5-32 白銀の決意2
「実は僕の能力は治療じゃないんだよね」
「え? でも確かに治療をしていたじゃないですか」
「……実はね。僕の能力は時間への干渉なんだ。だから、僕がしてたのは治療じゃなくて時間の巻き戻しなんだよ」
「え、時間を操作出来るの? 空凄いんだね!」
「時間って、それじゃあ空はタイムスリップ出来るんですか!?」
空の言葉に唯が呆然とする中、目をキラキラさせてはしゃぐシルフェとフォレオ。
二人に詰め寄られて空は手をぶんぶんと振った。
「まさか、タイムスリップなんてそんな凄いことは出来ないよ! 僕のは単に時間を操れるっていうよりは体の時間に作用してるって感じなんだ。だから、体の時間を巻き戻すことで外傷を無かったことにしてるんだよ」
「えっと、つまり治療の能力と出来る事はほとんど同じという事ですか?」
「いや、厳密には違うかな。僕は治療の能力の人達みたいに体の新陳代謝とか細胞分裂を促進させたり、免疫力を高めたり出来るわけじゃないからね。時間が経ち過ぎてるとダメだし、病気だと治しても時間が経てばまた発症しちゃうからね」
「え? それじゃあどうやって師匠に勝ったんです? 自分の傷を治しながら特攻でもしたんですか?」
「あはは、怖いこと言うね。えーと、簡単に言うと僕は自分の体の時間の流れを早くしたんだ。そうすると僕は他の人の一秒の間に二秒も三秒も過ごせるようになる。今なら本気を出せば五倍くらいまで行けるかな。かなり負担が大きいから気軽には出来ないけどね」
「……と、とんでもない能力を隠していましたね。空自体は大したことはないですが、さすがに五倍速で動かれてはなかなか対応出来るものではありません。……雷人達は知っていたんですか?」
フォレオが驚愕の表情でこちらを見てくるので頷いて見せた。
「そりゃ、俺達は幼馴染だからな。能力の事は知ってたよ。もっとも、空はずっと使ってなかったからな。昔よりも強くなってるみたいだから、今どの程度戦えるのかは知らないが。それにしても、やっぱりフィアも知ってたんだな」
「まぁ、訓練の時にちょっとね。本人が隠してるみたいだったから黙ってたけど。その時は初見だったのもあって私もやられたわ。知ってれば対処のしようもあるだろうけど、知らなければよっぽど実力差がないとあんなの対応出来ないわよね」
フィアがそう言うと、フォレオが口をぎゅっと結んだ。
一方、シルフェは高めのテンションで空に抱き着いてほっぺをすりすりしている。
そんな中、ようやく落ち着いてきたらしく唯が疑問を口にした。
「そんな凄い力があるのに、どうして隠していたんですか? あ……もちろん、答えたくなければいいんですけど」
「……いや、本当はもっと早く話すべきだとは思ってたんだけど、隠してた手前話すタイミングを見失っちゃっててさ、あはは。実は昔色々あってね。僕の力は珍しくて有用だから、目立っちゃうと僕を利用しようって人が出てくるんだよ。だから、危険を避けるために力を偽ってたんだ」
そう、空は過去に能力が原因で事件に巻き込まれたことがある。
だが、そのトラウマに怯えていた空はもういないらしい。
俯いていた空が顔を上げて俺達を見渡した。
「でもさ、今皆は全力で戦ってる。それこそ命を懸けて危険に立ち向かってる。そんな中で、自分だけ力を隠して足手纏いになるのに比べたらさ、そんなの怖くないよ。だから僕は、守るためにこの力を使うって決めたんだ!」
空の覚悟を決めたその表情に皆も真剣そのものといった様子で聞き入り、静寂の時が流れる。
すると、段々恥ずかしくなってきたのか空の顔が真っ赤に染まっていった。
「あ、えっと、そういうわけだから、僕も力になれるっていうか、うわっ!」
「んふふー。空に何かあったとしても私が守るよ。もちろん、皆も!」
その言葉に空が改めて俺達を見回す。
その視線に、俺はもちろん頷いた。そして、フィアが一歩前に出た。
「やっと覚悟が決まったのね、空。あんたはちゃんと強いんだから、もっと自信を持ちなさい。それと、もし誰かが空を利用しようとするなら、その時は私達を頼りなさい。あんた達はもう私達の仲間なんだからね」
「まぁ、そうですね。そんなことは起きないと思いますけど、もしうちの会社に喧嘩を売るような奴がいれば、手を貸すのはやぶさかではありません」
「わ、私は、そんなの関係なくても助けます! だって、皆はかけがえのない友達ですから!」
「ははは、なぁ……空。俺達は良い繋がりを持った。そうは思わないか?」
「……うん、そうだね。皆、ありがとう」
感極まったのか、ボロボロと笑いながら涙を流す空の頭をぐしゃぐしゃと撫で回してやる。
すると対抗するかのようにシルフェもやってきて……ここぞとばかりにフィアとフォレオと唯も参加して空の頭撫で回し大会が始まった。
空の頭が天パなのもあって、時々指が引っ掛かって髪を引っ張ってしまう。
その所為もあって空は涙目だったが、それでも笑っていた。
*****
「はぁー青春かなぁ。私にもあんな時代があったなぁ」
頬に手を当ててうっとりとした表情で空の頭撫で回し大会を眺めるマリエル。
その隣で仁王立ちしていたエンジュは不思議そうに見下ろしながら言った。
「ん? 俺達にあんな時代があったか? あんな頭撫で回し大会を開いた覚えはないぞ?」
「もぅ、そう言うのは無粋かなぁ。ほんと、エンジュはこういうのの理解がないんだから」
「理解がなくていいんじゃないです? 根性馬鹿の青春なんて暑苦しいだけなのですよ」
「だ、ダメだよノイン。あんまり突っかかっちゃ、仲良くしようよ」
呆れたように呟くノインとあわあわとしているルイルイ。
指摘されたノインは仕方なくといった様子でエンジュに話しかける。
「んむぅ……そういえば、エンジュはどうしてフォレオに負けたのです? 条件付きとはいえ、フォレオはまだまだエンジュに勝てるレベルではなかったと思うのですよ」
「ん? あぁ、それはな。開始前に三十秒攻撃していいぞと言ったら口や鼻から水を流し込まれてな。いやぁ、流石に体内からの攻撃はいなし切れずにやられてしまった。でも新感覚でちょっと楽しかったぞ?」
「はぁ? 三十秒のハンデなんて予定にはなかったはずなのです。勝手に何をやっているですか」
再び呆れるノインにエンジュは何を言っているんだと言いたげな顔をした。
「ん? それありきでもノインの方が負けが多いだろ?」
「うな!? この男は……でも言い返せないのが悔しいのです……」
「あわわ、元々上手く行けば勝てるくらいの設定だったし、しょうがないよ。ね?」
「はぁ、二人はもう少し仲良くするかなぁ」
マリエルは溜め息を吐きながらもそんな当たり前を噛み締めていた。
この何でもない日常も、いつまで続くかは分からないのだから。
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空の能力、時間の操作については詳細はともかく、何となくなら予想していた人はいるんじゃないでしょうか?
空の過去、書ける機会があるかは現状不明ですが、それにより空は能力を隠していました。
それを明かすタイミングについては、正直もう少し早くても良かったかなとも思うのですが、完全にタイミングを逃していましたね。あはははは…。
さて、次回はラスト、VSマリエルさんです。
彼女は最初から出ていますが、彼女の能力描写もこれが初となりますね。
お楽しみに!




