもいいかしら?」
「そうしましょう。でも雷人と空は付いて来ては駄目ですよ! こういうのは当日まで秘密というのが定番ですから」
そんなフォレオの言葉にシルフェが不満そうな顔をした。
「えー? 空に選んでもらっちゃ駄目なの?」
「あはは、僕はサプライズの方が嬉しいかな」
「ふーん、そっか、それじゃあ頑張って選ぶね!」
空は上手いこと躱したな。漫画とかならこういう水着を一緒に選ぶみたいなイベントもありなんだろうが、現実でいうと女子多数の状況で水着ショップに行くのは精神的にちょっとキツい。時間も余計にかかりそうだしな。
「私達が選ぶんだから、雷人達もちゃんと買いに行きなさいよ?」
「え? あー、そうなるのか? 分かったよ。じゃあ、どんなのを選ぶのかはお互いに明日のお楽しみってことで」
「それじゃあ一旦解散ですね。時間もあまりないですから、早く行きましょう」
そうして俺達は解散し、男女で別れて水着を買いに行ったのだった。
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