1-26 ナンバーズ
週が明けて月曜日、教室にはぐでーと机の上に突っ伏している二人の姿があった。
「おいおい、二人してどうしたんだよ。あれか? ナンパに失敗したのか? しょーがねぇなぁ。隼人さんが慰めてやるから元気出せって」
隼人の若干イラつくいじりに対して、二人とも少し顔を上げるのが精一杯だった。
「そんなんじゃない……。ちょっと運動し過ぎて疲れただけだよ」
「そうそう、だからね。今筋肉痛がひどいんだ……動きたくない」
空もどうやら大分しごかれたようだな。マリエルさんも甘くはないらしい。まぁ、フィアの師匠なんだから当たり前か……。
「何だよ。だらしがねぇな。普段から動いておかないからそんな事になるんだぞ? おっ、朝賀ちゃんじゃん。おっはよー!」
隼人の視線の先を見ると朝賀さんが心配そうにこっちを見ていた。
こちらに近づくかどうか窺っている様子は、小動物を想起させるな。
「おはよう……ございます」
「おはよう……」
「おはよう、朝賀さん」
……そういえば、あの後朝賀さんに連絡してなかったな。
いや、そもそも連絡先知らないけどさ。
何か気まずい雰囲気が感じられる。
とはいえ、朝賀さんはこの件には巻き込みたくないし、どう説明したものか。
「こいつらばっかだろー。運動のしすぎで筋肉痛だってさ。今日は半年に一度の定期測定の日だってのにな」
「定期測定……?」
あぁ、そういえばそんなものもあったな。
正直あまり興味が無いので頭からすっぽ抜けていた。
でも良い感じに話が逸れた。
隼人に聞かせるわけにもいかないし、朝賀さんには後で話す事にしよう。
「そっか、朝賀ちゃんは来たばっかりだから知らないよな。この学校……というか島の学校全部なんだけどな。やっぱり国が管理してるものだからさ。定期的に能力の発達状況を調べてるんだよ」
「それが定期測定ですか」
「そうそう。それぞれ能力ごとに測定して、発達度合いでレベルがつけられててさ。過去のデータを元にどのぐらい発達してるかを専門家が判定したり、血液を採取して研究に回したりとかしてるんだってさ。で、この学校じゃこれの結果の上位者が毎年発表されてるわけ。中でも男女の上位各五人はナンバーズとか言われてるんだよ」
「ナンバーズ……ですか?」
朝賀さんの眉がピクリと動いた。
まぁ、ちょっと気が引かれる響きなのは分かる。
ナンバーズって何かカッコいいよな。
「あ、やっぱり気になる? ではでは! 自称情報通こと隼人さんが教えてしんぜよう」
「自称なのかよ」
しまった。ついツッコんでしまった。
調子に乗らせると面倒臭いから反応しないつもりだったのに。
「そう! 全ては自称からスタートするのさ! まぁ、とりあえずそれは置いといて……、諸君これを見たまえ」
そう言うと隼人は机の上に九枚の写真を広げた。
男子が四人、女子が五人の九人分だ。
「おい、盗撮かよ」
雷人がジトっとした目で見るがそんなのはどこ吹く風、隼人は少しも気にしていない様子だ。両手でそれは置いといてとジェスチャーをした。
「この写真の九人がナンバーズというわけさ!」
それに対して朝賀さんが可愛らしく首を傾げた。
「あれ? ナンバーズは十人なんじゃ、っていうかこれ……」
「いやぁ、残念ながらあと一人は見つからなくてなー。そして気付いちゃったね? そう! 何を隠そうこの二人はナンバーズなんです!」
「あはは、そんなに大したものじゃないけどね」
「ナンバーズになっても何か特典があるわけでも無いし、それほど嬉しくもないしな」
まぁ、卒業後に特殊治安部隊に入り易くなるという噂を聞いた事があるが、あくまで噂だし、皆が皆入りたいわけでもないからな。
しかし、朝賀さんは驚いた表情をして目を輝かせた。
「すっ、凄いですよ! ここは確か一番の学校なんですよね? それってつまり、この世代でトップクラスって事ですよ!」
「その通り! 男子の中じゃ空が四番、雷人が三番。いやぁ友人として鼻が高いぜ」
隼人がそんな調子で話すので、空と雷人は呆れ顔をした。
「何でお前が誇らしげなんだよ……。しかし、他のメンツは見た事がないな。集まりとかがあるわけでもないし、どんな奴らなんだ?」
「よくぞ聞いてくれた! まずは女子の五番手、御嵩花南! よく分からんが周囲の物を自在に操れるらしいぞ。範囲が狭い代わりに出力が結構高くて、パワーに関しちゃそこらの凡庸な念動力使いじゃ全く歯が立たないらしい。詳しくは知らん。次は四番、天音光葉! 知る人ぞ知る生徒会の会計だ! 生徒会長につきっきりらしいぞ。出来てるのかもしれないな。生徒会長爆発しろ! ……能力は光の操作だそうだ。詳しくは知らん」
「詳しくは知らないばっかりだな」
雷人の小言は聞こえないかのように無視して隼人は紹介を続行する。
「お次は三番、五郭心! いつも表情の変化が乏しい子だけど、実は隠れファンが多い! 能力は感覚系に関わるものらしいが、滅多に使わないらしいから詳しくは知らん! 続いて二番、天衣花蓮! この人は有名人だな。お嬢様口調のいかにもな優等生だ。ルックス、頭脳共に良しのまさに高嶺の花! 瞬間移動の能力を使うらしいが詳しくは知らん!」
「ちょくちょく要らない情報混じってないか?」
「重要だろーが! ラスト一番、剱持祭! 常にぶかぶかの服を着てる小さい子だ! 金髪に黒色のメッシュを入れてて、カッコ可愛いんだよなぁ。あと見た目通り態度は別に可愛くないぞ。怒らせなきゃ怖くはないみたいだけどな。能力はシンプルな念動力。五番の花南ちゃんみたいに範囲は狭くないのに出力もダントツで強いらしい。まぁ上位互換って奴だな。その力の大きさに世代最強かもしれないと囁かれているらしいぞ」
「へぇ、確かにどこかで聞いたような気がする奴らだな。まぁ関わる事も無いと思うが」
「それで男子の方は……?」
「そうだよな。気になるよなぁ? 朝賀ちゃんも強い奴の方が良いよなぁ」
「あ、別にそういうわけでは……」
「とりあえず分からない奴が五番で二人が三、四ね。あとは波島誠也、つまり生徒会長が二番だな。この人は波島財閥の御曹司だから金持ちだぞ」
「会長が御曹司!? それは知らなかった……というかいきなりテンション下がり過ぎだろ」
「だってなー楽しくないもんなー。ラストはあれだ。嵐山風人。ザ・優等生の真面目君だよ、きっと。眼鏡してるし、見た目からしてがり勉君だろうからな。能力は平凡な風の操作なのに、剱持さん同様最強なのではって囁かれてるよ。いじょーーー、終わり終わり」
「露骨に不機嫌になるなよ……。あっ、先生来たぞ。朝賀さんも席着かないとチョーク飛んでくるよ。……朝賀さん?」
朝賀さんは口に手を当てて、ブツブツ何かを小声で言っているようだった。改めて名前を呼ぶとようやく気付いたようで、
「えっ? あっ、はい。そうですね。席に戻ります」
と言って席の方へと早足で歩いて行った。




