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SSC ホーリークレイドル 〜消滅エンドに抗う者達〜   作者: Prasis
フロラシオンデイズ 第五章~クレイドルガーディアンズ~
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5-37 何気ない日常を噛み締めて2

「雷人君……」


「あ、悪い。とりあえず皆の所にお茶を持っていくか」


「……そうですね。よいしょ、きゃっ!」


「唯!?」


 その時、お茶の入ったグラスを載せたお(ぼん)を持ち上げ歩き出そうとした唯がキャビネットに足をぶつけて(つまづ)いた。

 俺は咄嗟(とっさ)に投げ出されたグラスをカナムで受け止めつつ、唯を()きとめた。


 セ、セーフ。

 何とかお茶も(こぼ)れなかったし、唯も転ばずに済んだ。


 全く、能力さまさまだな。

 俺が能力者でなければ床はびちゃびちゃ、コップは割れて、最悪(ゆい)と一緒に倒れ込んでしまっていたかもしれない。


 そう考えながら抱きとめた唯を見ると、唯は転びそうになったのが()ずかしかったのかやんわりと顔を赤らめて目を()らした。


「えと、すみません。ありがとうございます」


「あ、いや。大丈夫だったか? 足は怪我(けが)してないか?」


 唯の体を起こしながらそう聞くと、唯はぶんぶんと手を振り、グッと力こぶを作って見せた。


「だ、大丈夫です。最近は(きた)えていますから、かなり丈夫(じょうぶ)になっているんです」


「ならいいんだが、(いく)(きた)えていても足の小指とかはぶつけると本当に痛いからな……」


「あはは、そうですね。気を付けます」


 少し(もう)(わけ)なさそうに笑う唯とともに慎重(しんちょう)にグラスを運んで皆にお茶を配ると、俺達はご飯の準備に取り掛かった。


「さてと、じゃあ何を作るかな。唯はどんなのがいい?」


「えっと、献立(こんだて)はもう決めました。オレンジを使ったカマンベールの冷製サラダパスタを作ります!」


 さっきまでの(さび)しげな表情はどこかに消え、張り切ってますといわんばかりにガッツポーズをして見せる。しかし、そんな唯とは対照的(たいしょうてき)に俺は誤魔化(ごまか)し笑いをしていた。


「……唯、張り切ってる所(わる)いんだけど、うちにはカマンベールチーズなんておしゃれな物はないぞ」


「大丈夫です! こんなこともあろうかと、材料はここにあります!」


 そう言いながら唯が自信満々(じしんまんまん)に異次元空間からバッグを取り出した。


 何とも用意がいい。

 元から今日は作ってくれるつもりだったってことか?


 何にしても唯がせっかく頑張ってくれているのだ。

 失敗しないように気を付けないとな。


「用意がいいな。よし、それじゃあ何からやってく?」


「えーっと、まずはこのパスタをたっぷりのお湯で()でていきます。この時にお湯に塩を加えるんです」


「ふんふん、パスタを()で……、あれか、パスタって言ってもマカロニみたいなやつなんだな」


「はい。リガトーニっていいます。それを()でている間に材料を切りましょう。オレンジは輪切りにした後二等分に、カマンベールチーズはくし切りにして下さい」


「了解、くし切りだな」


 指示は的確(てきかく)だし、見た感じ手際(てぎわ)も良さそうだ。

 どうやら、唯は料理が下手ではないらしい。


 疑ってはいなかったが、……最近あれがあったからな。

 ちょっと安心した。


「あ、リガトーニが()で上がりました! この時に冷水(れいすい)で冷やすのが大切なんですよ」


「なんだか楽しそうだな」


「へ? あ、そうですかね」


 おっと、つい口に出てしまった。俺の言葉に唯が()ずかしそうに(ほほ)を染めながら笑う。

 いけない、いけない。せっかく楽しんでくれているんだから水を差さないようにしないとな。


「あぁ、いや。()めてるんだぞ? 料理なんて面倒臭いってなる奴は多いからな。ほら、空なんてほぼほぼやらないぞ」


「……そうですね。ありがとうございます」


 ()められるとは思っていなかったのか、少し(ほう)けたような顔をした後、唯はわずかに微笑(ほほえ)んだ。


 うん、緊張しているよりもこうしている方がずっといい。


「よし、切り終わったぞ。次はどうする?」


「あ、えっと、レタスを手で適当な大きさに千切(ちぎ)っておくのと、パスタを加えてオリーブオイルとドレッシングを入れて混ぜます」


「オリーブオイル? 結構本格的なんだな」


「え? あぁ、そうですね。あまり使わない方もいると思いますが、オリーブオイルって結構美味(おい)しいんですよ? 後は、粉チーズと黒コショウを振って……完成です!」


「おぉ……、ちゃんと普通に美味(うま)そうなのが出来た。唯、俺は信じていたぞ」


「あはは、ありがとうございます?」


「さ、皆待ってるからな。早速(さっそく)持っていくとしよう」


「はい。よいしょっ、ふふふ、こういう時には能力があると便利ですね」


 そう言って聖剣を形状変化(フォームレス)で変形させて料理を運ぶ唯。


 果たして料理を運ぶための道具として扱われる聖剣が他にあるだろうか? などと考えてしまうが、そんな野暮(やぼ)な言葉はぐっと(おさ)えて運んだ。


 どうやらレセフィラ・フォシュラの人気曲メドレーをやっていたらしく、興奮冷(こうふんさ)めやらぬといった様子のフィア達に声を掛け、皆で食卓(しょくたく)を囲んだ。


 ……この光景は、いつまで続くか分からない。

 そう考えると、何気(なにげ)なく過ごしていた時間がより(いと)おしく感じられる。


 どうか、もう少しこのままで……。

「面白い」「続きが気になる」と感じたら、

 下の ☆☆☆☆☆ から評価を頂きたいです!


 作者のモチベーションが上がるので、応援、ブクマ、感想などもお待ちしています!


 再びの料理回ですが、さすがは唯ですね。

 食べると気絶するような料理を作るところが全く想像出来ません。


 さて、一先(ひとま)ずバトルパートは終わりましたが修行編はもう少し続きます。


 修行編はいらないって方もいると思いますが、やっぱり全くなしで強くなってしまうというのもどうかと思うので、きっかけの部分くらいはやりたいというのが作者の考えです。


 どうか、今しばらくお付き合い下さいませ。

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