5-40 超絶怒涛の大暴投
「おほん、話が盛大に逸れてしまいました。私の能力については今はどうでもいいのですよ。とりあえず取り出した大剣を……円環剣舞」
ノインさんが呟くと大剣が円環を為すように周囲をくるくると回り始める。
その様子はただ回っているだけの俺のものと比べ、一糸乱れぬ芸術と言ってもいいような回転を見せ、いつの間にか置かれていた金属の塊に向かって飛ぶとそれをまるで豆腐でも切るかの様に切り裂いた。
「おぉ……」
「どうです? 何か分かったですか?」
「何と言うか、それぞれが乱れなく精密に動いている感じがしました」
「ふむ、それじゃあ次は雷人の物とぶつけてみるのですよ。武器の差と言われるのは癪なので、私の分も用意するのです」
「あ、はい」
そして、作り出した二十本の大剣を半分に分け、互いに回してぶつけてみる。
すると俺の操作する大剣だけが見事に切り裂かれ、ノインさんが操作する大剣はほとんど無傷に近い状態で変らず回っていた。
「え!? 何でここまでの差が……」
「分からないですか? さっきも言ったように雷人は操作が雑なのですよ。いかに武器が良いものでも、適当に振り回していればただの金属の塊と何も変わりはしないのです。剣を当てる時の角度、場所、タイミング、当たる瞬間のインパクト。様々な要素を緻密に制御することで漸くその性能が十全に発揮されるのですよ」
「それでこんなに違いが出るんですか?」
「その通りなのです。というわけで、ここからはみっちり鍛えてあげるので覚悟するのですよ!」
そう言って胸を張るノインさん。
正直大剣を作って動かしても大して使えないなぁと感じていたのだが、これだけ変わるというのなら鍛える価値は十分にある。
そうとなればコツを掴んで、実戦で使えるレベルに引き上げないとな。
その時、お手本を見た俺はやる気が満ち溢れてくるのを感じていた。
「よろしくお願いします!」
そしてそれから三日間、俺は休む間もほとんどない鬼トレーニングを重ね、そして最終日。
「はぁ、はぁ、さすがに、もう無理です……」
「うーん、緻密に動かせるのは精々三本ってところですか。まぁ、そうすぐに出来たら苦労はしないのです。私が教えるのはここまでですが、これからも精進するのですよ」
「はい、ありがとう、ございました」
疲労がピークに達していた俺は壁を背に座り込みながらノインさんにお礼を告げた。
そのまましばらく休んでから行こうと思い座っていると、何やらノインさんが立ち去らずにこちらを見ているのが目に入った。
「えっと? どうしたんですか?」
「……いえ、あなたにはもっと強くなってもらう必要がありますですし、せっかくですから私の奥義を見せてあげようかと思いまして」
「奥義、ですか?」
「そうなのです。とは言っても参考にはならないかもしれませんが」
そう言って異次元空間から薙刀を一本取りだすノインさん。
奥義か。マリエルさんが最後に見せてくれたあれみたいなものか?
……ちょっと興味あるな。
「それでは行くのです。……好物収集、神通力」
ノインさんの言葉とともに周囲の空間の至る所から槍が飛び出し上空をぐるぐると回り始めた。相変わらずのとんでもない数、圧巻の一言だな。
「思考加速! 集え! 集え! 力を結集し大いなる力と為すのです!」
ノインさんの言葉と共に上空を回っていた槍の動きがより精密になっていき、その動きがどんどん一つとなっていく。
「武装強化!」
そしてそれらは寄り集まってまるで巨大な槍のようになり、それはキラキラと光輝いて……ん?
よく考えたら今って仮想訓練じゃないよな?
こんな大技を使ってもいいのか?
確かここは普通の訓練室ではあるけど、空間拡張されて作られた部屋だったはず。そしたら外には影響ないのか?
うーん……一応聞いておいた方がいいかな?
「ノインさん! それってここで使っても大丈夫なやつですか!?」
「撃滅の神槍……ルぁああ! しまったのですぅ!」
「え?」
「と、止まるのですよおおおおお!!」
悲鳴のようなノインさんの声が響き渡るが、勢いのついた車は急には止まれないと言うか、本来ならカッコいい技であったはずの撃滅の神槍はその制御が乱れて形を崩しながらも入り口の扉に向かって一直線に向かっていった。
そして、涙目のノインさんともども壁が盛大に破壊されるのを予期した次の瞬間。
「イグニス・エクステンション!!」
突然吹き荒れた炎によって大量の槍は吹き飛ばされ、方向を見失って周囲の壁にガスガスと突き刺さっていった。
吹き荒れる熱風から顔を守り、収まったのを確認して入り口を見るとそこには根性男ことエンジュさんが殴った後の様に拳を突きだして立っていた。
「たくっ、ノイン! お前何やってんだよ! 入り口に向かってあんな大技撃ったら駄目だろ!」
「あぅ、ご、ごめんなさいなのです。仮想空間と勘違いしてやってしまったのです……」
「はぁ? あぁ、おい泣くなって」
「うあああぁ……ご、ごめんなさいなのですぅ」
「あぁはいはい、もういいから。な? ミスくらい誰にでもあるし、今回は偶々俺が来たから良かったじゃねぇか。ほら、問題ねぇよ。な?」
「ぐすっ、ありがとう、なのです……」
泣きじゃくりながら謝るノインさんをエンジュさんが困り顔で慰めていた。
普段は根性根性言っているから変人にしか見えないが、こうしてみるといいお兄さんと妹って感じだな。
さっきの技を見てなかったらもう少しほっこり出来たんだが……。
「……がんばろ」
自身を遥かに上回る力を前に、俺はただそう呟くことしか出来ないのであった。
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直近の話について
アセシノのちゃんとした登場とノインの能力説明などなど、なかなか設定が盛りだくさんでしたね。
キャラクターも大分増えてきましたが、残念ながらまだまだどんどん増えていきます。覚悟して下さいね!
それにしても、最終的なキャラ数を思うと我ながらソシャゲかよって思ってしまいますが、基本的にはその章内だけ覚えておいてもらえれば大丈夫です。
後はうっすらそういえばこんなキャラいたっけ、程度に覚えて頂けたら幸いです。
もっとも、異星ありの話とした段階で最低限にしても相当数増えるのは確定していたんですけどね。
あはははは……。




