5-39 九尾巫女の能力
とりあえず、S級社員の皆さんが時間を取れる期間に限りがあるという事でそれぞれが三日ずつの訓練を行ってくれることになった。
人数の関係で場合によっては二人同時に行うようだが、どうも俺には一対一で教えてくれるようだ。
ありがたい話ではあるのだが、もしかしてそれだけ手が掛かるという事か?
「というわけで、まずは私が訓練してあげるのですよ」
「よろしくお願いします」
まだ少し実戦訓練の時のことを気にしていそうな雰囲気がノインさんから感じられたので、面倒なことになる前にしっかりと頭を下げる。
それを見て機嫌をよくしたのかノインさんが鼻を鳴らした。
「ふふん、雷人には足りないところがまだまだたーくさんあるですが、今回鍛えてもらうのは武器の操作なのです!」
「武器の操作?」
「そうなのですよ! あなたの武器操作は正直に言って雑の一言なのです。例えば、あの円環剣舞とかいう技。操作を簡略化するために半自動的に回すのは悪くないですが、全てにおいてあれではナンセンスなのです」
「えーと……つまりどうすればいいんですか?」
「そうですね……それじゃあ、まずはお手本を見せてあげるのです。……好物収集」
ノインさんがそう呟くと空中に空間の歪みのようなものが無数に現れ、それぞれから様々な見た目の大剣が飛び出してきた。
それを見て俺は疑問を思わず口にしていた。
「……あれ? 今って異空間収納から出しました?」
「ん? 違うのです。これは私の能力の一つ、好物収集なのですよ。私が武器として見たことがあるものなら何でも出せる能力なのです」
……まぁ、何となく想像はしていたのだが言わせて欲しい。
何だそのチートみたいな能力は! ていうか訓練の時に見たあの膨大な数の槍、あれ全部過去に見たことのある槍なのか?
どうしたらあんな数の槍を見ることになるんだよ。
もしかして、戦争帰りだったりします?
「……てっきり空中から出すのは異空間収納で、そっちの能力は地面からしか出せないものかと思っていたんですが」
「決めつけはよくないのです。死ぬですよ?」
「ははははは……気を付けます。その能力、武器を出せるだけでも凄いですけど、その操作まで出来るなんてとんでもなく便利な能力ですね」
「あぁいや、これはあくまで武器を出す能力で動かしてるのはまた別の能力なのです。神通力、物を自在に動かせる力なのですよ」
我が意を得たり? さっきの宝物もそうだけど、なかなか変わった名前の付け方をするんだな。
意味的には合ってるからいいんだろうけど、確か危険予知の能力も持ってたよな?
え、能力が三つ?
複数の能力持ちなんて聞いた事がないし、この二つは指輪の能力ってことか?
「それって指輪ですか? いい能力ですね」
「ん? 指輪の力じゃないのです。これは私の力なのですよ」
え? 私の力?
まさか本当に複数の能力を使えるって言うのか?
……もしかして、宇宙には複数の能力を使える人もいるんだろうか?
俺が知らないだけで世界……宇宙は広いってか。
「え……因みに他にもあったりするんですか?」
「他なのです? そうですね……後は思考加速、思考を加速させて短時間でたくさん考えられるようになる能力があるのです。これがあるからたくさんの武器を一気に精密操作出来るのですよ」
……またとんでもない能力が出てきた! って言うか、時を我が手にて!
やっぱり名前は変だが……何か地味にカッコいいな、おい。
……いや、そこには突っ込まないでおこう。
ノインさんが怒る姿が目に浮かぶ。
それにしても、思考加速って! 思考加速って!
誰もが一回くらいは憧れる能力の一つじゃないか!
何だよ! 危険予知に武器生成に念動力、果ては思考加速って! どこのチート主人公ですかあなたは!
「……マジですか」
「後はほら。私は狐人族ですから一応は狐火、炎を出す能力だったり、変化、体を別のものに変える力もありますが、私はこの辺りは苦手なのでほとんど使わないのですよ」
……狐火は分かるが、体を別のものに変える能力名がお色直しって、まぁいいや。
それにしても、もしかしなくてもあれだな?
訓練の時は武器生成と念動力以外は能力を使ってなかったみたいだし、とんでもなく手加減されてたな?
……なんか課題クリアしたのを素直に喜べなくなってきたな。
「……」
「何ですかその顔は? あ、やっぱり能力の名前が変とか言うのです? 今更言われなくても分かっているのです! 変わっているというのは耳タコなのですよ!」
あ、自覚あったのか……。
てか、めっちゃ言われてたのかよ。
「いや、まぁそれも思いはしましたけど、そんなに能力が使える人なんて初めて聞きました」
「ん? あぁ、そっちですか。ウルガスにもはっきりとは分からないことみたいなのでちゃんとしたことは言えないですが、狐人族は尻尾の数が多いほど凄い才能を持っているとされているのです。私は九本ですが、何でもこれは歴代でも一番多い本数らしいのです。だから、多分私が特別なのですよ」
「なるほど? ノインさん、とんでもなく凄い人だったんですね」
「……まるで、今まではそう思っていなかったみたいな言い方なのですよ」
やばい。言い方をミスったな。
機嫌を損ねると後が面倒臭そうだし、ちゃんとフォローをしておかないとな。
「あ、とんでもない。元から凄いと思ってましたけど、さらに尊敬したってことですよ」
「……まぁいいのです」
満更でもない顔してる。
この人ちょろいな。騙されたりしないか心配になる。




